オムライスと大林ワールドをめぐる冒険 ~ 『野のなななのか』

2014.05.20 (Tue)


僕の映画の師匠・映画カッパさん「映画的日記」で、
大好きな大林宣彦監督の新作が紹介されていたので、さっそく観に行ってみたよ。

『野のなななのか』っていう作品。

3.11以降、大林監督は自主製作&自主配給的な作り方をしているんだよな。
前回の『この空の花 長岡花火物語』は、オチオチしていたら、
しばらく劇場でもDVDでも観ることができないという状況が続いちゃって、とても困ってしまった。
だから、「今度は、劇場でやるのを発見したら、すぐに行かなくちゃ」って、心に決めていたんだよ。

ネットで調べたら、5月10日から北海道で封切られていて、
実質、5月17日から全国ロードショウって感じ。
僕の近場では、東京千代田区の「有楽町スバル座」か、練馬区の「T・ジョイ大泉」だなー。
同じ日に公開初日で、どっちも舞台あいさつがあるらしいので、
ウチ(所沢)から30分くらいで行ける「T・ジョイ大泉」にしたよ。

5月13日から前売発売開始で、15日にのんびりネット予約を除いたら・・・
あぶねーあぶねー、もうちょいで席がなくなりそうになってた!
しっかり座席指定をして、クレジットカード決済をして、準備オッケー!!



その映画カッパさんの記事を読んだ頃、
Omunaoさんの「オムライスのある風景」で、
東京練馬区の大泉にあるカフェの記事に遭遇。
うまそーなトマトソースのオムライスが紹介されているじゃんか。
「おー、なんという偶然!よし、なら、5月17日に映画を観に大泉に行った時に、この店でオムライスも食ったろ」
って決めたのだ。



オムライス食べて、スイッチ・オン

5月17日(土)は、びっくりするような晴れ!
西武池袋線の上り電車に乗って、いざ「大泉学園」駅へー!

大泉学園へはWEB制作の打ち合わせで何度も来たことがあるけど、
こちゃこちゃしてるはずの北口駅前は、その日はまるでリゾート地のような爽快さだったよ。
気温26~27℃で、めったにない快晴だったからね。

北口の商店街は「ゆめーてる商店街」って言うんだ、へぇー。
これは、Omunaoさんの記事にもあるけど、松本零士さんの「銀河鉄道999」のメーテルから
とってつけられたんだね。
・・・となると、えー、なんで「銀河鉄道999」よ?松本零士さんが住んでるの? ってことになるけど、
それはちょっと違って、製作会社の「東映動画」がこの街にあるからなんだね。

そう、「大泉学園」のキャッチフレーズは、“アニメと特撮の街” なんだね。
でも、僕に言わせればそれは少し違って、正確には東映の東京撮影所があるほか、東映テレビ・プロダクション、
特撮研究所、東映アニメーションなんかもある “東映の映画&テレビドラマ製作の街”
なんだよ。



駅からとぼとぼ歩いても、3~4分でOmunaoさん紹介のカフェ「静かの海」に到着!

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雑居ビルの1階だけど、かなりお洒落なたたずまいだね。
まだ11時台だけど、ちょうどお昼時。
さっそく、目的のオムライスセットをたのんだった。
自家製トマトソース、「丈夫卵」使用、カップスープ、ミニサラダ、飲物、プチデザートつきで980円だよ。

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ほれほれ、いい感じでしょ?

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ライスの山にふわふわ玉子がかぶせられていて、頂上にパセリがちょこん。
自家製トマトソースがたっぷり!

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中身はケチャップライスじゃなくて、鶏肉もちゃんと入っているチキンライスだな。
僕的にはもっとも大切なポイントなんだよ。
バターライスやケチャップライスでなくて、チキンライスじゃなくっちゃさ。

味は、いわゆるチキンライスのバターの味や胡椒の風味は極めて薄くて、ちょっと残念。

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でも、それはなんでトマトソースがこんなに敷いてあるかわかれば納得できるんだな。
そう、このオムライスはこの自家製トマトソースが命なんだね。
皮をむいたトマトかホールトマトをつぶして、イタリアンパセリやバジルなどは入れずに、
ブイヨンかコンソメであっさり味付けしたもの。
トマトの酸味と旨味を引き出した、すごくフレッシュな味わいなんだなー。
ふわふわの玉子の味以外に、余計な味がぶつかることがないから、とっても爽やかな味。
なんだか、ヘルシーな感じの大人向けのオムライスとみたねー。

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食べ終わって間もなく、プチデザートを差替えてもらってあった、
一品メニューの「ショコラムース」が登場!
ムースを覆ったチョコの生地がずっしりしてて、チョコをたくさん使っているのがわかる。
おいしい!

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コーヒーも、丁寧にドリッパーで入れたちゃんとしたものでした。



なるほどー、こういうオムライスもあるんだなあ、って目からうろこが落ちました。
中身のチキンライスがあっさりしてて、ソースもドミグラス系みたいな濃厚なものでもなく、
同じトマトソースでもニンニクやバジルや胡椒を使っていないあっさりソース、
だから実に爽やかな食後感
メタボなおっさんや、ヘルシー指向の女性に、人気があるんだろうなあ。
Omunaoさん、ご紹介ありがとうございました!



映画づくりの街

さてさて、オムライス・マジックですっかり気分は “夢見るモード” にスイッチが入ったし、
“映画製作の街” をポタリングすっかあー。

カフェ「静かの海」の前の広い通りを東に3分くらい歩くと、
石神井警察署の東大泉交番を発見。

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そこんところが「東映通り」で、左に曲がる。
それで2分も歩けば、右手に「東映アニメーション」の建物が見えてきた。
おー、こんなところにあるんだ!

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入場無料のギャラリーもあるんだねー。「ワンピース」も東映アニメだっけ。

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建物正面には、おなじみの「東映まんがまつり」の “長靴をはいた猫” のマークが。
おー、ホントにここなんだあ!って感動。

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東映アニメーションの向かいが、大泉撮影所
塀の外からだとわかりにくいけど、この辺り一帯に撮影用の施設が広がっているんだよ。
『新幹線大爆破』や『仮面ライダー』の一部もここで作られたんだ、
って思うとうれしくなってしまう。

011_02なななのか_東映撮影所地図.jpg

この時僕がいたのは、↑図面の左下の「西門」のあたり。
まったく気づかなかったけど、広大な設備だよね。

011_03なななのか_スタジオ昭和32年外観.jpg

↑この辺の昭和32年当時のようす。
写真の真ん中辺を左右に通っているのが「東映通り」だね。
さっきの図面の「東映アニメーション」や「リヴィンOZ大泉」のあたり(写真の半分から下のあたり)に、
屋外セットがたくさん組まれているのが見えるね。
当時は二町分くらいの広さで、東映のスタジオ群と屋外セット群が展開していたんだあ。
僕はもちろん生まれていない頃。

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敷地内は、工場とか米軍基地みたいな雰囲気。

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すぐそばに稲荷神社が。
どんだけの俳優や製作スタッフが、映画のヒットを願ってここで手を合わせたんだろう?



さあ、T・ジョイ大泉へ

撮影所西門の並びは、↓こういうショッピングモールになっている。
時節柄、土地を削って別の事業もやっているんだろうね。

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映画関係のグッズを売ってるんじゃなくて、いろんなお店が入ったモールだよ。
(映画関連グッズのほうがおもしろいと思うけど・・・)

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4階にいわゆるシネコンが入っていて、屋外ポスターも貼られているねー。
シネコンは東映系の「T・ジョイ大泉」という名前。
ココは東映の本拠地の一つなんだから、同じT・ジョイでもなんかおもしろいことないかな、
って4階に上がったら・・・

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・・・やっぱあった!
創業者や監督、東映ゆかりの映画スターの手形と写真の展示
特に、↓健さんと吉永小百合さんは特別扱いだねー。
お二人とも、東映の大ヒット作品を引っ張ってきた名優だからねー。

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ここんちは、これから封切られる作品の紹介もさかんだね。

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そういえば、前売券ってデザインが凝っていて楽しいねー!

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↑これはなんだろう?
マジンガーZやゲッターロボ、鋼鉄ジーグなどがもえもえ少女になった、って誰が観るの?



大林ワールドの集大成のひとつかも

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客席は満員!
報道陣や関係者も来ていて、立ち見も大勢いる。
さてさて、いよいよ作品鑑賞だぜ!

これから本気で観る方もいるので、できるだけネタバレを防いで書くね。
ストーリーはできるだけ省いて、僕の感想だけを書いて、
映画を観た人が後から読んで何を言っているのかやっとわかるような書き方にしたいと思う。

まずは、この作品はどんな作品なの?と聞かれたら、答えはひとつ、「アート作品」だろうな。
しかも、「文芸作品」とでもいうような。

そういう意味で、この映画のセリフは、すごい、のひと言だね。
台本のト書きを全部セリフにしてしまったのか!?
夢の遊眠社の演劇のセリフを彷彿とさせるオーバー・ワードが、最大の特徴だなー。
大ざっぱに言って、映画の最初から最後まで、休まずにずっと誰かがしゃべっている印象
脚本および撮影台本は、大林監督でしょ?
大林さんが文学好きなんだということがよくわかるなー。

そういう “文体” で物語は展開していくんだけど、
訴えたいことはそれほどわかりずらくはなくて・・・
●8月15日ではなくて、樺太では9月5日まで続いた “敗戦” のこと
●原発のこと
●朝鮮人の強制労働のこと
●炭鉱町の衰退のこと
●村興しと村残しのこと
●戦時中の恋のこと
●年上の女性との恋のこと
●老人と若い女性の恋のこと
●2次元アートのこと・・・などなど
こんなことなんだろうなと思う。

さらに、それらのことが、大林作品に脈々と流れる “輪廻転生” という
一本の背骨に肉付けされているから複雑な印象になっていると思う。

「人は誰かの代わりに生まれてきて、誰かの代わりに死んでいく」。
過去の人の想いがいまこれからの人にバトンタッチされる時が、なななのか(四十九日)なのだ。


大林さんは舞台あいさつで、ピカソの「ゲルニカ」の映画版、って言っていたなあ。
“反戦” という現実的なテーマをピカソならではのキュビズムで描いた作品。
この映画は、大林さんが抱えるたくさんの現実的なテーマを大林マジックで描いた一本なんだろうね。
“映画でやる、アートで表現するジャーナリズム” とも言っていたなー。
大林ワールドが、コラージュというかモザイクのように目に飛び込んでくる。

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この二人の関係って?

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鈴木光男はどんな絵を書いたのか?

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昭和20年の8月15日から9月5日の間に、何人の日本人が死んだのだろう?

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無性にコーヒーが飲みたくなる映画でもあるなー(笑)

この映画は、個人的には極めておもしろい、すばらしい作品だと思う。
姉妹作という『この空の花 - 長岡花火物語』を観てないので正しいかどうかわからないんだけど・・・
●これまでの大林作品では観たことのない作品
●大林さんの思想や言いたいことを全部詰め込んで、大林さんの持ってる映画的工夫を全部駆使した作品

僕には、そんなふうに観えた。

芦別側から映画製作のオファーあった時、予算が少ないのだとの相談に、
「僕への香典を死ぬ前に払うつもりでください」と大林監督は言ったそうだ。
「そのかわり、僕が死んでからもちゃんとこの世に残るものを作る」
とも。

自主製作&自主配給というささやかなスタートを切った映画だけど、
僕は、この作品はきっと海外で高く評価されるに違いないと思っているよ。



舞台あいさつ  ※写真を各方面から勝手に拝借しました。

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これは、有楽町スバル座で撮ったものかな。一番左の寺島咲と右から二番目の左時枝は、大泉には来てなかった。
大泉では、有楽町に続いての2度目の舞台あいさつだったから、スケジュールが合わなかったんだろうね。
このほかに、芦別市の人も来てたね。

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常盤貴子は、「この映画に出て、自分が変わった」って言ってたなー。

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名バイプレイヤー村田雄浩は、話がうまい。舞台あいさつでは主演だなー(汗)。

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品川徹。旭川出身。ひょっとするとこの映画の主役はこの人かも。
ホテルのベランダでセリフの練習をして、みんなにうるさがられたそうだ。

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大林作品に出るのが夢だったという安達祐実。
映像で観る彼女は、とてもきれいだよ。

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『悪の教典』、『今日、恋をはじめます』にも出てた山崎紘菜。
目下、学園モノで人気沸騰中。

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いつものやさしい語りの大林監督。
「わかりにくい映画。みんなでいろいろ語り合ってほしい」とのこと。



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[観に行く方(主にカッパさん)へのアドバイス]

※ジブリの高畑さんや山田太一監督などのコメントを掲載した厚めのバンフレットが販売されます。
 僕は上映後に買おうと思ったら、あっという間に売り切れました。
 もしほしいならば、会場に行ったらすぐ、上映前に買うことをおすすめします。

※舞台あいさつは当然写真を撮っちゃだめだろうな、って自粛したんだけど、
 大林さんは「(この映画を)ツイッターやブログでどんどん広めてください」って言っていたので、
 キャストの写真や作品のスチルなど、“応援” というスタンスのもと常識の範囲内でなら
 自由に使わせてもらってもいいのでは?と感じています。
 というか、何か応援してあげられることはないか、って思っています。




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●『野のなななのか』
2014年 日本
上映時間: 171分
配給:PSC、TMエンタテインメント
監督:大林宣彦
エグゼクティブプロデューサー:大林恭子
プロデューサー:山崎輝道
原作:長谷川孝治
脚本:大林宣彦、内藤忠司
撮影:三本木久城
美術:竹内公一
録音:内田誠
整音:山本逸美
編集:大林宣彦、三本木久城
音楽:山下康介
音効:佐々木英世
主題曲:パスカルズ
主題歌コーディネーター:大林千茱萸
助監督:松本動
衣装:岩崎文男
ヘアメイク:和栗千江子
装飾:相田敏春
小道具:中村聡宏
出演:品川徹、常盤貴子、村田雄浩、松重豊、柴山智加、山崎紘菜、窪塚俊介、寺島咲、
   内田周作、細山田隆人、小笠原真理子、イ・ヨンスク、大久保運、小磯勝弥、斉藤とも子、
   原田夏希、猪股南、相澤一成、根岸季衣、パスカルズ、安達祐実、左時枝、伊藤孝雄 ほか



わざとハズレを引く余裕をどうぞ ~ 『ワン・フロム・ザ・ハート』

2013.11.26 (Tue)


少し前、「高松宮殿下記念世界文化賞」というやつの授賞式のもようをテレビでやってたよね。
それの「演劇・映像部門」の受賞者として、フランシス・フォード・コッポラ監督がいたねー。
日本の皇室の名目で、なんで世界の文化人を表彰するのかよくわからないけど、
コッポラ監督が受賞する理由はわかる気がするね。

001コッポラ受賞

コッポラ監督は、かなり日本の映画とくに黒澤映画が好きみたいで、
大学で映画を学んでいた時に、ノーベル賞の事務局に、
特例として「黒澤監督にノーベル文学賞を授与すべき」
という手紙を送ったという経歴の持ち主なんだそうだ。

1970年代には、東映の岡田茂プロデューサーへ
「千葉真一とアル・パチーノの共演による映画を製作したい」とオファーを出したり、
『影武者』の外国版製作に資金援助をしたりもしてる。
そうとうな日本映画びいきだからして、賞をあげる側も当然、
コッポラにあげたくなるだろうね。

そんなこんなで思い出したのがこの映画、
『ワン・フロム・ザ・ハート One From The Heart (1982)』。



コッポラは、ミュージカルや恋愛モノも大好き

この作品は、なんと、ミュージカルタッチのラブロマンスなんだよ。
『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』のイメージからすると、
ミュージカル調というと意外な感じがするかもしれないけど、実はそうでもないんだよ。

コッポラは、『ゴッドファーザー』で大ヒットをつかむ前に、
『フィニアンの虹 Finian's Rainbow(1968)』というミュージカル映画を
大学生だったジョージ・ルーカスを手伝わせて作っているし、
ルーカス総指揮&コッポラ監督のディズニーランドのアトラクション『キャプテンEO』だって、
ミュージカルに違いないよね。
そもそもコッポラの家庭は、ブロードウェイの音楽一家なのだ。

ラブロマンスというと、やっぱり『ゴッドファーザー』以前に、
『雨のなかの女 The Rain People (1969)』というのを撮っているし、
のちに『ペギー・スーの結婚 Peggy Sue Got Married (1986)』も撮っているよね。

ただし、ラブだけどロマンスというのとはちょっと違うかもしれないね。
『ワン・フロム・ザ・ハート』も含めて、3つの作品に共通しているテーマは “結婚” で、
結婚生活のマンネリや絶望、新しい恋へのあこがれ、そして再生とかを描いていて、
屈折しててベタな恋愛ものじゃないんだな。

コッポラ自身、よっぽど結婚に対して夢を抱いたり、絶望したり、考えるところが多かったのかな?
とか、彼の文学的なテーマの一つなのかな?なんて勘ぐってしまう。

で、とにかく、『ワン・フロム・ザ・ハート』は、ミュージカルタッチのラブロマンスなのだ。



歴史に残るコッポラの “大迷作”

この映画は、コッポラ監督とその周辺の人たちにとって、絶対忘れられない作品だろうと思う。
というのは、興行的におもっきしコケた映画だからだ。

製作費が、当時の額で$26,000,000で、興行収入が$636,796となっているから、
当時の円になおすと80億かけて、2億円しか取り戻せなかったことになるよね。
これはとんでもない不発だねー!

『ゴッドファーザー1・2』と、『地獄の黙示録 Apocalypse Now (1979)』で
大ヒットを飛ばしたとはいえ、この損害はでか過ぎ!
コッポラが '69年に苦心して起こした映画制作会社アメリカン・ゾエトロープ社は、
この一発で吹き飛んだんだよ。

おまけに、MGMやパラマウント、コロンビア映画社の信頼も消失。
とんでもない出来事だんだんだなー。
コッポラは、この後にも3度も会社を倒産させているから、
倒産なんてへのカッパだけど、『地獄の黙示録』の大成功の後だし、
初めての倒産、という意味で記念碑的な作品なのさ。

・・・で、気になるのは、80億円という製作費。
ちょっと待てよ、ってよく考えたら、
“ミュージカルタッチのラブロマンス” にこの額はでか過ぎでしょ。
だってね、一発目の『ゴッドファーザー』の制作費なんて、18億なんだよ。
あの『地獄の黙示録』だって約90億だから、この金額がどれほど異常な金額かわかるよね!
製作額を知ってから作品をみると感じると思うけど、
10人が10人「えー、こんなホームドラマみたいな映画に80億ってか!?」って言うはず。

なんでそんなにお金がかかったのか?
実はそれは明快。
映画のすべてのシーンが “セット” だからだ。
オールセットなんだ、とわかってて観ると、
この作品の見え方はさっきとは違ってくる。
「えー、これもセット?いったいいくらお金がかかっているんだ!?」って。

さらには、挿入歌もすべてオリジナル。
よく既成の曲を拝借してくる作戦をとるけど、
ああいうのは「イメージソング」って言って、
書下ろしほどはお金がかからないもの。
この映画の曲はすべて書下ろしの「テーマソング」で、
しかも、映画の場面場面にぴったり合ったものを
完璧な打ち合わせのもとに作ったように見受けられる。

それだものお金がかかるわけだよね。
でもね、モンダイはそこでないのだ。
マーティン・スコセッシやアンディ・ウォーホルみたいな変なお友達以外は、
みーんなこんな映画を観たくなかったということなんだな。

舞台はラスベガスなんだけど、劇中にはギャブルのシーンはちょびっとも出てこない。
この映画そのものが、一大ギャンブルだったんだな。
とてつもない資金を賭けて、絵に描いたようにスった、映画史に残る “迷作” だよーん!!

「そんな作品だから、一度は観てみたら?」っていう、
マニアックなおすすめでこの記事を書いているんだけど、
いま一度見直してみたら、けっこういいんだよね。
ストーリー追求型の人は、きっと、「全然おもしろくねーぞ」って言うと思うけど、
実はけっこうお洒落な作品だったんだなー。



コッポラの “恋愛と結婚” 感を描いた、ピュア過ぎるストーリー

002ストーリー_タイトル

時は、'80年代初頭オンタイム。
場所は、アメリカのラスベガス。
歓楽街の郊外に、ごくフツーの男女が一緒に暮らしていた。
籍は入れていないけど夫婦状態、子供はなし。
アメリカンドリームを見つけに、ラスベガスにやってきて出会った仲なんだろうね。

一緒に暮らして数年経っているのかあ、それなりの住宅地に家を構えている。
特に不足のないディンクス生活を送っているんだけど、
最近なんとなくマンネリというかすれ違いの多い日々。
ある日とうとう大喧嘩してしまって、彼女が家を出て行ってしまう。

003フラニー
彼女のほうは、バーのピアノ弾きにナンパされる

004キス
『未知との遭遇』のテリー・ガー、『アダムス・ファミリー』のラウル・ジュリア

次の日、アメリカ独立記念日の夜、ベガスの街で、二人ともがそれぞれの新しい恋をゲット。

005男二人
彼のほうは、友達とナンパに
『地獄の黙示録』のフレデリック・フォレスト、『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントン

006ナスターシャ
彼は妖精のようなサーカスダンサー(ナスターシャ・キンスキー)に魅せられてしまう

どちらの恋も、南の島や歌やダンス、マンネリじゃないセックス、新天地・・・・
言ってみれば、新しいドリームに満ちていたんだけど・・・・

007奪還

後は内緒。



幻のスタジオセット “ゾエトロープ映画村”

コッポラ監督が、『地獄の黙示録』のフィリピンでの屋外ロケで天候不順に見舞われて、
撮影延期を余儀なくされたり、台風がやってきてセットを壊されたりして、
大変な思いをしたことは有名だよね。
それから、ちょっとした太陽の翳りや鳥の飛び方まで気になる、完璧主義の監督だから
屋外の自然を利用したロケなんぞは、がまんできないものがあるのかも知れないね。

そういうわけで、
膨大な経済的&時間的コストがかかるくらいなら、全部ハリウッドにセットを作ってしまえ
ということでやってしまったんだろうねー。
完璧主義の監督が自然の絶好のチャンスを切り取るのは大変な騒ぎだろうけど、
完璧主義の監督が造るセットというのも大変なことになるに違いないよね。
どっちにしろ、大変じゃんか、ねぇ(笑)。

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巨大なネオン!

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巨大な背景画!

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広大な通り。この後、遠くで花火が上がる

オールセットかあ、とわかって見るとホント驚くよー。
どんだけ広いんだよ、どんだけ家を建てたんだよ、って感じ。
えーっ!この飛行機も造作物かよっ!?って驚くはず。

それから、ネオンで造った装飾や大道具がやたら多い。
もう、この映画は “ネオン映画” である、と言いたいくらいネオンだらけ!
デザインもすべてオリジナルで、これはもはやアート。
もちろん、電気が切れているやつなんてひとつもない(笑)。
ゾエトロープの敷地に、煌びやかなラスベガスの一角をもうひとつ造ってしまったんだなー。

011ネオン001
手間のかかったイメージカット

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本物のラスベガスもびっくりのネオンサイン

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“つくりもの” の恋を表現しているのか?

建物、背景、大道具、小道具、衣装、インテリア、エクステリア・・・・
そうか!この映画は、“美術さん映画” なんだ!
その映像の世界でいう「美術さん」の美術という意味。
自然の中で撮るリスクもコストもなくてすむからセットにした、
なんて補完的な意味合いなんて微塵もない。
コッポラ監督は、世界一の “美術さん映画” を撮ろうとしたに違いないんだ!
これは、映画やイベントや宣伝の美術・装飾に関わる人にとっては、
ヨダレもんのムービーなんだということがやっとわかったよ。



CG夜明け前。合成技術のデパートやあ!

ルーカスの『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』を思い出すとわかると思うけど、
1980年代はまだまだSFXの時代で、1993年のスピルバーグの『ジュラシック・パーク』が登場するまで、
いまのようなCGらしいCGというのはなかったんだね。

それでも、映画冒頭のスタッフ紹介で、3DCGらしき映像があったり、
実写物の動画にに2D画像を合成してあったり、
ファンタジックな表現に、動画と動画のハメコミ合成やヌキ合わせ合成が使われていて、
当時やれるテジタルエフェクトの最先端を窺うことができる。

015オーバーラップ合成001
動画を4重にも5重にも重ねたオーバーラップ

016オーバーラップ合成002

017オーバーラップ撮影003
これはオーバーラップに見えるけど、2重セットと思われる(ガラス越しに2つのセットを同時撮影)

018ハメコミ合成001
動画+動画のハメコミ合成

019ハメコミ合成002
複雑な形のハメコミだねー

020抜き合わせ合成001
3つの動画のヌキアワセ合成

まあ、SF映画じゃないので技巧的な派手さはないけど、
この映画のポップでファンタジックな、最も肝心な部分の表現力を担っているんだよ。



お洒落な音楽とダンスのテーマパークやあ!

音楽はあのトム・ウェイツ!
のちに、ジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー Down by Law(1986)』に
自ら出演して話題になったけど、当時アメリカで最もクールな音楽アーティストと言われていた人だよ。

021ジャズ01
このトランペッターはトム・ウェイツ本人

大雑把に言うと、全編がメロウでスローな4ビートジャズのメロディに包まれているイメージ。
映像と音楽のどっちを先に作ったのかわからないけど、場面場面でお互いがばっちりフィットしている。

022ジャズ02

でも、その才能はジャズだけじゃない。
ピアノ弾き語りから社交ダンス、バレエ、ミュージカル、サーカスまで、
あらゆる “音楽映像” が盛り込まれている
んだなー。
この映画を「ミュージカル映画」と呼ぶ人がいるのも不思議じゃないことがわかるね。

023ピアノ弾き語り
ピアノ弾き語り

024社交ダンス
タンゴ

025ミュージカル
ジャズダンスによるミュージカル

026サーカス
サーカスだってやっちゃう!



作品の冒頭で、トム・ウェイツとカントリー歌手のクリスタル・ゲイル
掛け合いでエッチな感じで歌う歌がコレ↓


昔から賢者は言っている
“稼ぎを恋に注ぎこむな”

搾取され うまくはめられて
そのあげく 抵当は水に流れる

岐路に立てば 方角に迷い
橋は流され 道路は閉鎖

どう考えても 結論はひとつ
恋は人を欺き もてあそぶ

恋の泥沼に 足をいすくわれて
赤いボールが 胸の急所を狙う

いつの世にも 通じるまこと
“稼ぎを恋に注ぎこむな”

どこの町を歩くときでも
目指すはメイン・ストリート

行きつく先は恋の墓場
傷ついたからだを横たえて

酒のグラスで墓穴を掘って
敗れたハートを土に埋める

昔から賢者は言っている
“稼ぎを恋に注ぎこむな”


ガハハハハー!
“稼ぎを恋に注ぎこむな” なんて歌詞が入っていたんだねー。
皮肉なハナシだねー。お洒落過ぎでしょ。



オー! マイ ナスターシャ!

実は、ナスターシャ・キンスキーが、好きん好きーなんです。
オードリー・ペップバーンをエロくした感じで、いぐねーすか?

初々しい18歳の時の『テス』( '79・ポランスキー)。
一番痩せていたと思われる『ホテル・ニューハンプシャー』( '84・トニー・リチャードソン)。
いい女になったなあ、って感じの『パリ、テキサス』( '84・ヴェンダース)。
21歳のこの作品の時は、ちょっとグラマーだった頃かなー。

主役じゃないけど、マイ・ナスターシャが出てるから3回も観たんだよ、この映画。

027ナスターシャ

028ナスターシャ

029ナスターシャ

030ナスターシャ

031ナスターシャ

032ナスターシャ

033ナスターシャ

034ナスターシャ

ナスターシャ・キンスキーは、15歳の頃からロマン・ポランスキー監督の愛人だったんだよ。
あのやろーめ。

[クイズ] ナスターシャ・キンスキーの国籍って、どこか知っている?



この作品で、何を言いたかったんだろう

1980年代のアメリカは、レーガン大統領の時代だよね。
対ソ連&対中東政策が強化されて、経済発展の突破口を開こうとしていたけど、
そんなに簡単にはうまくいかず、
シリコンバレーがリードする半導体産業で技術を独占していたけど、
すぐに日本に追いつかれ、
自動車産業が傾き始めていた時代。
そして、税制緩和政策のレーガノミクスで、70年代を悩ませたインフレを解消したけど、
国債の増発と貿易赤字の増大化を招いて、
'85年以降には中流がすっとんで大金持ち以外はみんな貧乏になった時代。

庶民の感情としては、政治面でも経済面でも、
'60年代の戦後の繁栄の時代は終わってしまって、
アメリカンドリームを本格的にあきらめつつあった時

と言ってもいいかもしれないな。

この映画と同じ1982年にリリースされて、
その年度のグラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされた
スティーリー・ダンの片割れドナルド・フェイゲンのアルバム『ナイトフライ』(The Nightfly)でも、
アメリカの過去の栄光や失ったものへの哀愁、新しい希望の渇望などが描かれていて、
その時代の一般の人々を包む空気がどんなものなのか知ることができるよ。

そんな時代の空気を押さえながらこの作品の仕立てを探ってみると・・・
ときは、'80年代が始まったばかりのオンタイム。
場所は、ラスベガスだからネオンギラギラのアメリカンドリームのシンボルみたいなところ。
そして、物語のその日は、アメリカ独立記念日。
ほら、意味ありげでしょ?

フツーを絵にかいたようなカップルが、ラスベガスの郊外の一軒家に暮らしている。
どちらもそれなりの職業に就いていて、大金持ちでもないけど、特に不足もない暮らし。
でも、近頃なんとなくふたりはうまくいってない。
大きな夢や刺激のない暮らしが、ふたりの間にすれ違いを生んでいく。
ちょっとしたきっかけで大喧嘩したふたりは、別れようと決めてしまう。
そう、アメリカが新しいドリームを模索し始めたように、新しい恋へ。
“つくりもの” のようなベガスを捨てて
新しい連れ合いと、新しい夢を追いかけて、新しい土地へ、新しい生活をしに・・・
でも、いま以上の幸せが、そこにあるのだろうか?

コッポラは、アメリカンドリームを恋にたとえたんだと思う。
恋は、ひととき罹る熱病であって、それが治った時の状態がホントの自分なのだ。
幸せへの向きの定まらない助走であって、ゴールじゃない。

ありもしない、うそ臭いネオンの灯りの夢ばかりを追って、
いまそこにあるリアルな幸せを見紛うんじゃないよ!

コッポラは、アメリカに向かって “こころから=One From The Heart”
そう言いたかったんじゃないだろうか。

この映画の封切りからおよそ30年が経った。
産業と金融のグローバリゼーションの中いろいろな紆余曲折があって、
いまもなおアメリカは新しい再生の方法を探している。
日本だって同じ船に乗っているんだよ。

この映画は、いま観てもそのホントのメッセージが通用するんじゃないかな。



まあ、いろいろごちゃごちゃ書いちゃったけど、
この映画を観るのに妙な理屈なんかいらないかもしれないな。
ただのメロウで、ジャジーで、ファンタジックな恋の物語だからさ。

クリスマスにでも、カップルや夫婦でグラスを傾ける時のBGMやBGVがわりにして、
気ら~くに観るともなく観ればいいのだ。

それが、とてつもなく贅沢に創られた小品に対する礼儀というものでしょ?



035ポスター
映画を観ると、日本版のポスターのトンチンカンさがわかります

●『ワン・フロム・ザ・ハート』(One from the Heart)
1982年 アメリカ
上映時間:107分
配給:(米国)コロンビア映画
   (日本)東宝東和
製作:グレイ・フレデリクソン、フレッド・ルース
製作会社:アメリカン・ゾエトロープ
製作総指揮:バーナード・ガースタン
監督:フランシス・フォード・コッポラ
原案:アーミアン・バーンスタイン
脚本:アーミアン・バーンスタイン、フランシス・フォード・コッポラ
音楽:テディ・エドワーズ、トム・ウェイツ、クリスタル・ゲイル(歌)
美術:ディーン・タヴォウラリス(プロダクション・デザイナー)
   アンジェロ・P・グレアム (アート・ディレクター)
撮影:ロナルド・V・ガルシア、ヴィットリオ・ストラーロ
   トーマス・E・アッカーマン(カメラ)
   ジェイミー・アンダーソン(カメアシ)、ジョン・R・レオネッティ(カメアシ)
編集:ルーディ・ファー、アン・ゴアソード、ランディ・ロバーツ
出演:フレデリック・フォレスト、テリー・ガー、ラウル・ジュリア、ナスターシャ・キンスキー、
   レイニー・カザン、ハリー・ディーン・スタントン、カーマイン・コッポラ、イタリア・コッポラ、
   アレン・ガーフィールド、ルアナ・アンダース、レベッカ・デモーネイ ほか
受賞:第55回アカデミー賞
   [ノミネート]・音楽賞(トム・ウェイツ)



許す! ~ 『許されざる者』

2013.10.17 (Thu)

9月13日に封切られた次の日、14日(土)に観に行ったよ。

001日本ポスター

なんたって、大好きな『フラガール(2006)』の監督の最新作だし、
故郷の北海道開拓時代のハナシだし、
クリント・イーストウッドのアカデミー賞受賞作の “時代劇リメイク版” だからね。
おーっ、『七人の侍』みたいなすげー映画かもしんない!って想像するわけだ。

前日にネットで、午前中の回に座席指定を入れて、絶好の位置を確保。
ちょっとの曇りもない気持ちで、ポップコーンもコーラも買わないで
鑑賞に臨んだんだけど・・・

あれっ?なんだろなあ、あんましおもしろくねーなー。
時代劇なんだから、どっかで、主人公が敵をバッタバッタ切り倒すんじゃないのかい?

西部劇って、建物の陰に隠れながらバンバン撃ち合ったり、
息詰まる緊張感のなか、一対一で決斗するとか、
たった一人で一瞬にして何十人も撃ち殺すとか、
“ガン・ファイト” のクライマックスシーンがあるから、
「おもしれー!」とか「スカッとしたぜー!」ってなるもんだよな?

『許されざる者』の日本版は、その西部劇のリメイクなんだから、
座頭市みたいに、一人で大人数をズバズバ切りまくるとか、
巌流島の決斗みたいな腕にモノを言わせるような、
手に汗握る “殺陣” が展開されるんだと思ってた。
ラストのほうで、一対複数のファイトがあるんだけど、
なんだかスカッとしなかったんだよ。

それから、この作品は、明治維新後の開拓時代の北海道のハナシなので、
幕府軍側の残党や、アイヌや、入植者や、開拓使などが、
何か社会派的なテーマで物語を展開するんじゃないか、
という期待もあったんだけど、
それも “何かを訴える” というほどのことでもなかった。

なんだなんだ?
これは、おもしろくねーな。
娯楽的な要素はなんにもナシ!
社会派問題提起もナシ!

ついこの前に、タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』を
観たばっかりだったせいもあると思うけど、物足りない、のひとことだ。

その特徴は・・・・
① 誰が善で、誰が悪なのかはっきりわかんない
② 戦いシーンが少ない
③ 敵をズタズタにして、やっつけてやった的なカタルシスが弱い
④ 明治維新や北海道開拓、アイヌ差別問題など社会派的な色合いも薄い
★しかし、映像の美しさやセット、衣装、演技などは、ピカいちだぞ!!


なんかおかしいぞ、李相日監督ともあろうものが、こんなはずないだろ。
どういうことだ?

・・・・というわけで、翻作元のクリント・イーストウッドのほうの
『許されざる者』(Unforgiven)を観てみることにしてみた。
もともとは、どうなってんだ?
アカデミー賞を4部門もとった作品がおもしろくないわけがないよなー、
という気持ちで。
そう、恥ずかしながら、ストーリーやその評判というものは知っていたものの
中身を観たことがなかったんだよ。



[あらすじ]

1881年のアメリカのロッキー山脈付近の町でのハナシ。

かつて列車強盗や保安官殺しで有名だったマニーは、
改心して、田舎町で2人の子供と農家をして暮らしていた(奥さんはすでに他界)。

そこへ、マニーがもと殺し屋だったことをどこかで知ったキッドという若者がやってきて、
賞金首の2人のカウボーイを狩りに行こうと持ちかける。
自分は真人間になったんだ、とマニーは断るけど、現状、あまりにも極貧であり、
子供たちのためにその賞金稼ぎの話に乗ることにする。
昔の悪党仲間のローガンも誘い込み、途中でキッドと合流して、その街へと向かう。

2人のカウボーイに賞金をかけたのは、その町の売春宿に働く女たちだ。
カウボーイの一人が、お付きの売春婦ともめてナイフで女の顔を切り刻む。
怒った女たちは、みんなでお金を出しあってそのカウボーイ2人に賞金をかけたわけだ。

そうして賞金稼ぎの3人は、町へやってくる・・・。
あとは、内緒。



ストーリーは申し分ないんだけど、
うーん、僕の知っている西部劇とは、ずいぶん感じが違うなあ。
やっぱり善悪がはっきりしないし、ガン・ファイトも爽快じゃない。
なんとなくカッコ悪いんだ。

でも、これはおもしろい!
なるほどー、『許されざる者』(Unforgiven)は、フツーの西部劇じゃないんだなー。
そもそも原作がフツーじゃないんだ。

ガンマンも年を食えば弱っちくなるし、
拳銃なんてホントは撃ちまくるわけでもないし、
そうそう簡単に的に当たるわけでもない。
ガンマンの過去の武勇伝なんて、たいがいホラばなし、
まともなやつなら、そんなに簡単にポンポン人を殺せるわけがない。
世の中、どっちが正しくてどっちが悪いなんていつもはっきりしてるわけではないし、
必ずしも正義が勝つわけでもない。
勝ったからといってスカッとするわけでもない。


・・・そんな文脈で描かれているんだなー。
過去の作品みたいな勧善懲悪のファンタジーじゃなくて、
言ってみれば “リアルな西部劇”
なのだ。
そのカッコ良すぎない、徹底したリアリティが、
ずっしり手ごたえのある “新しい、最後の西部劇” を生み出したんだなー。
だから、西部劇の名作となったんだ、と解釈させてもらったよ。



じゃ、日本の『許されざる者』は、なんでスキッとしないんだろう?
見事にオリジナル版をリメイクしているのに。
それは、日本版『許されざる者』は西部劇ではないし、
チャンバラ時代劇でもないからだと思う。

アメリカ版『許されざる者』(Unforgiven)は、“いつもの西部劇” を想像して観る人を
巧妙に裏切って新しい西部劇へと連れて行く
しかけになっているのに対し、
日本版には、“いつもの○○○” がないから、どこへも連れて行かれないんじゃないかな?

“いつもの北海道開拓時代の無法者が賞金稼ぎをするハナシ” なんて聞いたことないし、
おまけに、フツーじゃない西部劇をなぞっているもんだから、
フツーじゃない “北海道開拓時代の無法者が賞金稼ぎをするハナシ” になっちゃっているんだな。
現に李監督は、「今の日本で時代劇を撮るなら、簡単には割り切れない善と悪をテーマにしたい」
と語っているんだよ。
つまり、ダブルパンチでわかりずらくなっているんじゃないかな?



でも、僕はこの日本版の『許されざる者』も好きだ。
郷里の風景を切り取った映像がものすごく美しいし、
ボロい家屋のセットの巧妙さや衣装のリアリティには驚かされるし、
なによりも、俳優さんたちの演技がピカいちで、
ワールドクラスのクォリティの高い映像を見せてくれるからだ。

それから、少なくとも、開拓時代の北海道にはこんな村があって、
こんな開拓使や、アイヌや、娼婦や、幕府軍側の落人や、官軍側の元武士や、
冬の寒さに耐えられそうもない家屋や、手つかずの風景など、
頭の中のぼんやりとした想像でしかなかったものを可視化してくれているからだ。

でも、物語のテーマはバツグンなんだよ。

子供への愛情や友への友情・・・主人公が果たそうとする正義と、
保安官が振りかざす正義が対峙する。
自分をまっとうにしてくれた奥さんへの深い愛が葛藤を生む。

そして、主人公はどうするのか、奥さんは、主人公を “許す” のだろうか。
その後、自分や子供はどう生きるのか・・・。


僕が言いたいのは、元作とそっくりじゃなくなってもいいから、
そのテーマがもっとガツーンとくるように作ってほしかったということ。



002_3人馬_日
003_3人馬_米
日本版では、賞金稼ぎの言いだしっぺは、キッドじゃなくておっさんのほうだ

004主役_日
005主役_米
同じエンジ色の服だねー

006女将と娼婦_日
007女将と娼婦_米
小池栄子は、やっぱりすごかった

008相棒_日
009相棒_米
いままでで一番すごい柄本明を観た

010キッド_日
011キッド_米
これが、柳楽優弥だったとは!

012作家_日
013作家_米
半沢直樹の同期の裏切り者、踊る大捜査線の王(ワン)さんだよね

014保安官_日
015保安官_米
佐藤浩市は、ジーン・ハックマンとはだいぶん違うよね

016風邪リンチ_日
017風邪リンチ_米
風邪を引いて弱っているのに、保安官にいたぶられるシーン

018主役と娼婦_日
019主役と娼婦_米
このシーンのダイアログはジーンとくるなあ 顔に傷があってもかわいいものはかわいい



020ポスター日米比較

●『許されざる者』(Unforgiven)
1992年 アメリカ
上映時間:131分
配給:ワーナー・ブラザーズ
製作:クリント・イーストウッド
製作総指揮:デヴィッド・ヴァルデス
監督:クリント・イーストウッド
脚本:デイヴィッド・ウェッブ・ピープルズ
撮影:ジャック・N・グリーン
編集:ジョエル・コックス
美術:エイドリアン・ゴートン、リック・ロバーツ
プロダクション・デザイン:ヘンリー・バムステッド
音楽:レニー・ニーハウス
出演:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン、リチャード・ハリス、
   ジェームズ・ウールヴェット、ソウル・ルビネック、フランシス・フィッシャー、
   アンナ・トムソン、アンソニー・ジェームズ ほか
受賞:第65回アカデミー賞
   [受賞]・作品賞・監督賞・助演男優賞・編集賞
   [ノミネート]・脚本賞・主演男優賞・撮影賞・美術賞・音楽賞
   第50回ゴールデングローブ賞
   [受賞]・監督賞・助演男優賞
   [ノミネート]・ドラマ部門作品賞・脚本賞
   第46回 英国アカデミー賞
   [受賞]・助演男優賞
   [ノミネート]・作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞・音楽賞
   第27回 全米映画批評家協会賞
   ・作品賞・監督賞・助演男優賞・脚本賞
   第57回 ニューヨーク映画批評家協会賞
   ・助演男優賞
   第27回 カンザスシティ映画批評家協会賞
   ・作品賞・監督賞・助演男優賞
   第13回 ロンドン映画批評家協会賞
   ・作品賞
   第18回 ロサンゼルス映画批評家協会賞
   ・作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞
   第37回 サン・ジョルディ賞
   ・外国作品賞

●『許されざる者』
2013年 日本
上映時間:135分
配給:ワーナー・ブラザース映画
製作:久松猛朗
製作総指揮:ウィリアム・アイアトン
製作会社:ワーナー・ブラザース映画、日活、オフィス・シロウズ
監督:李相日
原作:デイヴィッド・ピープルズ著 ワーナー・ブラザーズ製作 映画「許されざる者」
脚本:李相日
撮影:笠松則通
編集:今井剛
照明:渡邊孝一
録音:白取貢
美術:原田満生、杉本亮
装飾:渡辺大智
衣装デザイン:小川久美子
ヘアメイク:橋本申二
音楽:岩代太郎
出演:渡辺謙、柄本明、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、近藤芳正、國村隼、滝藤賢一、
   小澤征悦、三浦貴大、佐藤浩市 ほか
受賞:???????????



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