これを知らないとおもしろくない② ~ 『イージー・ライダー』



イージーライダー_ライディング01

「60年代アメリカの若者文化を見事に描いた映画」

この映画の評や視聴者レビューで一番多いのがコレ。
でも、この評なら、間違いじゃないけど30点くらいかなあ。
こう思って観るから、ラストシーンの意味がわからなくなるんだろうなあと思う。

あのラストシーンを、“社会の「理不尽さ」や「不条理」を象徴的に描いた”、
という人もいるから驚きだ。
たしかに、アメリカン・ニュー・シネマ的なショッキングな終わり方かもしれないけど、
あれは、何かを象徴した遠回しな表現ではなくて、 “何の含みもないリアルな表現” だよ、と言いたいな。
僕には、この映画には、何の比喩もパラドックスもアイロニーもシュールな表現も見受けられない。
まあ、LSDでラリラリになるところ以外は、だけど。
LSDなんてやったことないから、わかんないもんね。

そう、この映画の「これ知らポイント」は、
ずはり “1950~60年代のアメリカの政治・社会を知ること” だ。
特に、“人権問題、人種差別問題” を知るべきだろうなー。
かなりネタバレになるけど、そこらへんのことを書いておこうと思う。
観たけどよくわからない、という人にはもってこい、
まだ観てない人は、後から読んだ方がいいかも。


試しに、会社の後輩で、30才代半ばで映画好き、というのがいるので、
『イージー・ライダー』を観てもらって、カンタンな感想を聞いてみたら、やっぱり・・・。


●全体的に何を言っているのかよくわからない。ただ、パワーは感じる。

そう、ただの若者カルチャー映画として観たら、
当時のアメリカの若者カルチャーってつまんないじゃん、
としか観えようがないよね。
パワーを感じるというのは、
この映画が “カウンターカルチャー(反体制)” 映画だから、
それを肌で感じたんだろうな。
“アメリカン・ニュー・シネマ” って言って、若者が低予算で反体制的な映画を撮るのが
’60年代から’70年代のムーブメントだったんだよ。


●バイクに乗って、ロックミュージックに乗って、序盤はカッコいい。

当時、アメリカでは「バイク映画」が流行っていたらしいんだ。
ロックも、もろジミヘン時代、この映画のリリースされた’69年は、
あのウッドストックの開催された年なんだよ。
「Born to be wild」に乗って、バイクで走るぜ~、というだけで
集客のツカミはオッケーだったんじゃないかな。
でも、当時のアメリカの若者でも、この映画を
「おっ、ロックに乗ってバイクに乗ってぶっとばすなんて、かっこいいぜ」と思って観に行ったら、
物語の途中から重い社会派になって、ラストシーンでぶっとんだだろうね。

ところで、ハーレーを改造した “チョッパーバイク” は、いま見てもまったく古くない。
この映画のやつが、チョッパーの原型みたいなもんなのに、すでに完成されているね。
これ以上のアメリカンチョッパーは、この先に生まれるのかなあ?って感じ。


●カトリックの家族、ジプシーみたいな人たちの村、刑務所とアル中弁護士、謝肉祭と娼婦、
そしてエンディング・・とそれぞれの意味や脈絡がわからない。


脈絡なんてないんだよ。
バイクで旅をしていろんなとこへ行って、いろんなアメリカを表わしているんであって、
一本のストーリーじゃないんだよ。
それから、ジプシーじゃない、ヒッピーのコミュニティだよ。
体制のお世話にならないで、自給自足の村を作ろう、という行動する人たちもいたんだ。
あれは、何かの比喩表現じゃなくて現実、ホントにあったんだよ、ああいうのが。
日本でも、コンセプトが違うけど、
武者小路実篤が1918年に始めた「新しき村」ってのがいまでもあるよね。


●あの酔っ払い弁護士の行く末と、ラストシーンの理由は解釈が難しい。

観たままだよ、解釈なんて必要ない。
あれが、実在してた現実


そう、何にも知らずに観ると・・・

「サンフランシスコ(西部)の若者が、ニューオリンズ(南部)をめざして
ノリノリでバイクで自由気ままな旅に出るけど、
途中で意味のわからない人たちやイヤなやつらに出会ったりして、
おもしろいことなんてありゃしない。
ラストシーンは、飛躍しすぎていると思うけど、ドラッグはやっぱりいけない、
ということを言いたいのかな、この映画は」


・・・という感想になってしまうと思う。

そう、それでは、
この映画のクライマックスといえるラストシーンの意味がまったく伝わっていない
ということになるんだよ。

やっぱり、当時のアメリカの時代背景を知ったうえで、
この映画をきっちりリアルなドキュメンタリーを観るように観るべきだな。

じゃ、’60年代のアメリカはどんなんだったんだろう。

大雑把に言うと、2つ。
一つは「紛争」の時代。
アメリカが、“自分ちの庭” だと思っていた中米で、キューバがソ連とくっついて共産化。
それに対するアメリカの軍事作戦と、キューバを核ミサイル配備で支援するソ連がにらみあいをして、
危うく核戦争が始まるのでは、というところまで行った出来事=キューバ危機と、
ベトナム戦争の開始だ。

もうひとつは、「反人種差別運動」
社会保障がなく差別に苦しむ黒人が起こした「公民権運動」や、
ネイティブアメリカンの「レッド・パワー運動」などだ。

特に、国内の反人種差別運動は激しく、
1963年の「人種差別反対ワシントン大行進」を始めとする黒人デモの多発や
ネイティブアメリカンによる「アルカトラズ島占拠事件」や「ウーンデッド・ニー占拠抗議」などが
頻繁に行われて、それに対する弾圧も厳しかったんだな。

同年には、黒人の公民権活動に肯定的で、ベトナム介入に否定的だったケネディの暗殺事件。
’65年には黒人による「ロサンゼルス暴動」が起きたり、ベトナム戦争が始まったり、
’68年の黒人運動の指導者的存在だったキング牧師の暗殺など、血なまぐさい事件が相次いだんだ。

’69年には、オルタモントでのストーンズのコンサートで、黒人青年が惨殺されたり、
NYのゲイ・バー「ストーン・ウォール」でゲイによる暴動が起こったり・・・。

ポイントは、人権運動や反戦運動など、政府に反抗する活動は、
かるーくあたりまえのように、暴力や死をもって制裁が加えられていたことだ。
なんにもしていないのに、適当な罪状を突きつけられて刑務所に入れられた
黒人やネイティブアメリカンが数えきれないほどいたそうだ。
白人が黒人を傷害または殺害しても、不起訴になるケースもたくさんあったようだ。

当時、保守的なアメリカ南部の街をただブラブラ歩いていて、
いきなり誰かに襲われても不思議じゃない人種ランキング
というのがある↓。

① 黒人
② 黄色人種
③ ヒッピー、ゲイ


①よりも危ないケースが、黒人と黄色人種のグループだ。

社会の “違和感” を暴力で排除する時代だったんだね。
ケネディ大統領だって、キング牧師だって殺されたくらいなんだからさ。

でも、この映画をラストまで観た時の当時のアメリカ人の感想は、
住んでる地域の違いで異なったんじゃないかと思う。
東部や西部のリベラルな人たちは、「おー、なんてこったい、わが国の現状はこんなんかい」、
南部の保守的な人たちは、「あたりまえだろ、ざまーねぇーやな」、
って、まったく反対のセリフを吐いたんじゃないかと。

でも、この二元性があったからこそ、この映画はいろんな圧力を撥ね返して、
アメリカン・ニュー・シネマの代表作として歴史に残ることができたんだろうと思う。
だって、当のアメリカ映画界だって、当時はバリバリの右寄りだったんだからさ。


監督は、ちょっと前に亡くなってしまったデニス・ホッパー
「ブルーベルベット」での変態の役が大ハマリだったよね。

イージーライダー_デニス

資金集めと主役をやったのが、ピーター・フォンダ
「エアポート'75 」(1974)や「カプリコン・1」(1977)なんかにも出てる
カレン・ブラックは娼婦役。

イージーライダー_カレン

デニス・ホッパーとピーター・フォンダがつるんで、
作ろうぜ!ということで、資金もないのに始めたらしい。

イージーライダー_ニコルソン

そして、若きジャック・ニコルソン
顔の表情がすごいね!
この映画でたった一人、この人だけが本物の俳優であることがわかる。

おもしろいのが、冒頭でヤクの売人役で出てくるのが、
あの超大物音楽プロデューサーのフィル・スペクター
ビートルズの「レット・イット・ビー」やジョン・レノンのプロデュースで有名だよね。
2013年現在は、殺人罪で収監中だけど。

音楽は、ステッペンウルフの「Born to be wild」から始まって、
ザ・バンド、ジミー・ヘンドリックス、ロジャー・マッギンなどがバイクを走らせる。

イージーライダー_ライディング02

カメラのラズロ・コバックスという人が異色で、
ソ連が軍隊を侵攻させたハンガリー動乱を命がけで撮影し、
それを持ち出してアメリカに政治亡命してきたという。
後に、「ペーパー・ムーン」(1973年・ピーター・ボグダノビッチ)や、
「ニューヨーク・ニューヨーク」(1978年・マーティン・スコセッシ)
「ゴースト・バスターズ」(1984年・アイヴァン・ライトマン)などを撮って
いまや超有名なアメリカ人カメラマンに。

一緒に亡命してきたヴィルモス・ジグモントという人も、
後に「未知との遭遇」「ディア・ハンター」などを撮ったんだよ。

その頃の映画は、「ニュー・アメリカン・ドリーム」
と呼ばれるムーブメントになっていたんだな。
1973年のベトナム戦争の終わりとシンクロするように、
「アメリカン・ニュー・シネマ」の風は止んだんだった。



イージーライダー_ポスター

●『イージー・ライダー』(Easy Rider)
1969年 アメリカ
上映時間:95分
配給:コロムビア・ピクチャーズ
監督:デニス・ホッパー
製作:ピーター・フォンダ
製作総指揮:バート・シュナイダー
脚本:ピーター・フォンダ/デニス・ホッパー/テリー・サザーン
撮影:ラズロ・コヴァックス
美術:ジェレミー・ケイ
編集:ドン・キャンバーン
選曲:デニス・ホッパー、ピーター・フォンダ
出演:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソン、カレン・ブラック、
   ルーク・アスキュー、アントニオ・メンドーサ、ロバート・ウォーカー・Jr、
   ルアナ・アンダース、トニー・ベイジル メアリー、フィル・スペクター、
   ウォーレン・フィナーテ、サブリナ・シャーフ、サンディ・ブラウン・ワイエス
受賞:カンヌ国際映画祭新人監督賞(デニス・ホッパー)
   国際エヴァンジェリ映画委員会賞
   NY批評家協会賞(助演男優賞)
   アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録(1998年)


コメント

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名作ですね。

私のブログにコメントいただきありがとうございます。<(_ _*)>

当時のアメリカの時代背景とラストの考察、とっても解り易いです♪

なるほど~ラストひとつとってもアメリカ国内でさえ東西部と南部でそんなに感じ方が変わったであろうとゆー時代だったんですね。

私のアホなブログにリンク貼ってもいいですか?∩(´∀`)∩

Re: 名作ですね。

朱縫さん、ご訪問&コメントありがとうございます!

長くて、くどい記事を読んでくださって、
ありがとうございました。

僕もこの映画、最初に観た時は、
「考えて観る映画じゃないな、感じる映画なんだ」と思ったんですが、
どうしてもラストが釈然としないままでいたんです。

それから、何年も経ってから、
本田勝一氏の『アメリカ合洲国』という本を読む機会があって、
目からウロコが落ちたんですよ。

ここに書いたことは、僕の憶測ではなくて、
この作品の解釈として、いまや “定評” なんですが、
封切りからずいぶん経っているため、
忘れ去られようとしているようすなので、書き残してみました。

朱縫さんのブログ、最近知ったばかりなのですが、
とってもおもしろいですねー、大好きです!
自由ないろんな考えがあっての映画だと思います。
これからも、感じるままの批評を聞かせてくださいねー。

リンクもちろん大歓迎です!
こちらからお願いしたいくらいです。
僕のサイトにも、リンク貼らせてくださいねー。

これからも、どうぞ仲良くしてやってください。
<(_ _)>

遅くなりました!

ちょっとPC開いてなかったんで、せっかくリンク承諾いただいたのに貼れてなかった、ごめんなさい!
やっとこ貼りました!!♪

うわぁ~ヽ(゚Д゚;)ノ!!
あたしのアホブログにリンク貼っていただけるなんてもったいないやらなんやら…

私のアホブログを見て「もっと詳しく知りたい!」って方が貴ブログで欲求を満たしてくれる事を祈ります。。。(虎の威を借るナントヤラ)

ブログ最近始めたばっかりなんです(つω`*)

たびたび来訪いただいて嬉しいです。
こちらこそっ、
仲良くしてください。

ありがとうございます!!

Re: 遅くなりました!

リンク、ありがとうございます!!
朱縫さんの、ブログにリンクを張っていただけるなんて、
とてもうれしいです!!

アホブログ、だなんてとんでもない!!
いろいろ、あちこちの映画ブログを拝見していますが、
朱縫さんのは、バツグンにおもしろいですよ。
ご自信の意見や感想がいっぱいなところがいいなー、
つて思います。

これからも、いいたいことを遠慮せずに
バンバン書いてくださいねー。
楽しみにしております!

映画の好きな人と、感動をシェアできるって、
うれしい、楽しいです。