すすり心地、No.1とみた! ~ 職人のこだわりに会える『久呂無木』

2012/11/11


前から、車で何度も通っている道に面してある、
「久呂無木」という木の看板が気になっていたんだよ。

その道は、人呼んで“ライオンズロード”。
埼玉の所沢のほうから西武球場や多摩湖へ続く道なんだけど、野球の試合がない日でも、
道が細い上に、西部池袋線の「西所沢」駅横の踏切が“開かず”なので、渋滞がものすごいのだ。
渋滞にはまっているうちに、ボヘーっと道端の看板を眺めていたら、記憶に残ってしまったのだ。

それに、「久呂無木(クロムギ)」という言葉は本で読んで知っていて、
蕎麦屋だな、いつか行くぜ、とむずむずしていたんだよ。

「そば」という名前が最初に使われたのは、
延喜18年(918年)に表わされた『本草和名』という書物に万葉仮名で
「曾波牟岐」と書かれているやつらしくて、「ソバムギ」と読んだそうだ。
ヤンキーの「夜露死苦」と似たノリだあ。(いや、だいぶ違うな)

そして、承平年間(931~938年)に書かれた『和名類聚鈔』には、
「曾波牟岐(ソバムギ)」の他に、「久呂無木(クロムギ)」という言い方も
出てくるとのこと(『蕎麦屋の系図』岩崎信也 光文社知恵の森文庫)。

そうそう、この本で覚えたんだった、クロムギ。
この由緒正しい言い方から付けたんだな、店名。

そりゃ、蕎麦殻の色が黒いからクロムギなんだろーね。
ということは、黒くないムギもあるということになるわけで、それが小麦(大麦?)らしいんだな。
なら、奈良時代や平安時代には、ムギ(小麦)の方が先に名付けられていて、
蕎麦より生産量も多かったのかも、と想像させられるなー。

実際、江戸時代に大阪で火のついた蕎麦人気が江戸にも広がるまでは、
当時の日本の主要都市の外食人気をリードしていたのは小麦のうどんだったとのこと。

この前、よっしゃ、今日こそは!とランチタイムに行ってみた。

01久呂無木_入口

ビルの1階だけど、看板、暖簾、戸なんかの“和アイテム”がすごく凝っている。
ビルのポストモダンをしのぐ迫力があるなぁ。

暖簾をくぐり、戸を開けると、おっ!
北海道の家によくあるような、“中に、もひとつ戸がある二重戸玄関” になっているじゃん。
そんな造りが、グッとお店のクォリティを高めていると思うな。

そこで左を向くと、蕎麦打ち場があった。
粉も道具も、きれいに片づけられている。

2つ目の戸を引いてホントに中に入ると、右手にカウンター、
左手に掘りごたつ式の上がりが3つくらいある。

正面奥は、戸と衝立で閉ざされた座敷らしきものがある。

客的には、ちょうどいい空間かも。
でも、2人(ご主人と女将)で切り盛りするには、混んだら限界に近いかもとも思う。

よく見ると、カウンターの一枚板はもちろん、石造りっぽいひざ元や戸のまわりの造り、
衝立や障子の造り、緑の配置なんかがとても凝っていて、
その辺の居酒屋などとはレベルが違うことがわかる。
ちゃんと、“蕎麦屋”として作ったんだなー、これは。
店内は目障りなものはなにもないし、寂しくもなく整頓されている。
「神は、細部に宿る」。
これだけで、ご主人の仕事の質の高さに期待しちゃうぞ。

同行2名でたのんだのはランチメニューで、
蕎麦に大根のサラダと天ぷらと小魚のマリネ、おまけにゴマプリンまで付いて1,050円の
「彩(いろどり)」と、蕎麦にミニ天丼の付いた「天丼蕎麦膳」1,000円。
場所柄、お得なランチセットもあるんだ、感心。

02久呂無木_彩セット
「彩(いろどり)」(ランチメニュー)

03久呂無木_天丼蕎麦膳
「天丼蕎麦膳」(ランチメニュー)

10分ほど待って出てきた蕎麦をながめると、おーっ、細い!
しかも、凛とした角が立っている。
茹でているのを見ていたが、だいたい20秒くらいと早い。
十割なのか二八なのかはわからないけど、
麺の表面に透明感があり、しなやかな印象だ。

04久呂無木_そばアップ

手繰って、メニューに書かれたご指示通り半分くらい蕎麦汁につけてすすってみると、
なんと、“ズルッ!“ のスピード感がバツグンだあ。
細い上に、キリッとした腰があるから、すすった時のつるつる感とのど越しが尋常じゃないんだ!
これは、僕がいままでに食べた蕎麦で、間違いなく“つるつる部門”No.1。

でも、それだけじゃない。
適度な歯ごたえのある麺を噛むと、蕎麦粉の香りが口の中に上品に漂うからすごい。
うーむ、よくできた蕎麦だ。
ちなみに、蕎麦粉は群馬県の川場村と嬬恋村で蕎麦を研究栽培してしている人から
直接買い付けているという。

辛汁は、いわゆる江戸前というヤツかな。
甘味が少なく、キレのある味。
かえしをどんなふうに作っているのかは見当もつかないけど、
出し汁の鰹の風味が絶妙じゃないか。
魚介臭くなく、ちゃんと主張しているのに後にも残らない。
明らかに他の蕎麦屋のつゆとは一線を画しているね。

天丼の種の大きさもカラッと具合も、江戸系の濃口のつゆの味もその量も、
そしてその盛り付け!も、天ぷら屋も料亭もびっくりのクォリティだぞ!
おまけに黒ゴマプリンも、完璧。

05久呂無木_ミニ天丼

06久呂無木_そば湯
ポタージュスープのような蕎麦湯

他の方のブログも覗かせていただくと、
鴨や牡蠣の種物や各種一品料理もかなりうまそうだ。
今度は、夜に来るっきゃないなー。

まったく上げ足のとりどころのない蕎麦屋。完璧。
そうそう、埼玉県の蕎麦屋の中でもトップクラスの評価をもらっている店なんだと。
知らなかった、どうりで看板からオーラが出ていたよ。

女将さんは、まだ若くてかわいらしい方。
ご主人はどんな人かな、と思い見てみるとやっぱり若い。
これだけの仕事をするのだから、
どんな苦み走ったおっさんかと想像していたんだけど、
ココの蕎麦同様、細身で芯のありそうな、つるっとしたいい男だ。
東京都内の店で修行して、独立してココに店を持ったとのこと。

手打ち蕎麦屋って、おおまかに①「名店」②「名店で修行して暖簾分け」
③「名店で修行して独立」④「蕎麦マニアが脱サラ」と、
その出自を分類できると思うんだけど、
いまは④の“脱サラ手作りこだわりおたく系”の新興がすばらしく、
昨今の“うまい手打ち蕎麦屋ブーム”と蕎麦屋の“高級ブランド化”をけん引しているという。

①と②は過去に機械化量産に走ったりしていたのを「脱サラ組のこだわりを見習おう」と反省して、
手打ちや自家製粉に戻したり、蕎麦前メニューの充実化などに力を入れて
クォリティを戻しつつあるらしい。

でも、この店のご主人のような、③の「名店で修行して独立」が一番なんじゃないかな。
だって、名店で身につけた高度な技術や洗練されたもてなしと、独立に対する強いモチベーションと、
名店のしきたりに囚われずうまい蕎麦づくりにこだわれる環境とが揃って、
「久呂無木」のようなほぼ完璧な店が生まれるんだからさ。


●『久呂無木』
埼玉県所沢市西所沢1-4-14
04-2922-9619
11:30~14:30
18:00~21:30(LO)
定休日/水曜


comment (0) @ 蕎麦>埼玉県所沢市
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