ゆらゆら草
もう少し感受性を働かせれば、毎日がスペシャルになる。そう自分に言い聞かせて、 いろいろ感じたことを書きとめてみよっと。
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幸せなドイツの無気力と再生 ~ 『コーヒーをめぐる冒険』

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モノクロのドイツ映画。
どっかで聞いたことがあるよね。

ジム・ジャームッシュは、高感度フィルムで真っ白な紙に墨がにじんだような
モノクロームの映像を魅せてくれた。
でも、この監督は、もっとパキッとした白黒バランスの世界を撮ってくれたんだな。
いずれも、アングルやオブジェクトの配置に精緻を極めている。
一つ一つのカットがまるで絵画のような “決め” が入っているよなあ。

映像アートとしては完璧に近いのでは?
いくつかのとりとめもない出来事で構成されているから、
質の高い素材を集めたコラージュとでも言うのかな。
パンフォーカスとアウトフォーカスのコントラストも絶妙だね。

でも、この映画のストーリーは、ちっともおもしろくない。
そういう意味では、ジム・ジャームッシュの作品と同じかもしれない。
「けっこういいから、観てみたら」とはなかなか言い難いものがあるなー。




ベルリンの街に、ニコという若者が住んでいる。
2年前に大学を辞めたのを内緒にしながら、親の仕送りで生活している。

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ニコはある朝、彼女のベッドで目を覚ますけど、
なんとなくギクシャクした雰囲気で彼女と別れてしまう。
そして、目覚めのコーヒーを飲み損なってしまう

免許は取消しになるし、親に大学を辞めたことがバレてクレジットカードも停止、
カフェでコーヒーを頼んだはいいけど、持ち金が足りなくてまた飲み損ない。
アパートの2階に住む変なおっさんにも絡まれる。

気晴らしに、大役のオファーを待っているばかりでちっとも仕事をしない役者の友達に会いに行く。
そこで、高校時代の同級生のユリカという女の子と再会する。

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ユリカは当時、デブだったせいで、ニコにいじめられていたんだけど、
いまはダイエットに成功して、前衛舞踏のパフォーマーをやっている。
せっかくの再会なのに、彼女ともズレのようなものを感じて別れてしまう。

無気力なんだなー。
ニコは、何に対しても積極的に接しようとしない。
欲もないし、問題を解決しようとする気力もない。
ただ、浮遊しているだけの若者なんだよ。

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そういう若者がドイツにもいるんだ、ってちょっと驚いた。
まるで、いまの日本のニートとかひきこもりとか呼ばれる人種とおんなじだよね。
そうそう、前田あっちゃんが主演した『もらとりあむタマ子』を思い出したよ。

原題は、『Oh Boy』。
訳すと、「あんたって子は」とか、「しょうがないな、お前は」、ってな感じかな。
うん、主人公のニコはまさにそんな感じの若者よ。

コーヒーの飲み損ないと小さなアクシデントの繰り返し。
そう、コーヒーにうまくありつけた時が、ニコのモラトリアムが終わる時なんだろーなー、
ってだんだん気づいてくるんだな、観てると。

淡々と、ぽわわーんと繰り返されるとりとめもないアクシデント。
それを観た人が、『ストレンジャー・パラダイス』と似ていると思っても不思議じゃないな。
でもね、この物語では、最後にバーで出会った老人のある昔話を聞いて、ニコは再生するんだよ。

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●ナチス時代のドイツよさようなら、新しいドイツを創っていく若者たちへ

ここからは、ネタバレだよーん。
この映画を観るつもりの人は、観てから読んだほうがいいと思う。
観て、「なんだ、ちっともおもしろくねーなー」と思ったら、ぜひぜひこの後を読んでみてねー。

僕が、この映画のストーリーは、ちっともおもしろくない、って書いたのは、
それは僕らが日本人だからなんだよ、たぶん。

だってね、この映画は、2013年のドイツのアカデミー賞の主要6部門を総なめにした作品なんだよ。
それが、ホントはおもしろくないはずがないないよね。
いや、実際はおもしろくないアカデミー賞作品もいっぱいあるけどね。
でもさ、いろいろないきさつはあるとしても、大勢のドイツ国民が絶賛したわけだ。
こういう場合、おもしろくないのは、自分のせい。
自分のほうが少数派なのだ。
僕は、どこの国の賞でもそういうふうに考えるようにしてるんだ。

それでちょっと調べてみたら、あったあった。
「これ知らポイント」=これを知らないと、この映画はおもしろくないポイント。
この作品のミソは、ニコが最後に会う老人との会話にあったんだなー。



老人はすぐに、ニコがある年頃の若者にありがちなモラトリアム状態であることに気づく。
「まわりの人間が何語を話しているか、わからないだろう」って切り出すからだ。
老人は諭すように話し出すんだな。
老人が子供の頃に、父親に家の外に連れ出されて、
いまいるカフェのウィンドウに石を投げるように強制されたことを。

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それは、「水晶の夜事件(Kristallnacht:クリスタル・ナハト)」という歴史的な事件のことなんだな。
それは、1938年11月9日夜に発生したドイツ民衆による反ユダヤ暴動なのさ。
ドイツ各地のユダヤ人の住居やシナゴーグなどが襲撃、放火された事件。

ドイツでは、すでにナチス党によって、ユダヤ人への差別が行われていたんだけど、
在独のポーランド国籍を持つユダヤ人は対象外だったんだよ。
でも、ドイツとポーランド政府の政策によって、
在独のポーランド系ユダヤ人の迫害がスタートした事件なんだそうだ。
それで、この事件の後からさらにユダヤ人の立場が悪くなって、
後に起こるホロコーストへの起点の一つとなったと言われているんだよ。
主謀したのは、ドイツ民衆ではなくて、ナチスという説もある。
“水晶の夜” というのは、事件の夜、破壊されたガラスが月明かりに照らされて
水晶のようにきらめいていたからだそうだ。

劇中では、こういう説明はまったくないから、日本人には全然ぴんと来ない。
たいがいのドイツ人なら、ぱっとこの映画の意味がわかるというわけだ。



ドイツは、ナチスが扇動した第二次大戦で負けて、多額の戦争負債を負わされた。
そして、ユダヤ人を妻に持ち、ユダヤ人を助けたドイツ人までもが鬼畜扱いをされて、
つらい戦後を生きてきたんだね。

そして、ベルリンの壁の崩壊
東西統一という国民の夢が叶ったんだけど、ドイツ経済の発展には大きなマイナス要因になった。
それでもドイツはひたむきにやってきたんだね。

主人公のニコは、ベルリンの壁の崩壊の前後に生まれたという設定なんだろうね。
そういう “ドイツの戦後“ を身をもって知らない世代なのだ。
それなりの景気とそれなりの平和の中で生まれて育って、それなりの学校へ行って、
若者のごたぶんにもれずパンク症候群とでもいえる気分にひたってしまっているニコ。

それが、意味もわからずナチスに加担してしまった老人の話を聞いて、目を覚ます。
“我々は、ナチスの亡霊と、莫大な借金と、根深い民族統一問題を乗り越えて、いまあるのだ”。
老人の悲しい経験談を聞いて、そういうことを思い出す。
その日出会った人たちとの間で感じた “ズレ” は、いまのドイツを引っぱろうと健気に生きる人たちと
ぬるま湯につかったままの自分との温度差だったのだ。

そういうことにも気づいたに違いないと思う。

酔って店を出ようとした老人は、倒れて死んでしまう。
“ドイツの戦後“ はもう終わったのだ。

そう、『Oh Boy』のタイトルは、
「甘ちゃんの僕ちゃんよ、戦後の悪夢などもうないのに、立ち止まって何をぼやぼやしているんだい?
ドイツの未来はこれからなんだよ。君たち若い世代が創っていくんだよ」
・・・という叱咤激励そのもの
なんだと、僕は思う。
ニコはそれに気づいたんだね。
それぞれ意味は違うけど、その老人と父親が発した「底力をみせてやれ」というセリフが
パキッと伏線になっていたんだ!

最後にやっとありついたコーヒーの苦さに、ニコは無気力から覚醒したに違いない。

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ヴィム・ヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』(1987年)が、
戦後の終焉と東西の統一を希求した作品なら、
この作品はその後のベルリンとドイツの繁栄を祈った作品なんだろうね。

この映画が封切られた頃、ドイツが戦争負債をすべて返済した、とのニュースが流れたね。
それも、この映画が国内で高く評価された原因の一つだったんだろうな。



同じ敗戦国だけど、僕はドイツがものすごくうらやましい。
この先、ドイツには希望ばかりがあり、日本には・・・?





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●コーヒーをめぐる冒険(Oh Boy)
2012 ドイツ
上映時間:85分
監督:ヤン・オーレ・ゲルスター
脚本:ヤン・オーレ・ゲルスター
製作:マルコス・カンティス、アレクサンダー・ワドー
撮影:アンジャ・シーメンス
編集:アンジャ・シーメンス
美術:ユリアーネ・フリードリヒ
衣装:ユリアーネ・マイヤー、イルディコ・オコリクサンニ
ヘアメイク:ダーナ・ビーラー
音楽:ザ・メジャー・マイナーズ、シェリリン・マクニール
音響:マグヌス・プフリューガー
配給:セテラ・インターナショナル
出演:トム・シリング、マルク・ホーゼマン、フリーデリッケ・ケンプター、
   ユストゥス・フォン・ドーナニー、ウルリッヒ・ノエテン ほか
受賞:2013年ドイツアカデミー賞・主要6部門受賞
   (作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞・音楽賞)


あけましておめでとうございます。

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去年は映画を212本観ました!(劇場+DVD、初めて観た作品も何度目かのものも含む)
たくさん観ればいい、ってもんでもないけど、
これも修行、修行、ということで今年もバシバシ行きまっせー!

いつも更新が遅いのに、おつきあいくださりありがとうございます。
今年もどうぞよろしくでーす。

今年もたくさんいいことが、あなたにありますように!!



<私用年賀状>

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<仕事用年賀状>

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“ A HAPPY NEW YEAR ” / 松任谷由実




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