現代中国のひずみにさわる ~ 『罪の手ざわり』


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これは、なかなかの映画だねー。

中国国内で起こった、4つの犯罪をオムニバスで観せる構成。
映画だから、測ったような緻密なアングルや、大胆なアップ、長短織り交ぜた巧妙なカット割り、
ムダのないな音楽・音声など、作り手としての腕の見せどころが随所にうかがえるんだけど、
どのハナシも淡々としていて、すっごいリアルなテイストにできていると思うな。
そう、それこそ “手ざわり” を感じるくらいに。

前に紹介したけど、『ゴモラ』っちゅうイタリア映画があったよね。
あれみたい。
あれは、1つのマフィアが起こす、5つの事件を淡々と描いた作品だけど、
こっちは中国で起きた事件というだけで、
静かな緊張感を保ちながら、さらーっと4つの事件を描いていて、
その淡々としてる具合がそっくりな感じだな。
ひょっとすると、発想も作り方も、『ゴモラ』を真似したのかも、と思ってしまうわ。

監督は、『長江哀歌』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した、名匠ジャ・ジャンクー
2000年からオフィス北野と製作提携しているんだね。

カンヌで観たスピルバーグも絶賛した作品なんだよ。



■炭坑で働くダーハイのハナシ
ダーハイは、利益をガッツリ搾取する会社に苛立ちを感じていたんだな。
その会社の代表は、村の幼馴染なのだ。
直談判するも、手下に袋叩きに合わされる・・・。

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■出稼ぎで家族に仕送りをするチョウのハナシ
チョウは、けっこうな額を家族に仕送りする働き者だ。
ある日、母親の誕生日ということで、実家に里帰りする。
奥さんは、羽振りが良く、出稼ぎ先が一定しない夫が何をやっているのか
疑い出す・・・。

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■サウナで働くシャオユーのハナシ
シャオユーは、町のサウナの受付をして働いている。
でも、不倫をしているんだよ。
彼に結婚を迫るも、ある日、相手の奥さんがやってきて彼女を責める。
暗い気持ちでいるところへ、サウナの客にしつこくカラダを売れと迫られる・・・。

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■工場で働く青年シャオホイのハナシ
シャオホイは、仕事中に仲間にケガをさせてしまい工場をクビになってしまう。
都会に出て、ナイトクラブで働くうちにホステスの少女を好きになる。
でも、彼女の仕事をする姿を見て、恋をあきらめる。
そこへ、実家の母親からの金の無心。
さらに、工場でケガをさせた相手も追ってきた・・・。

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監督いわく、この映画の4つのハナシは、近年、実際に中国で起こったものすごい数の犯罪の中から
興味深い4つを厳選したとのこと。
なるほど、それぞれ物語になるだけの内容ではあるね。

でも、こんなこと、日本でも、アメリカでも、
ヨーロッパでもよくあることではないか、と思って気がついた。

待てよ、これは中国のハナシじゃんか。
天安門事件以前だったら、こんなことありえなかったのでは?
もしくは、こんなこと表沙汰にならなかったんじゃないか?
なんせ、共産主義の国だからね。

よーく考えたら、これは資本主義社会で起こるようなハナシなんだよなあ。
労働問題、出稼ぎ労働、不倫、売春、金持ちの横暴・・・、
すべて、そう、格差社会のハナシなんだな。

日本でも問題になりつつあるけど、
中国の所得格差はハンパじゃないらしいよね。
そろそろ暴動が起こるんじゃないか、って言われているし。
ちょくちょく起こる日本バッシングの騒ぎは、
実は格差社会の不満のやりどころをたまたま日本に向けているだけで、
矛先が政府に向けられるとクーデターが起こるんじゃないかという学者もいるくらいなんだね。

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この映画は淡々と描かれていて、
中国の民主化政策がいいとも悪いとも言っていないように見える。
でも、劇中に何度か「水滸伝」の梁山泊を美化しているようなくだりが出てくるんだな。
なんとなく、4つのストーリーの犯罪者をヒロイックに扱っているというか、
悪者扱いしていないというか。

きっと、鑑賞者に、犯罪そのものより “なぜ、その犯罪が起こったのか” 考えさせようと
しているんだろうね。
つまりこの映画は、民主化や自由経済化そのもの、もしくは、そのやり方に批判的なんだろうな。
中国で、こういう映画を作れるようになったのも、民主化、自由経済化のたまものなのにね。

でもさ、この映画、中国国内では上映禁止になってしまったんだよ。
いまの中国が、共産主義と民主主義の狭間で揺れ動いているのが、よくわかるよね。



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●罪の手ざわり(天注定(中)A Touch of Sin(英))
2013 中国・日本
上映時間:129分
監督:ジャ・ジャンクー
脚本:ジャ・ジャンクー
製作総指揮:ジャ・ジャンクー、森昌行
プロデューサー:市山尚三
アソシイトプロデューサー:川城和実、定井勇二、ジャ・ビン
撮影:ユー・リクウァイ
音楽:リン・チャン
製作会社:Xstream Pictures、上海電影集団、バンダイビジュアル、ビターズ・エンド/オフィス北野
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
出演:チャオ・タオ、チアン・ウー、ワン・バオチャン、ルオ・ランシャン、
   チャン・ジャーイー、リー・モン、ハン・サンミン、ワン・ホンウェイ ほか
受賞:第66回 カンヌ国際映画祭(2013年) コンペティション部門/脚本賞
   第7回アブダビ映画祭 最優秀作品賞
   第50回台湾金馬奨 最優秀音楽賞、最優秀編集賞
   2013年トロント映画批評家協会賞 最優秀外国語映画賞
   2013年フランス映画批評家協会賞 最優秀外国映画賞





“ Glamour Profession “ / Steely Dan





“ Green Flower Street “ / Donald Fagen




コメント

非公開コメント

こんにちは

最近都内で、楽しそうに観光し、買い物している中国人旅行客が多く、それを見るにつけ、中国国内の格差ってすごいんだろうなあ、と思います。
中国人が誰でも、こうやって日本観光を楽しんでるとは思えないものね。
格差社会のひずみは、外側から見ても気づかないけど、国内では壮絶なものになっているかもしれませんね。
日本バッシングも、勝手にその矛先を日本に向けているだけかなと、私も時々思います。

No title

こんばんは。

偶然ってあるんですね(笑)。
同じ日に同じ作品をアップするとは。

やっぱりつかりこさんも、どこの国でもありうる事件だと思ったんですね。
この映画を中国国民が観ることが出来なのは悲しいですが、
こういった事件が知られているというのは進歩なんですかね?

ダメ出し御免!

梁山泊って三国志じゃなくて水滸伝じゃないかと・・・

Re: 里花さん、コメントありがとうございます

> 最近都内で、楽しそうに観光し、買い物している中国人旅行客が多く、それを見るにつけ、中国国内の格差ってすごいんだろうなあ、と思います。
> 中国人が誰でも、こうやって日本観光を楽しんでるとは思えないものね。
> 格差社会のひずみは、外側から見ても気づかないけど、国内では壮絶なものになっているかもしれませんね。

↑1日30円で生活する人も、1日300万円稼ぐ人もいるらしいですね。
この前テレビで、中国の男のスーパーモデルが言っていましたが、
日本に買い物に行って100万円使う人たちは、お金持ちじゃない人たちだそうです。

> 日本バッシングも、勝手にその矛先を日本に向けているだけかなと、私も時々思います。

↑中国は、貨幣も政治ポリシーも二枚舌です。
“保護政策” と言って、日本も戦後の復興期に先進国がそれを許してくれて
ここまできましたが、中国もそろそろ二枚舌をやめて、
フェアプレーをする時期が来たと思います。
それを今の政府でやれるのか?見どころだと思います。

Re: バニーマンさん、コメントありがとうございます。

> こんばんは。
>
> 偶然ってあるんですね(笑)。
> 同じ日に同じ作品をアップするとは。

↑ねー、びっくりですよねー。
前に、カッパ師匠とも同じタイミングで同じネタをアップしたことがありました。
レンタルで観る場合、どこでも同じ時期に店頭に並ぶので、
同じタイミングで盛り上がる、という現象が生じるんでしょうね。(^_^)

> やっぱりつかりこさんも、どこの国でもありうる事件だと思ったんですね。
> この映画を中国国民が観ることが出来なのは悲しいですが、

↑そうそう、こういうハナシは、日本製の作品だったら、ちっともおもしろくないですよね。
でも、あの中国だ、という前提なら、ほー、なるほどということに。
ましてや、中国人がみたらぶっとぶでしょうね。
民主化、自由経済化のエリアに住んでいるのは、
全人口14億人のうちの2億人だけと言われていますから。

> こういった事件が知られているというのは進歩なんですかね?

↑奥の深い質問だと思います。
それがいいことなのか、悪いことなのか、
進化なのか退化なのか、僕にはわからないです。
共産主義が廃れ、資本主義も行き詰まり、
次は何?という問いに答えを出すくらい難しい質問ではないでしょうか?

Re: ダメ出し御免!

ケフコタカハシさん、ご指摘ありがとうございます。

> 梁山泊って三国志じゃなくて水滸伝じゃないかと・・・

おおーっ、ホントだあ!
すんませんですー。
僕、これ、よく間違えるんですよ。
武将の戦いのハナシと、悪党のハナシを、
いつもこんがらかってしまうんですよねー。

役者の名前などでも、いつもこんがらかる人とか、
映画のタイトルもどっちかわからなくなるものなどがあって、
その度に、記憶し直すようにしているんですが、
脳の回路が修正されないようです。
本文、直しておきますねー。

ありがとうございます!
今後も、気になさらず、バシバシご指摘くださいねー。
どうも、ありがとうございます。

手ざわりを感じるくらいリアル

手ざわりを感じるくらいのリアルってなんだっ!

4つの犯罪の行先も、そのリアルさも、
とても気になります。
日本人とは全く違う価値観の中国人の現在の様子をちょっと覗けるような・・・

「怪しい彼女」も観てないけど、こっちも観たい。

Re: 手ざわりを感じるくらいリアル

> 手ざわりを感じるくらいのリアルってなんだっ!

↑これは、五感のうち、見たり聞いたりするリアルさに加えて、
触って確かめることのできるくらいのリアルという意味ですね。
和文と英文のタイトルにひっかけて、そう書いてみました。

というのは・・・
監督談で↓こういうのがあったんです。
中国では、中国版Twitter「微博」というのが大人気なんだそうてす。
いまの中国では、情報統制されていた時代とは違って、
短文を通じて、本来一般人が知ることのできなかった情報が得られるようになって、
“文字情報としては” いろんなことを体験したり知ったりすることはできるけど、
実際に人と会ったり、実際に体験したり、一緒に共感したりの
ホントのコミュニケーションが失われているのではないかと言っているんですね。

それで、この映画は実際にあった事件を取り上げたのでしょうし、
映画としても淡々とドキュメンタリータッチにしたのでしょうし、
割と残酷な表現も避けなかったのだと思います。

だから、『罪の手ざわり(=A Touch of Sin)』というタイトルでは、
「これは、短文でけで、不確かな事実を垂れ流しにする微博ではない。
リアルを追究した映画なのだ。いまの中国の真実を手で触るようにして確かめよ!」
という意味を込めているのだと思います。

ちなみに、中国語の原題は『天注定』です。
和文、英文とは視点が違って、「天が・注ぐ・定め」というような意味だと思います。
これには“起こるべくして起こった事件” というニュアンスが感じられて、
本文にも書きましたが、犯罪を起こした4人を擁護した響きを感じますよね。
同時に、4人は悪くない、現在の世の中が悪いのだ、というメッセージに行きつくのでは?

> 4つの犯罪の行先も、そのリアルさも、
> とても気になります。
> 日本人とは全く違う価値観の中国人の現在の様子をちょっと覗けるような・・・

これは、僕もバニーマンさんも同じ感想を持っていて、
きたあかりさんの想像とは逆で、「なんだ、中国ならではではなくて、
日本や世界で日常的に起こっている事件じゃないか」と思いました。
それゆえに、逆に、「中国って、共産主義から抜け出しちゃって、
すっかり資本主義の国と同じことになっちゃっているんだ」という驚きがありましたねー。
日本人より、中国人が観ると驚くんじゃないでしょうか。

そういう意味では、物語としてはつまんないかもしれませんね。
(ですよねー、バニーマンさん?)

> 「怪しい彼女」も観てないけど、こっちも観たい。

↑これは、難しいことを求めなければ、手放しでおもしろいです!
コメディなので気軽ですが、実はうまーく、老いとか、夢とか、恋とか、家族愛とか
心に迫るテーマを扱っていると思いますよ。
映画カッパさんも、昨日↓同じ作品の記事をアップされたようです。
http://kappacinema.blog.fc2.com/blog-entry-901.html
おすすめですー。