もう一人のジョナサン・デミ ~ 『サムシング・ワイルド』



その昔、会社員になってからバンドをやっていたことがあるんだよ。
その仲間と、「やっぱ、ロック映画といえば『レッド・ツェッペリン狂熱のライブ』だよな」とか
「いや、ストーンズの『ギミー・シェルター』じゃないか」なんて言い合っているところへ、
ヴォーカルのみっちゃんが、「トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』だろー」って言う。

その当時僕は、MTVでさかんに流れてた「Road To Nowhere」1曲しかトーキング・ヘッズを知らなくて、
しかも、テクノっぽくてコミカルな印象だったので、特に好きでもなかったんだよ。
でも、みっちゃんが「すっごくいいいぞ、ビデオ持ってるから貸してやる」というので、
あまり乗り気でもなく『ストップ・メイキング・センス』を観てみることになったんだった。

しかし、これは観てびっくり!このロック映画は、ホントにすごい映画だったんだよ。

何がすごいって、この映画には空だの海だの山だの彼女だののイメージカットは一切ないし、
メタファー的な抽象的なカットもない。
メンバーのオフでのようすや、視聴者への語りかけのカットもないし、ストーリーもない。
ただひたすら、ライブツアーでやった演奏シーンを編集でつなぎ合わせているだけなのだ。

だのに、最初からクイッと首根っこをつかまれて、
だんだん興奮してきて、最後にガツーーーーンと感動させられてしまう

特にトーキング・ヘッズが好きでなくてもだ。

これにはホントにびっくりしたねー。
トーキング・ヘッズって、MTVで観るかぎりでは、
ニューヨークの音楽オタクが寄りあった、ヘロヘロしたテクノ系ニューウェーブバンド、
って印象で、スノッブな魅力はあるものの、ガツーンとくる感動とは縁遠いものと思っていたんだ。
“バンドの実力と、デビッド・バーンの狂気のパフォーマンス” のせいもあるけど、
やっぱりこれは、この映画を編集した人間の力量のすごさのせいなんだと結論づけたね、僕的には。

そいつが、監督の “ジョナサン・デミ” だったというわけ!

それからしばらく経って、また、みっちゃんが、「ジョナサン・デミが監督した映画で、
『サムシング・ワイルド』って映画のビデオ買ったんだけど観る?」
というので、もちろん、すかさず借りて観た、のがこの映画との出会いだったんだよ。



前置きが長くて、すんません。
何のハナシか見えなくなりそうになっちゃったけど、
そうそう、『サムシング・ワイルド』のハナシ。

001車2

この映画は、そんなぐだぐだしたゴタクで観る映画ではなくて、
手離しで “おもしろい” 映画なんだよ。
んーと、カンタンに言うと、トレンディドラマだな。

002ダンス2

003ダンス

メラニー・グリフィスが演じる、かわいくて、ちょっと破天荒な女の子と・・・

004メラニー3

005メラニー2

ジェフ・ダニエルズ演じる、弱っちいエリートニューヨーカーの恋のハナシ。

006ジェフ

さらに、あのレイ・リオッタが “コワイ系” で名を上げる、サスペンスドラマでもあるんだな。

007レイ

出だしから奇想天外な展開で、最後までわくわくドキドキ、胸キュン(古い)で楽しめる!

008車



ジョナサン・デミというと、アカデミー監督賞をとった『羊たちの沈黙』や
『フィラデルフィア』みたいな社会派映画の監督か、って感じだけど、
この映画はまったくテイストが違うんだよ。
“ニューヨークを中心とする、80年代のしらけた管理社会に一石投じた” って、
無理に社会派な評をつける人もいるけど、僕はそうじゃないと思う。
ポンポンストーリーが展開する、お洒落なB級ラブコメディ・サスペンス、って感じの
肩の力を抜いて観れる映画だと思う。
ホントは全然B級じゃないんだけどね。

アメリカの映画って、たいがい、スーパーヒーローが出てきて問題を解決するハナシが多いけど、
この映画みたいな “フツーの人がちょっとしたハプニングにあって、
ココロがあったかくなる” 系の映画文化もあるよね。
たとえば、『アパートの鍵貸します』(1960年、アカデミー賞5部門受賞)や
『グッバイガール』(1977年、アカデミー主演男優賞、ゴールデングローブ・作品・主演男・女優賞)。
ジョナサン・デミは、'80年代のコレ系を狙ったのかもしれないと思うな。



しかしだ、観るとわかると思うけど、
この映画は『アパートの鍵貸します』や『グッバイガール』とは、なんとなく違う。
そう、なんとなく。
ストーリーを口にしてしまうと、よくできた都会の男女のトレンディドラマ、って感じなんだけど、
ベタなトレンディドラマやラブコメとは、ちょっと空気が違うんだなあ。
サブカル系というか、ちょっとお洒落な感じ。
“なんとなく軽妙な味がある” とでも言うのかなあ、
そのせいで、僕は10回以上は観てしまった、この映画を。

定評では “モンドムービー” とか “カルトムービー” なんて言葉が使われることが多いけど、
そこまで “変な” 映画でもないよ。
でも、ハリウッドの商業映画、って感じでもない。

ちょっと脱線するけど、“妙な味がある映画” といえば、
僕は大林宣彦監督の『姉妹坂』という作品を思い出しちゃいます。
そりゃ、世界の映画を全部観たわけじゃないので、他にもたくさんそれ系はあるんだろうけど。

『姉妹坂』の原作は、大山和栄さんが描いた漫画で、まじめで美しいストーリーのはずなんだけど、
映画はのっけから、なんか、わざとらしい演出で展開するんだよ。
わざとらしい背景、恥ずかしげもないセリフ、わざとらしい抱擁、わざとらしいアングル・・・、
「大林さん、何やってるんだ?この映画、いやいや引き受けたのかな?」って感じ。

原作は、美しく、凛と、まじめに、感動を追求しているのが伺えるんだけど、
映画の演出は、なんか、そのまじめさや美しさを茶化してる感じでひょうひょうとハナシが進む。
観てるほうも、斜に構えて、ニヤニヤ観ることになる。
でもね、最後にちゃんとでっかい感動がやってくるようにできているんだ。
妙な味わいがありそうでしょ?
これは、監督の腕以外の何物でもないと思うな。
あんな撮り方をできる監督が、日本に他にいるかなーー、っていまでも思う。

大林監督って、子供みたいに何でもやっちゃうんだなー。
↓それが、75歳になったいまでも健在らしい、という作品があるんだな。
「映画的日記」

僕のサイトの「リンク」にもあるけど、映画カッパさんのブログ。
大林映画に興味がわいたら行ってみてください。
わかりやすくて、あったかくて個人的にとても好きなサイトです。


はい、脱線もとい。
それで、その『サムシング・ワイルド』が、なんとなくお洒落、ってハナシへ。
それは、きっと、音楽のせいなんだなあ。

冒頭から、そのトーキングヘッズのデビッド・バーンの歌だしぃ。
この頃からデビッド・バーンは、アフロポップって言うのかな、
アフリカのリズムと旋律に凝っているので、そんな曲。
ニューヨークの風景と合わせると、なんともミスマッチなトーンで、
コミカルで人を食った感じのスタートになってる。

ちなみに、デビッド・バーンは、アカデミー作曲賞を受賞した
ベルトリッチの『ラストエンペラー(1987)』で、
坂本龍一、コン・スーとともに音楽を担当したメンバーのひとりなんだよ。


挿入歌もコミカルな感じだったり、出演者が歌っていたり、クールでファニーなタッチ
特に、劇中のクラス会のシーンでは、
あまり有名ではないけど、「フィーリーズ(The Feelies)」というバンドが登場して、
あまりうまくない素人バンドのフリをして演奏してる。
ファンならヨダレもんのカットだね。

009THE-FEELIES4

010THE-FEELIES3

そう、このフィーリーズもトーキング・ヘッズも、
当時、NYニューウェイブというカテゴリーでくくられていたんだね。
んー、色白でひょろくて、音楽オタクで、キモかわで、こそっと批判的な歌詞・・・・
ってなイメージかな。
およそ、アメリカ的じゃないバンドだね。
この映画のアメリカ的じゃない “妙な味” は、この音楽のテイストが原因のひとつなんだな。

そして、エンドロール!
Sister Carol という黒人のグラマラスなおねぇちゃんが、
街中のビルの陰で、レゲェのリズムの『Wild Thing』を踊りながら歌う。
画面の左半分がそれで、右半分のビルの壁にエンドロールが流れる。
ちょびっとこっぱずかしくて、すっとぼけてて、めっちゃカッコイイ!!
ハリウッド映画で、こういうのは珍しいよね。

011エンディング

日本映画でも、出演者が劇場の観客に語りかけたり、
エンドロールで俳優が出てきて歌を歌ったりってのは珍しいけど、
そうそう、これも大林監督はとっくの昔にやっちゃってる!
原田知世や富田靖子が出てきて、映画館の客に手を振りながら歌を歌ったり、
「さびしんぼーーー」って叫んだりする。
僕は、リアルタイムではそれが恥ずかしくてしょうがなかったんだけど、
何度も観てるうちにああいうやり方が、大好きになってしまった。
観た後の「あーあ、終わってしまった」という寂寥感をぶっとばしてくれるからだ。

『サムシング・ワイルド』は、エンドロールでも僕の胸の中の琴線を弾いた。
だからもう、好きでたまらない映画になっちゃったんだな。



012米国版ポスター

●『サムシング・ワイルド』(Something Wild)
1986年 アメリカ
上映時間:114分
配給:20世紀フォックス
監督:ジョナサン・デミ
製作:ケネス・ウット、ジョナサン・デミ
製作総指揮:エドワード・サクソン
脚本:E.マックス・フライ
撮影:タク・フジモト
音楽:ジョン・ケール、ローリー・アンダーソン
出演:メラニー・グリフィス
   ジェフ・ダニエルズ
   レイ・リオッタ
   ジョン・セイルズ
   ジョン・ウォーターズ
   マーガレット・コリン
   トレイシー・ウォルター
   ダナ・プリュー
   ジャック・ギルピン
   ロバート・リッジリー
受賞:ゴールデン・グローブ賞ノミネート(メラニー・グリフィス、ジェフ・ダニエルズ、レイ・リオッタ)
   ボストン映画批評家協会賞 助演男優賞(レイ・リオッタ)


Comment

レイ・リオッタだ!
男前なのに不気味な役柄がお似合いの
レイ・リオッタ。

若くてシャープだ。

現在はかなり老けちゃってます。

この映画がコワイ系で名を上げるきっかけだったのですか???
  • 2013/05/21 23:20
  • ちっち
  • URL
Re: レイ・リオッタだ!
ちっちさん、こんにちは!

そうそう、この映画以前のテレビ出演などはわからないんですが、
レイ・リオッタが “コワイ系” でそのド迫力を世に認めさせた
作品のはずです。

うん、まだ若くてめっちゃかっこいいですよ!
劇中の演技も群を抜いてすばらしいです。

「フィールド・オブ・ドリームス」でもちょろっと出ていますが、
この時代の彼は、男の僕でも惚れてしまうくらいキリッと
いい男ですよね。

楽しい作品ですよ。
機会がありましたら、ぜひどうぞ。
  • 2013/05/22 01:55
  • つかりこ
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