アリスあるいは浦島太郎 ~『リップヴァンウィンクルの花嫁』


んー、これは、“フシギちゃん” ですー。

『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて 』、
『花とアリス』の岩井俊二監督の最新作と言えばわかりやすいかな。

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●『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、サスペンスである

最後までハラハラさせられるという意味では、サンペンスだし、
最後まで謎を孕んでいるという意味では、ミステリーかもしれない。

綾野剛が演じる人物が、結局は「いい人」なのか「悪い人」なのか、
何かのメタファーなのか、この映画を観た人と語り合いたくなるわー。

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●『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、社会派である

物語の冒頭から、すぐにわかることだけど、
この作品の大きなテーマは「ネット社会」なんだなー。

PCやスマホって、カンタンに買い物をしたり、
バンドメンバーや結婚相手を見つけたりできるよね。
それって、フツーだったら「何度も接して・見て・話して・触れて・
いくつかの想いをシェアして・信用できる仲になって」
といっためんどい手続きを踏んでからやるものだけど、
ネットでだったらそれらを省いて、カンタンにやれる
ってことなんだよな。

何か込み入った相談事だって、余計な気を遣わずに
すぐにお互いの内面を持ち寄ることができる。
それによって、ずいぶん救われる人もいるはず。

でも、その「信用づくり」や「仲良し絆づくり」のプロセスが省かれているがゆえに
いつ諍いの爆弾が爆発するかもわかんないし、
それを利用した詐欺のような犯罪も生まれるんだろうね。

そんな「新しい社会現象」を生む道具について考えさせられるハナシでもあるな。

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●『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、文芸作品である

この映画の言いたいことの核心は、「孤独」というものじゃないかと思う。
それは、ネットのあるいまも、それがなかった昔も
大した変わりはないのかもしれないけど、ネットという触媒ができたいま
人の孤独が新しい見え方をするようになったということ。

他人の行為を「優しい」と感じるのは、自分が孤独だからなのかもしれないし、
他人を「冷たい」と感じるのは、いま満ち足りているからかもしれない。
いまの時代の「孤独」とは?「絆」とは?

そんなことを問うているのではないだろうか?

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●『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、おとぎ話である

岩井監督はきっと、「不思議の国のアリス」が好きなんだろうね。
この作品も、一人のいたいけな女子が、
いろんなハプニングに見舞われながら前に進んで行く。

ただ、主人公は少女ではなく(20代後半?)、
ハプニングは案山子がしゃべったりするようなファンタジーでなく、
実際にいそうな人や実在社会の悪意や善意だということ。
全然シュールじゃなくて、ありえないことは起こらない。
“いま、身のまわりにあるアリスの世界” なんだと思う。

主人公は、いくつものハプニングに出会い、どんどん堕ちていく
・・・ように見えるだけで、実はそのトラブルの壁を突き抜けて
傷つきながら大きくなっていく・・・ように見える。

ちなみに、“リップヴァンウィンクル” というのは、
欧米版の「浦島太郎」みたいなハナシなんだそうだ。(未読)
「浦島太郎」だって、亀を助けて竜宮城という時空を突き抜けて
新しい世界と自分を見つけるんだよね。
ほら、「不思議の国のアリス」だっておんなじ仕立てに違いない。

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●『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、黒木華ムービーである

岩井監督はきっと、黒木華が好きなんだろうね。
監督いわく、2012年に手がけたCMのオーディションで
出会ったのをきっかけに、彼女をイメージして小説を書いたのが、
この映画誕生の第一歩だったんだそうだ。

僕も、色白で、か細い声で、まじめで、世間知らずで、
夢見がちだけどアグレッシブではなく、人を疑うことを知らない
危なっかしい女性・・・そんなイメージを持ってたっけ。

いやいや、ホントのことは知らないよ。
友達でも知人でもないし、
じっくりトーク番組なんかで観察したというわけでもないし。
イメージ、いめーじ。

この映画は間違いなく、映画俳優としての黒木華が、
ますます好きになる作品
だと言ってしまおう!

あ、Coccoの演技もすごいよ!
そうそう、この物語のコアメッセージは彼女にこそあると
言っていいかも知れないな。

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・・・こんな風に、いろんな観方ができるという意味で
“フシギちゃん” な映画だと言いたかったんだよ。
逆に言うと、どんなジャンルにも属さないと言えるのかも知れないね。

多元的な手ざわり、複数のテーマ、
たくさん出てくる疑問と、たくさん想像できる答え・・・
こんな複雑な味わいを持った作品は、原作が他人のマンガや小説では
作ることができないんだろうなあ。



最近、映画もテレビドラマも、やたらとマンガが原作のものが多いよねぇ。
それって、なんでかわかる?
もちろん、すばらしいマンガ作品がたくさんあるからに違いないんだけど、
映画製作上のたくさんの手間を省けるからなんだね。

なんにも決めずに、いきなりクランクインする場合もあるけど、
通常は商業映画って、クランクインするまでにもいろんな労力が注がれているんだね。

①「企画書」を書いて、出資者や制作会社、配給会社などにアタリをつける
②「ストーリー」を書いて、出資者や制作会社、配給会社などを説得する
③「シナリオ」を書いて、出資者や制作会社、配給会社、出演者などを説得する
④「絵コンテ」を書いて、制作関係者に浸透させ、制作を進める

↑オリジナル作品の場合、だいたいこんな感じなんだけど、
ところがマンガ本を原作にしたら、②~④を省く、
または大幅に削ることができるんだな。
だって、やり方によっては
絵コンテがすでにできあがっているようなもんだからね。
そりゃ、すごい手間の削減だよね。

しかも、タネ本のマンガはすでに発行済みだから・・・

⑤ 映画封切り前の宣伝・PRになる
⑥ すでにファンやオピニョンリーダーができあがっている
⑦ 相乗効果で、本・映画ともキャラクターグッズやノベライズなどの
  派生ビジネスがやりやすくなる

・・・などの省予算やシナジー効果も生まれるという、いいことづくしなんだね。

でも逆に、ビジュアルやストーリーが高い完成度でできあがっちゃっているがゆえに
「映画制作者の思い入れが反映しずらくなる」=
「映画表現の創造性や新規性が低まる」 = 「おもしろさが減る」
ということなんだろうな。



この映画は、原作から脚本、演出、撮影、編集まで岩井監督のオリジナルなんだよ。
だから、こういう絶妙なタッチの、誰にも似ていない作品ができるんだろうね。

最近では珍しい「映画作家」の映画、いいねぇー。





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●リップヴァンウィンクルの花嫁
2016年 日本
上映時間:180分
監督:岩井俊二
原作:岩井俊二
脚本:岩井俊二
製作総指揮:杉田成道
プロデューサー:宮川朋之、水野昌、紀伊宗之
制作プロダクション:ロックウェルアイズ
撮影:神戸千木
編集:岩井俊二
美術:部谷京子
スタイリスト:申谷弘美
メイク:外丸愛
音楽:桑原まこ
製作:RVWフィルムパートナーズ(ロックウェルアイズ、日本映画専門チャンネル、
   東映、ポニーキャニオン、ひかりTV、木下グループ、BSフジ、パパドゥ音楽出版)
配給:東映
出演:黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、和田聰宏、
   佐生有語、金田明夫、毬谷友子、夏目ナナ、りりィ ほか
受賞:第40回日本アカデミー賞(2017年)
   ・優秀主演女優賞 (黒木華)
   第41回報知映画賞(2016年)
   ・助演男優賞/綾野剛、『怒り』、『64-ロクヨン- 前編/後編』と合わせて)
   第31回高崎映画祭(2017年)
   ・最優秀助演女優賞(りりィ)
   第90回キネマ旬報ベスト・テン(2017年)
   ・日本映画ベスト・テン 第6位








♪ 何もなかったように / Cocco





♪ Hana wa Saku (Flowers will Bloom) / Kaori Muraji




いまのいやーな空気感 ~ 『恋人たち』


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ふだん生活していて、なんとなく・・・
「これって、なんか間違ってるんじゃないの?」とか、
「どんだけ我慢すれば、解決するんだろう?」とか、
「こんな泥沼から抜け出したい」とか、
「どうしてこんなに不公平なのだ?」とか思うことって、ない?


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僕らの日常には、
●夫婦のマンネリが我慢できなくて、不倫する・・・
●人助けをしようとして、詐欺師に騙される・・・
●すごく有能で価値ある仕事をするのに、給料が少ない・・・
●高過ぎる健康保険料を払っているのに、いざという時の治療費が払えない・・・
●被害者が苦しんでいるのに、犯罪者が法に守られて大手を振って暮らしている・・・
●自分が被害者なのに、世間から咎められる、冷たくされる・・・
●身内が辛い目にあっているのに、見て見ぬふりどころか忌み嫌う・・・
●エラソーに命令するばかりで、責任をとらない先輩・・・
●ゲイだと、危険人物扱いされる・・・
●一番信じていた人が真っ先に去っていく・・・
●あの医者は、あの弁護士は、弱っている人から金を巻き上げる・・・
なんてことが、フツーに転がっているのだ。

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この映画は、複数の主役がそれぞれの物語を展開する群像劇なんだけど、
僕らがフツーに暮らしていて起こりうる理不尽というか不条理というかの
不幸を淡々と並べた作品
なんだなー。

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わざとらしい演出や、びっくりするようなハプニングなんかが
起こらないがゆえに、すごーくリアルな感じがするなあ。
いま身のまわりにある理不尽なことや時代の負の空気
ぜーんぶ詰め込んだんだろうなあ。
そして、『ぐるりのこと』の橋口演出の独特の人間くささ。

そういう、“いま、ホントにリアルな” 社会派の作品として、
2015年のキネマ旬報ベスト・テンで1位をとったんだろうな。

でもねぇ、ハッピーエンドっぽく描かれているけど、
すごーく嫌な気分になる、生活者として落ち着かない気分になる。

ズハリ、観ないほうがいいかもね。(笑)

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こんな不穏な空気の映画を作っちゃってさあ、
では、作った監督ご本人に言い訳してもらいましょう。


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●恋人たち
2015年 日本
上映時間:140分
監督:橋口亮輔
原作:橋口亮輔
脚本:橋口亮輔
製作:松竹ブロードキャスティング
エグゼクティブプロデューサー:平野隆
企画:越智貞夫
企画協力:文藝春秋
プロデューサー:木村理津、大原真人、渡邉敬介、浅野博貴、伊藤正昭
共同プロデューサー:藤井和史、山田昌伸
ラインプロデューサー:武石宏登
制作プロダクション:コブラピクチャーズ
撮影:上野彰吾
編集:橋口亮輔
音楽:Akeboshi
配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、
   山中聡、リリー・フランキー、木野花、光石研 ほか
受賞:第89回キネマ旬報ベスト・テン
   ・日本映画ベスト・テン 第1位
   ・新人男優賞/篠原篤
   ・監督賞/橋口亮輔
   ・脚本賞/橋口亮輔
   第70回毎日映画コンクール
   ・日本映画大賞
   ・録音賞/小川武
   第37回ヨコハマ映画祭
   ・日本映画ベスト・テン 第2位
   ・監督賞/橋口亮輔
   ・助演男優賞/光石研
   第30回高崎映画祭
   ・最優秀監督賞/橋口亮輔
   ・最優秀助演男優賞/黒田大輔
   ・優秀新進俳優賞/篠原篤
   ・優秀新進俳優賞/成嶋瞳子
   ・優秀新進俳優賞/池田良
   第39回日本アカデミー賞
   ・新人俳優賞/篠原篤
   第58回ブルーリボン賞
   ・監督賞(橋口亮輔)
   第25回日本映画プロフェッショナル大賞(2016年)
   ・新進プロデューサー賞/深田誠剛、小野仁史
   第35回藤本賞
   ・奨励賞/深田誠剛、小野仁史







♪ Usual life / Akeboshi





♪ Stop Whispering / Radiohead