わざとハズレを引く余裕をどうぞ ~ 『ワン・フロム・ザ・ハート』



少し前、「高松宮殿下記念世界文化賞」というやつの授賞式のもようをテレビでやってたよね。
それの「演劇・映像部門」の受賞者として、フランシス・フォード・コッポラ監督がいたねー。
日本の皇室の名目で、なんで世界の文化人を表彰するのかよくわからないけど、
コッポラ監督が受賞する理由はわかる気がするね。

001コッポラ受賞

コッポラ監督は、かなり日本の映画とくに黒澤映画が好きみたいで、
大学で映画を学んでいた時に、ノーベル賞の事務局に、
特例として「黒澤監督にノーベル文学賞を授与すべき」
という手紙を送ったという経歴の持ち主なんだそうだ。

1970年代には、東映の岡田茂プロデューサーへ
「千葉真一とアル・パチーノの共演による映画を製作したい」とオファーを出したり、
『影武者』の外国版製作に資金援助をしたりもしてる。
そうとうな日本映画びいきだからして、賞をあげる側も当然、
コッポラにあげたくなるだろうね。

そんなこんなで思い出したのがこの映画、
『ワン・フロム・ザ・ハート One From The Heart (1982)』。



コッポラは、ミュージカルや恋愛モノも大好き

この作品は、なんと、ミュージカルタッチのラブロマンスなんだよ。
『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』のイメージからすると、
ミュージカル調というと意外な感じがするかもしれないけど、実はそうでもないんだよ。

コッポラは、『ゴッドファーザー』で大ヒットをつかむ前に、
『フィニアンの虹 Finian's Rainbow(1968)』というミュージカル映画を
大学生だったジョージ・ルーカスを手伝わせて作っているし、
ルーカス総指揮&コッポラ監督のディズニーランドのアトラクション『キャプテンEO』だって、
ミュージカルに違いないよね。
そもそもコッポラの家庭は、ブロードウェイの音楽一家なのだ。

ラブロマンスというと、やっぱり『ゴッドファーザー』以前に、
『雨のなかの女 The Rain People (1969)』というのを撮っているし、
のちに『ペギー・スーの結婚 Peggy Sue Got Married (1986)』も撮っているよね。

ただし、ラブだけどロマンスというのとはちょっと違うかもしれないね。
『ワン・フロム・ザ・ハート』も含めて、3つの作品に共通しているテーマは “結婚” で、
結婚生活のマンネリや絶望、新しい恋へのあこがれ、そして再生とかを描いていて、
屈折しててベタな恋愛ものじゃないんだな。

コッポラ自身、よっぽど結婚に対して夢を抱いたり、絶望したり、考えるところが多かったのかな?
とか、彼の文学的なテーマの一つなのかな?なんて勘ぐってしまう。

で、とにかく、『ワン・フロム・ザ・ハート』は、ミュージカルタッチのラブロマンスなのだ。



歴史に残るコッポラの “大迷作”

この映画は、コッポラ監督とその周辺の人たちにとって、絶対忘れられない作品だろうと思う。
というのは、興行的におもっきしコケた映画だからだ。

製作費が、当時の額で$26,000,000で、興行収入が$636,796となっているから、
当時の円になおすと80億かけて、2億円しか取り戻せなかったことになるよね。
これはとんでもない不発だねー!

『ゴッドファーザー1・2』と、『地獄の黙示録 Apocalypse Now (1979)』で
大ヒットを飛ばしたとはいえ、この損害はでか過ぎ!
コッポラが '69年に苦心して起こした映画制作会社アメリカン・ゾエトロープ社は、
この一発で吹き飛んだんだよ。

おまけに、MGMやパラマウント、コロンビア映画社の信頼も消失。
とんでもない出来事だんだんだなー。
コッポラは、この後にも3度も会社を倒産させているから、
倒産なんてへのカッパだけど、『地獄の黙示録』の大成功の後だし、
初めての倒産、という意味で記念碑的な作品なのさ。

・・・で、気になるのは、80億円という製作費。
ちょっと待てよ、ってよく考えたら、
“ミュージカルタッチのラブロマンス” にこの額はでか過ぎでしょ。
だってね、一発目の『ゴッドファーザー』の制作費なんて、18億なんだよ。
あの『地獄の黙示録』だって約90億だから、この金額がどれほど異常な金額かわかるよね!
製作額を知ってから作品をみると感じると思うけど、
10人が10人「えー、こんなホームドラマみたいな映画に80億ってか!?」って言うはず。

なんでそんなにお金がかかったのか?
実はそれは明快。
映画のすべてのシーンが “セット” だからだ。
オールセットなんだ、とわかってて観ると、
この作品の見え方はさっきとは違ってくる。
「えー、これもセット?いったいいくらお金がかかっているんだ!?」って。

さらには、挿入歌もすべてオリジナル。
よく既成の曲を拝借してくる作戦をとるけど、
ああいうのは「イメージソング」って言って、
書下ろしほどはお金がかからないもの。
この映画の曲はすべて書下ろしの「テーマソング」で、
しかも、映画の場面場面にぴったり合ったものを
完璧な打ち合わせのもとに作ったように見受けられる。

それだものお金がかかるわけだよね。
でもね、モンダイはそこでないのだ。
マーティン・スコセッシやアンディ・ウォーホルみたいな変なお友達以外は、
みーんなこんな映画を観たくなかったということなんだな。

舞台はラスベガスなんだけど、劇中にはギャブルのシーンはちょびっとも出てこない。
この映画そのものが、一大ギャンブルだったんだな。
とてつもない資金を賭けて、絵に描いたようにスった、映画史に残る “迷作” だよーん!!

「そんな作品だから、一度は観てみたら?」っていう、
マニアックなおすすめでこの記事を書いているんだけど、
いま一度見直してみたら、けっこういいんだよね。
ストーリー追求型の人は、きっと、「全然おもしろくねーぞ」って言うと思うけど、
実はけっこうお洒落な作品だったんだなー。



コッポラの “恋愛と結婚” 感を描いた、ピュア過ぎるストーリー

002ストーリー_タイトル

時は、'80年代初頭オンタイム。
場所は、アメリカのラスベガス。
歓楽街の郊外に、ごくフツーの男女が一緒に暮らしていた。
籍は入れていないけど夫婦状態、子供はなし。
アメリカンドリームを見つけに、ラスベガスにやってきて出会った仲なんだろうね。

一緒に暮らして数年経っているのかあ、それなりの住宅地に家を構えている。
特に不足のないディンクス生活を送っているんだけど、
最近なんとなくマンネリというかすれ違いの多い日々。
ある日とうとう大喧嘩してしまって、彼女が家を出て行ってしまう。

003フラニー
彼女のほうは、バーのピアノ弾きにナンパされる

004キス
『未知との遭遇』のテリー・ガー、『アダムス・ファミリー』のラウル・ジュリア

次の日、アメリカ独立記念日の夜、ベガスの街で、二人ともがそれぞれの新しい恋をゲット。

005男二人
彼のほうは、友達とナンパに
『地獄の黙示録』のフレデリック・フォレスト、『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントン

006ナスターシャ
彼は妖精のようなサーカスダンサー(ナスターシャ・キンスキー)に魅せられてしまう

どちらの恋も、南の島や歌やダンス、マンネリじゃないセックス、新天地・・・・
言ってみれば、新しいドリームに満ちていたんだけど・・・・

007奪還

後は内緒。



幻のスタジオセット “ゾエトロープ映画村”

コッポラ監督が、『地獄の黙示録』のフィリピンでの屋外ロケで天候不順に見舞われて、
撮影延期を余儀なくされたり、台風がやってきてセットを壊されたりして、
大変な思いをしたことは有名だよね。
それから、ちょっとした太陽の翳りや鳥の飛び方まで気になる、完璧主義の監督だから
屋外の自然を利用したロケなんぞは、がまんできないものがあるのかも知れないね。

そういうわけで、
膨大な経済的&時間的コストがかかるくらいなら、全部ハリウッドにセットを作ってしまえ
ということでやってしまったんだろうねー。
完璧主義の監督が自然の絶好のチャンスを切り取るのは大変な騒ぎだろうけど、
完璧主義の監督が造るセットというのも大変なことになるに違いないよね。
どっちにしろ、大変じゃんか、ねぇ(笑)。

008セット001
巨大なネオン!

009セット002
巨大な背景画!

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広大な通り。この後、遠くで花火が上がる

オールセットかあ、とわかって見るとホント驚くよー。
どんだけ広いんだよ、どんだけ家を建てたんだよ、って感じ。
えーっ!この飛行機も造作物かよっ!?って驚くはず。

それから、ネオンで造った装飾や大道具がやたら多い。
もう、この映画は “ネオン映画” である、と言いたいくらいネオンだらけ!
デザインもすべてオリジナルで、これはもはやアート。
もちろん、電気が切れているやつなんてひとつもない(笑)。
ゾエトロープの敷地に、煌びやかなラスベガスの一角をもうひとつ造ってしまったんだなー。

011ネオン001
手間のかかったイメージカット

012ネオン002
本物のラスベガスもびっくりのネオンサイン

013ネオン003

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“つくりもの” の恋を表現しているのか?

建物、背景、大道具、小道具、衣装、インテリア、エクステリア・・・・
そうか!この映画は、“美術さん映画” なんだ!
その映像の世界でいう「美術さん」の美術という意味。
自然の中で撮るリスクもコストもなくてすむからセットにした、
なんて補完的な意味合いなんて微塵もない。
コッポラ監督は、世界一の “美術さん映画” を撮ろうとしたに違いないんだ!
これは、映画やイベントや宣伝の美術・装飾に関わる人にとっては、
ヨダレもんのムービーなんだということがやっとわかったよ。



CG夜明け前。合成技術のデパートやあ!

ルーカスの『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』を思い出すとわかると思うけど、
1980年代はまだまだSFXの時代で、1993年のスピルバーグの『ジュラシック・パーク』が登場するまで、
いまのようなCGらしいCGというのはなかったんだね。

それでも、映画冒頭のスタッフ紹介で、3DCGらしき映像があったり、
実写物の動画にに2D画像を合成してあったり、
ファンタジックな表現に、動画と動画のハメコミ合成やヌキ合わせ合成が使われていて、
当時やれるテジタルエフェクトの最先端を窺うことができる。

015オーバーラップ合成001
動画を4重にも5重にも重ねたオーバーラップ

016オーバーラップ合成002

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これはオーバーラップに見えるけど、2重セットと思われる(ガラス越しに2つのセットを同時撮影)

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動画+動画のハメコミ合成

019ハメコミ合成002
複雑な形のハメコミだねー

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3つの動画のヌキアワセ合成

まあ、SF映画じゃないので技巧的な派手さはないけど、
この映画のポップでファンタジックな、最も肝心な部分の表現力を担っているんだよ。



お洒落な音楽とダンスのテーマパークやあ!

音楽はあのトム・ウェイツ!
のちに、ジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー Down by Law(1986)』に
自ら出演して話題になったけど、当時アメリカで最もクールな音楽アーティストと言われていた人だよ。

021ジャズ01
このトランペッターはトム・ウェイツ本人

大雑把に言うと、全編がメロウでスローな4ビートジャズのメロディに包まれているイメージ。
映像と音楽のどっちを先に作ったのかわからないけど、場面場面でお互いがばっちりフィットしている。

022ジャズ02

でも、その才能はジャズだけじゃない。
ピアノ弾き語りから社交ダンス、バレエ、ミュージカル、サーカスまで、
あらゆる “音楽映像” が盛り込まれている
んだなー。
この映画を「ミュージカル映画」と呼ぶ人がいるのも不思議じゃないことがわかるね。

023ピアノ弾き語り
ピアノ弾き語り

024社交ダンス
タンゴ

025ミュージカル
ジャズダンスによるミュージカル

026サーカス
サーカスだってやっちゃう!



作品の冒頭で、トム・ウェイツとカントリー歌手のクリスタル・ゲイル
掛け合いでエッチな感じで歌う歌がコレ↓


昔から賢者は言っている
“稼ぎを恋に注ぎこむな”

搾取され うまくはめられて
そのあげく 抵当は水に流れる

岐路に立てば 方角に迷い
橋は流され 道路は閉鎖

どう考えても 結論はひとつ
恋は人を欺き もてあそぶ

恋の泥沼に 足をいすくわれて
赤いボールが 胸の急所を狙う

いつの世にも 通じるまこと
“稼ぎを恋に注ぎこむな”

どこの町を歩くときでも
目指すはメイン・ストリート

行きつく先は恋の墓場
傷ついたからだを横たえて

酒のグラスで墓穴を掘って
敗れたハートを土に埋める

昔から賢者は言っている
“稼ぎを恋に注ぎこむな”


ガハハハハー!
“稼ぎを恋に注ぎこむな” なんて歌詞が入っていたんだねー。
皮肉なハナシだねー。お洒落過ぎでしょ。



オー! マイ ナスターシャ!

実は、ナスターシャ・キンスキーが、好きん好きーなんです。
オードリー・ペップバーンをエロくした感じで、いぐねーすか?

初々しい18歳の時の『テス』( '79・ポランスキー)。
一番痩せていたと思われる『ホテル・ニューハンプシャー』( '84・トニー・リチャードソン)。
いい女になったなあ、って感じの『パリ、テキサス』( '84・ヴェンダース)。
21歳のこの作品の時は、ちょっとグラマーだった頃かなー。

主役じゃないけど、マイ・ナスターシャが出てるから3回も観たんだよ、この映画。

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ナスターシャ・キンスキーは、15歳の頃からロマン・ポランスキー監督の愛人だったんだよ。
あのやろーめ。

[クイズ] ナスターシャ・キンスキーの国籍って、どこか知っている?



この作品で、何を言いたかったんだろう

1980年代のアメリカは、レーガン大統領の時代だよね。
対ソ連&対中東政策が強化されて、経済発展の突破口を開こうとしていたけど、
そんなに簡単にはうまくいかず、
シリコンバレーがリードする半導体産業で技術を独占していたけど、
すぐに日本に追いつかれ、
自動車産業が傾き始めていた時代。
そして、税制緩和政策のレーガノミクスで、70年代を悩ませたインフレを解消したけど、
国債の増発と貿易赤字の増大化を招いて、
'85年以降には中流がすっとんで大金持ち以外はみんな貧乏になった時代。

庶民の感情としては、政治面でも経済面でも、
'60年代の戦後の繁栄の時代は終わってしまって、
アメリカンドリームを本格的にあきらめつつあった時

と言ってもいいかもしれないな。

この映画と同じ1982年にリリースされて、
その年度のグラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされた
スティーリー・ダンの片割れドナルド・フェイゲンのアルバム『ナイトフライ』(The Nightfly)でも、
アメリカの過去の栄光や失ったものへの哀愁、新しい希望の渇望などが描かれていて、
その時代の一般の人々を包む空気がどんなものなのか知ることができるよ。

そんな時代の空気を押さえながらこの作品の仕立てを探ってみると・・・
ときは、'80年代が始まったばかりのオンタイム。
場所は、ラスベガスだからネオンギラギラのアメリカンドリームのシンボルみたいなところ。
そして、物語のその日は、アメリカ独立記念日。
ほら、意味ありげでしょ?

フツーを絵にかいたようなカップルが、ラスベガスの郊外の一軒家に暮らしている。
どちらもそれなりの職業に就いていて、大金持ちでもないけど、特に不足もない暮らし。
でも、近頃なんとなくふたりはうまくいってない。
大きな夢や刺激のない暮らしが、ふたりの間にすれ違いを生んでいく。
ちょっとしたきっかけで大喧嘩したふたりは、別れようと決めてしまう。
そう、アメリカが新しいドリームを模索し始めたように、新しい恋へ。
“つくりもの” のようなベガスを捨てて
新しい連れ合いと、新しい夢を追いかけて、新しい土地へ、新しい生活をしに・・・
でも、いま以上の幸せが、そこにあるのだろうか?

コッポラは、アメリカンドリームを恋にたとえたんだと思う。
恋は、ひととき罹る熱病であって、それが治った時の状態がホントの自分なのだ。
幸せへの向きの定まらない助走であって、ゴールじゃない。

ありもしない、うそ臭いネオンの灯りの夢ばかりを追って、
いまそこにあるリアルな幸せを見紛うんじゃないよ!

コッポラは、アメリカに向かって “こころから=One From The Heart”
そう言いたかったんじゃないだろうか。

この映画の封切りからおよそ30年が経った。
産業と金融のグローバリゼーションの中いろいろな紆余曲折があって、
いまもなおアメリカは新しい再生の方法を探している。
日本だって同じ船に乗っているんだよ。

この映画は、いま観てもそのホントのメッセージが通用するんじゃないかな。



まあ、いろいろごちゃごちゃ書いちゃったけど、
この映画を観るのに妙な理屈なんかいらないかもしれないな。
ただのメロウで、ジャジーで、ファンタジックな恋の物語だからさ。

クリスマスにでも、カップルや夫婦でグラスを傾ける時のBGMやBGVがわりにして、
気ら~くに観るともなく観ればいいのだ。

それが、とてつもなく贅沢に創られた小品に対する礼儀というものでしょ?



035ポスター
映画を観ると、日本版のポスターのトンチンカンさがわかります

●『ワン・フロム・ザ・ハート』(One from the Heart)
1982年 アメリカ
上映時間:107分
配給:(米国)コロンビア映画
   (日本)東宝東和
製作:グレイ・フレデリクソン、フレッド・ルース
製作会社:アメリカン・ゾエトロープ
製作総指揮:バーナード・ガースタン
監督:フランシス・フォード・コッポラ
原案:アーミアン・バーンスタイン
脚本:アーミアン・バーンスタイン、フランシス・フォード・コッポラ
音楽:テディ・エドワーズ、トム・ウェイツ、クリスタル・ゲイル(歌)
美術:ディーン・タヴォウラリス(プロダクション・デザイナー)
   アンジェロ・P・グレアム (アート・ディレクター)
撮影:ロナルド・V・ガルシア、ヴィットリオ・ストラーロ
   トーマス・E・アッカーマン(カメラ)
   ジェイミー・アンダーソン(カメアシ)、ジョン・R・レオネッティ(カメアシ)
編集:ルーディ・ファー、アン・ゴアソード、ランディ・ロバーツ
出演:フレデリック・フォレスト、テリー・ガー、ラウル・ジュリア、ナスターシャ・キンスキー、
   レイニー・カザン、ハリー・ディーン・スタントン、カーマイン・コッポラ、イタリア・コッポラ、
   アレン・ガーフィールド、ルアナ・アンダース、レベッカ・デモーネイ ほか
受賞:第55回アカデミー賞
   [ノミネート]・音楽賞(トム・ウェイツ)


許す! ~ 『許されざる者』


9月13日に封切られた次の日、14日(土)に観に行ったよ。

001日本ポスター

なんたって、大好きな『フラガール(2006)』の監督の最新作だし、
故郷の北海道開拓時代のハナシだし、
クリント・イーストウッドのアカデミー賞受賞作の “時代劇リメイク版” だからね。
おーっ、『七人の侍』みたいなすげー映画かもしんない!って想像するわけだ。

前日にネットで、午前中の回に座席指定を入れて、絶好の位置を確保。
ちょっとの曇りもない気持ちで、ポップコーンもコーラも買わないで
鑑賞に臨んだんだけど・・・

あれっ?なんだろなあ、あんましおもしろくねーなー。
時代劇なんだから、どっかで、主人公が敵をバッタバッタ切り倒すんじゃないのかい?

西部劇って、建物の陰に隠れながらバンバン撃ち合ったり、
息詰まる緊張感のなか、一対一で決斗するとか、
たった一人で一瞬にして何十人も撃ち殺すとか、
“ガン・ファイト” のクライマックスシーンがあるから、
「おもしれー!」とか「スカッとしたぜー!」ってなるもんだよな?

『許されざる者』の日本版は、その西部劇のリメイクなんだから、
座頭市みたいに、一人で大人数をズバズバ切りまくるとか、
巌流島の決斗みたいな腕にモノを言わせるような、
手に汗握る “殺陣” が展開されるんだと思ってた。
ラストのほうで、一対複数のファイトがあるんだけど、
なんだかスカッとしなかったんだよ。

それから、この作品は、明治維新後の開拓時代の北海道のハナシなので、
幕府軍側の残党や、アイヌや、入植者や、開拓使などが、
何か社会派的なテーマで物語を展開するんじゃないか、
という期待もあったんだけど、
それも “何かを訴える” というほどのことでもなかった。

なんだなんだ?
これは、おもしろくねーな。
娯楽的な要素はなんにもナシ!
社会派問題提起もナシ!

ついこの前に、タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』を
観たばっかりだったせいもあると思うけど、物足りない、のひとことだ。

その特徴は・・・・
① 誰が善で、誰が悪なのかはっきりわかんない
② 戦いシーンが少ない
③ 敵をズタズタにして、やっつけてやった的なカタルシスが弱い
④ 明治維新や北海道開拓、アイヌ差別問題など社会派的な色合いも薄い
★しかし、映像の美しさやセット、衣装、演技などは、ピカいちだぞ!!


なんかおかしいぞ、李相日監督ともあろうものが、こんなはずないだろ。
どういうことだ?

・・・・というわけで、翻作元のクリント・イーストウッドのほうの
『許されざる者』(Unforgiven)を観てみることにしてみた。
もともとは、どうなってんだ?
アカデミー賞を4部門もとった作品がおもしろくないわけがないよなー、
という気持ちで。
そう、恥ずかしながら、ストーリーやその評判というものは知っていたものの
中身を観たことがなかったんだよ。



[あらすじ]

1881年のアメリカのロッキー山脈付近の町でのハナシ。

かつて列車強盗や保安官殺しで有名だったマニーは、
改心して、田舎町で2人の子供と農家をして暮らしていた(奥さんはすでに他界)。

そこへ、マニーがもと殺し屋だったことをどこかで知ったキッドという若者がやってきて、
賞金首の2人のカウボーイを狩りに行こうと持ちかける。
自分は真人間になったんだ、とマニーは断るけど、現状、あまりにも極貧であり、
子供たちのためにその賞金稼ぎの話に乗ることにする。
昔の悪党仲間のローガンも誘い込み、途中でキッドと合流して、その街へと向かう。

2人のカウボーイに賞金をかけたのは、その町の売春宿に働く女たちだ。
カウボーイの一人が、お付きの売春婦ともめてナイフで女の顔を切り刻む。
怒った女たちは、みんなでお金を出しあってそのカウボーイ2人に賞金をかけたわけだ。

そうして賞金稼ぎの3人は、町へやってくる・・・。
あとは、内緒。



ストーリーは申し分ないんだけど、
うーん、僕の知っている西部劇とは、ずいぶん感じが違うなあ。
やっぱり善悪がはっきりしないし、ガン・ファイトも爽快じゃない。
なんとなくカッコ悪いんだ。

でも、これはおもしろい!
なるほどー、『許されざる者』(Unforgiven)は、フツーの西部劇じゃないんだなー。
そもそも原作がフツーじゃないんだ。

ガンマンも年を食えば弱っちくなるし、
拳銃なんてホントは撃ちまくるわけでもないし、
そうそう簡単に的に当たるわけでもない。
ガンマンの過去の武勇伝なんて、たいがいホラばなし、
まともなやつなら、そんなに簡単にポンポン人を殺せるわけがない。
世の中、どっちが正しくてどっちが悪いなんていつもはっきりしてるわけではないし、
必ずしも正義が勝つわけでもない。
勝ったからといってスカッとするわけでもない。


・・・そんな文脈で描かれているんだなー。
過去の作品みたいな勧善懲悪のファンタジーじゃなくて、
言ってみれば “リアルな西部劇”
なのだ。
そのカッコ良すぎない、徹底したリアリティが、
ずっしり手ごたえのある “新しい、最後の西部劇” を生み出したんだなー。
だから、西部劇の名作となったんだ、と解釈させてもらったよ。



じゃ、日本の『許されざる者』は、なんでスキッとしないんだろう?
見事にオリジナル版をリメイクしているのに。
それは、日本版『許されざる者』は西部劇ではないし、
チャンバラ時代劇でもないからだと思う。

アメリカ版『許されざる者』(Unforgiven)は、“いつもの西部劇” を想像して観る人を
巧妙に裏切って新しい西部劇へと連れて行く
しかけになっているのに対し、
日本版には、“いつもの○○○” がないから、どこへも連れて行かれないんじゃないかな?

“いつもの北海道開拓時代の無法者が賞金稼ぎをするハナシ” なんて聞いたことないし、
おまけに、フツーじゃない西部劇をなぞっているもんだから、
フツーじゃない “北海道開拓時代の無法者が賞金稼ぎをするハナシ” になっちゃっているんだな。
現に李監督は、「今の日本で時代劇を撮るなら、簡単には割り切れない善と悪をテーマにしたい」
と語っているんだよ。
つまり、ダブルパンチでわかりずらくなっているんじゃないかな?



でも、僕はこの日本版の『許されざる者』も好きだ。
郷里の風景を切り取った映像がものすごく美しいし、
ボロい家屋のセットの巧妙さや衣装のリアリティには驚かされるし、
なによりも、俳優さんたちの演技がピカいちで、
ワールドクラスのクォリティの高い映像を見せてくれるからだ。

それから、少なくとも、開拓時代の北海道にはこんな村があって、
こんな開拓使や、アイヌや、娼婦や、幕府軍側の落人や、官軍側の元武士や、
冬の寒さに耐えられそうもない家屋や、手つかずの風景など、
頭の中のぼんやりとした想像でしかなかったものを可視化してくれているからだ。

でも、物語のテーマはバツグンなんだよ。

子供への愛情や友への友情・・・主人公が果たそうとする正義と、
保安官が振りかざす正義が対峙する。
自分をまっとうにしてくれた奥さんへの深い愛が葛藤を生む。

そして、主人公はどうするのか、奥さんは、主人公を “許す” のだろうか。
その後、自分や子供はどう生きるのか・・・。


僕が言いたいのは、元作とそっくりじゃなくなってもいいから、
そのテーマがもっとガツーンとくるように作ってほしかったということ。



002_3人馬_日
003_3人馬_米
日本版では、賞金稼ぎの言いだしっぺは、キッドじゃなくておっさんのほうだ

004主役_日
005主役_米
同じエンジ色の服だねー

006女将と娼婦_日
007女将と娼婦_米
小池栄子は、やっぱりすごかった

008相棒_日
009相棒_米
いままでで一番すごい柄本明を観た

010キッド_日
011キッド_米
これが、柳楽優弥だったとは!

012作家_日
013作家_米
半沢直樹の同期の裏切り者、踊る大捜査線の王(ワン)さんだよね

014保安官_日
015保安官_米
佐藤浩市は、ジーン・ハックマンとはだいぶん違うよね

016風邪リンチ_日
017風邪リンチ_米
風邪を引いて弱っているのに、保安官にいたぶられるシーン

018主役と娼婦_日
019主役と娼婦_米
このシーンのダイアログはジーンとくるなあ 顔に傷があってもかわいいものはかわいい



020ポスター日米比較

●『許されざる者』(Unforgiven)
1992年 アメリカ
上映時間:131分
配給:ワーナー・ブラザーズ
製作:クリント・イーストウッド
製作総指揮:デヴィッド・ヴァルデス
監督:クリント・イーストウッド
脚本:デイヴィッド・ウェッブ・ピープルズ
撮影:ジャック・N・グリーン
編集:ジョエル・コックス
美術:エイドリアン・ゴートン、リック・ロバーツ
プロダクション・デザイン:ヘンリー・バムステッド
音楽:レニー・ニーハウス
出演:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン、リチャード・ハリス、
   ジェームズ・ウールヴェット、ソウル・ルビネック、フランシス・フィッシャー、
   アンナ・トムソン、アンソニー・ジェームズ ほか
受賞:第65回アカデミー賞
   [受賞]・作品賞・監督賞・助演男優賞・編集賞
   [ノミネート]・脚本賞・主演男優賞・撮影賞・美術賞・音楽賞
   第50回ゴールデングローブ賞
   [受賞]・監督賞・助演男優賞
   [ノミネート]・ドラマ部門作品賞・脚本賞
   第46回 英国アカデミー賞
   [受賞]・助演男優賞
   [ノミネート]・作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞・音楽賞
   第27回 全米映画批評家協会賞
   ・作品賞・監督賞・助演男優賞・脚本賞
   第57回 ニューヨーク映画批評家協会賞
   ・助演男優賞
   第27回 カンザスシティ映画批評家協会賞
   ・作品賞・監督賞・助演男優賞
   第13回 ロンドン映画批評家協会賞
   ・作品賞
   第18回 ロサンゼルス映画批評家協会賞
   ・作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞
   第37回 サン・ジョルディ賞
   ・外国作品賞

●『許されざる者』
2013年 日本
上映時間:135分
配給:ワーナー・ブラザース映画
製作:久松猛朗
製作総指揮:ウィリアム・アイアトン
製作会社:ワーナー・ブラザース映画、日活、オフィス・シロウズ
監督:李相日
原作:デイヴィッド・ピープルズ著 ワーナー・ブラザーズ製作 映画「許されざる者」
脚本:李相日
撮影:笠松則通
編集:今井剛
照明:渡邊孝一
録音:白取貢
美術:原田満生、杉本亮
装飾:渡辺大智
衣装デザイン:小川久美子
ヘアメイク:橋本申二
音楽:岩代太郎
出演:渡辺謙、柄本明、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、近藤芳正、國村隼、滝藤賢一、
   小澤征悦、三浦貴大、佐藤浩市 ほか
受賞:???????????