小料理屋のような酒と肴と会話と ~ 手打ち蕎麦処 『火群(ほむろ)』



蕎麦屋ってなんだろう、ってたまに考えることがある。
めし屋なのか、呑み屋なのか、料亭なのか・・・。

それは蕎麦屋が、“○○庵” とか “○○屋” とか言っても、
高いのか安いのか、うまい酒やツマミがあるのかないのか、こだわり系かフツーなのか、
店名やお店の外観、営業時間などではわかりずらいからだと思う。

イタメシ屋なら、パスタ屋なのか、ピザ屋なのか、トラットリアなのか、リストランテなのかで
どんな使い方をしたらいいのか、なんとなくわかるよね。
和食なら、食堂なのか、居酒屋なのか、小料理なのか、割烹なのか、懐石料理なのかなどでそれとなくわかる。

でも、蕎麦屋となると急に難しくなるよね。
天ぷらとか寿司とかうなぎとか、専門店だと難しいのかなあ。


① ウチは「めし屋」である

営業時間は、昼と夕方の3時間ずつくらい。
丼物とのセットメニューもいろいろある。盛りもいい。
時にはチキンライスもあったりする。値段もだいたい安い!
酒は日本酒1種とビール大瓶、つまみは枝豆くらい。
そう、働く者の強い味方、いつもの店だ。
バカにしているんじゃないよ、僕は実はこういう店が大好きなんでーす。
腹いっぱい、幸せいっぱい食べられるし、
「蕎麦は手打ちで、天重も天ぷら屋顔負けのうまさ」、
というような店も探せばけっこうあるからね。
こういう店が、1980年代までの日本の経済成長を引っ張って来たんだよ。
残念ながら、最近はこういう店を見つけるのが難しくなってきたね。
昔は、駅前といえば1軒や2軒必ずあったんだけど。


② ウチは「ちゃんとした蕎麦屋」である

営業時間は、昼3時間&夕方3時間くらい。
蕎麦屋らしいメニューがそれなりの値段で押さえてあって、
季節を感じさせる天ぷらなどもその折々にある。
ツマミも伝統的な品書きのほか、季節のものやオリジナルもあって蕎麦前をそそる。
「天ぬき」や「鴨ぬき」などの蕎麦屋裏メニューも通じる。
酒も燗酒、冷酒でこだわり銘柄がある。
惜しむらくは、中休みがあるので、昼下がりの蕎麦屋酒ができない。
・・・といった感じかな。


③ ウチは「蕎麦にこだわる、こだわり蕎麦屋」である

一日に、昼の2時間しかやってなかったりする。
昼&夜それぞれ2時間くらいやってても、
「蕎麦がなくなりしだい閉店」だったりする。
酒にもツマミにもあまりこだわっていない。
むしろ、酔っぱらいにはいてほしくないようすだ。
蕎麦単品の値段は、そこそこ高い。
店主に語らすと、長い、説教っぽい。


④ ウチは「蕎麦前を楽しめる蕎麦屋」である

②とあまり変わらないけど、
ツマミメニューと酒のラインナップがもっと多くて、
ぐぐっと呑みたくなる。
夜は、フツーの蕎麦屋は午後8時頃に終わるけど、
このテは9時か10時頃までやっていることが多い。


④’ ウチは「昼下がりの蕎麦前を楽しめる蕎麦屋」である

②または④の「中休みなし」バージョンのありがたい店。
これが意外と少ないよね。
中には、11:00~16:00だけとか、12:10~17:00だけといった
“昼下がりのまったり” を思い切りねらった店もあるよねー。
昼酒をする習慣というか気力というかがなかった僕には、
このテが最も “大人の世界” でわかりにくいんだなあ。
法事の時に、昼間っから酔っぱらっていた、親戚のおっさんを思い出してしまう。
でも、自分も正月なんかは昼から呑むかあ。
ともかく、昼酒の好きな向きには、とってもありがたい店だ。
このタイプが、江戸の蕎麦屋やうなぎ屋の真骨頂なんだろうな。


⑤ ウチは「蕎麦で〆られる呑み屋」である

これは、④と似ているけど、蕎麦屋の範疇から逸脱したツマミがたくさんある店。
逆に蕎麦のメニューがもりだけだったりして、“呑み” と “蕎麦” が逆転している感じ。
そもそも蕎麦屋だから、ツマミが手作りで手間がかかっていて、
器も凝ったりしてるから、まるで小料理屋や割烹料理屋みたいなレベルのとこも。
和風ダイニングバー、という言い方もできるかもね。
ランチタイムに加えて夜遅く11時頃までやっているか、
17:00~23:00だけといった、完全呑み屋型のとこもあるね。


⑥ ウチは「蕎麦懐石料理屋」である

文字通り、蕎麦周辺の素材や季節の食材を使った懐石料理屋。
高いよ。


⑦ ウチは「手打ち蕎麦を食べられる日本料理屋」である

コース料理が蕎麦でシメという料亭や割烹って多いよね。
でも、コレって蕎麦屋じゃないね、すんません。


・・・といったくらい、蕎麦屋にはいろんなスタイルがあるよね。
まあ、ネットで情報収集すればいいんだけど、
行き当たりばったりの看板やたたずまいではわかりずらくてさ。

こうやってみると、東京の老舗名店って、
①から④'までをピシッと押さえているとこがほとんどなことがわかる。
なるほど、さすが!
でも、ほぼ午後8時頃で終わりだから、
昼のほろ酔いはよしだけど、夜中の酩酊に加担する気がないのも特徴だね。
きっぱりと、「酔っぱらってぐだぐだ言ってんじゃねぇや、蕎麦食わねぇんならほか行っとくれ」
っちゅう潔いスタンスが伺えるね。


今回伺ったとこは、『火群(ほむろ)』という店。
西武新宿線の「新井薬師」駅から歩いて3分くらい。
南口の商店街が終わりそうで、さて住宅街に、といったあたりにある
マンションかな、その路面1階にあった。
ほら、代官山や自由が丘の住宅街にあるお洒落な店といった感じ。

火群_入口

麻暖簾をくぐると、4人がけテーブルが一つあるけど、
カウンター中心のカフェバーといった造り。
打ちっぱなしのコンクリートの壁だけど、
木製の棚やテーブルや椅子がうまいことレイアウトされているので、
ちゃんと和な空間が演出されているんだね。

ぱっと見てすぐに気づくのが、陶器がたくさん置かれていることだ。
器はもちろん、お地蔵さんや猫なんかのデコパージュというか
アート作品的な物もたくさんある。
聞けば、全部女将さんが作ったものとのこと。
ああ、店名の “火群” って、陶芸の窯の火のことかあ、
って勝手に納得してしまった。
「蕎麦がまずい季節だし、陶芸をやっているので」ということで、
毎年7月と8月は休業になるんだそうだ。
いいなー、ヨーロッパ人のバカンスみたいで!

平日の午後6時前に行ったので、ラッキーにも客が他にいなかった。
7~8人着けるカウンターのまん中辺に座らせてもらったよ。

その日は3月始めだったけど、わりとポカポカデーだったので、まずはビールから。
いきなりお通しに、殻つきの貝の蒸し物!
ばい貝だと思ったんだけど、小さなつぶ貝でした。ゴージャス!
冷たいビールがうまい!

火群_お通し

毎日手書きしてるに違いない和紙のメニューには、
日替わりのうまそうなおつまみがズラリ。
お造り系から煮物、焼き物、練り物で、しめて15種類くらいかな、全部一品500円!
それと、漬物や乾き物が300円か400円だ。
全部手作りだから、すごーく安いよね!

でも、出し巻玉子とか焼き海苔とか蕎麦味噌、板わさなんかの
蕎麦屋のツマミは今日は見当たらない。

お酒は、燗の「白鷹」500円
冷やの「真澄」、「獺祭」、「東洋美人」、「磯自慢」各700円と、
なかなかの品揃えでこれまた安い。

そして、蕎麦は「手打ちせいろ蕎麦」のみ。

そう、もうわかったよね。
ココは⑤の「蕎麦で〆られる呑み屋」なのだ。
料理と酒に凝った、カウンター割烹か、カウンター小料理か、はたまた和風ダイニングバーか
・・・なのに安いし、手打ちそばも食べられる店なのだ。
うん、これで人気が集まらないはずがない。

火群_しめサバ

よっしゃ、まずは大好きな「〆鯖」を注文。
女将さんの手作りだと。
身がしっかりしていて、魚臭くなく、甘すぎず酸っぱ過ぎず、絶妙!

火群_ぐい呑み

酒はまずは「白鷹」の燗
女将さんが焼いた盃、ぐい呑みが籠に盛られて出てきたホイ。
呑みやすそうなのをひとつ選ぶと、女将さんがお酌をしてくれた。
おっ、なんだか背筋がくすぐったい気分になってきた。
くーっ、燗酒と〆鯖、相性サイコー!

女将さんとぽつぽつ話をしながら呑んでたらすぐになくなっちゃったので、
今度は冷やの「東洋美人」「鮪とアボカドのわさびあえ」
お酒が徳利から土瓶に変わって、ぐい呑みも選びなおしができる趣向・・・

火群_鮪とアボカドのわさびあえ



・・・ちびちびやっていると、マラソンマンがやってきた・・・

少しおくれて、早口ぼやきんもやってきた・・・

マラソンマンのお連れかな・・・



そうこうしていると、ボトルキープのポンちゃんもやってきた・・・

ポンちゃんは、手作りチョコケーキを持ってきて・・・

仲間入りのしるしに僕にもおすそ分けをしてくれたのだった・・・

僕以外、みんな常連客なのだ・・・



高齢化のハナシなんかをしながら、お酒を追加したのを覚えてる・・・

どんどん打ち解けて、いろんなことを話して・・・

だんだん、何を話しているのかよくわからくなってきたけど楽しい・・・



ああ、そうだ、蕎麦を食べに来たんだっけ、蕎麦を食べなくちゃ・・・

おっと、かっこいい器だな・・・

もちろん、女将さんが作った皿・・・



女将さんの蕎麦は、蕎麦殻のホシのまばらさがユニークだね・・・

思いのほかコシのある、おいしい蕎麦・・・



もり汁がすごいぞすごいぞ・・・

カツオがピチピチ跳ねている・・・

「カツオを上げるタイミングが難しいの、出しが出切った時をつかまえるのがね」・・・

って女将さんは言ってたっけ・・・



さっき、女将さんと僕とふたりきりだった時・・・

22歳の猫のハナシをしたっけな・・・

そしたら、引き出しから黒猫の写真が出てきたっけ・・・

ハタチの時の写真・・・

1月に亡くなって、女将さんは最近まで傷心状態だったって・・・

写真を見ると、ああ、女将さんそっくり・・・

22歳の黒猫が、着物とかわいい割烹着を着たら女将さんになっちゃった・・・



と気づいたら、3日も経っていた・・・

家に帰らなくちゃ・・・


店の外に出たら、空からなにかがやってきた・・・

黒い猫だ・・・

背中に乗れ、と相図する・・・

駅まで行って、人間の乗り物に乗るのは面倒だ・・・

と思っていたところなので、うれしく乗らせてもらった・・・



空の上から、火群が見えた・・・



火群_手打せいろ蕎麦

火群_手打せいろ蕎麦アップ



●手打ち蕎麦処 『火群(ほむろ)』
東京都中野区新井5-12-9
03-3388-8717
17:00~23:00
※2011より7月・8月は休業
夜10時以降入店可
定休日/木曜、日曜


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