これを知らないとおもしろくない① ~ 『カッコーの巣の上で』



映画って、時事性というか時代性というか、
その時代時代の社会問題とかがテーマだったり、流行や風俗が演出に使われていたりするよね。
だから、ストーリーのおもしろさとは別に、コトの真相を掘り下げて考えてみたり、
その当時のファッションや音楽やカルチャーを知ったり振り返ったりできて、
おもしろさがたくさんあるもんだよね。

でも反面、その時代の背景や習慣や問題点などの “ある事実” を大前提として知らないと、
その映画が伝えようとしたり表現しようとしていることが、
ぼやけてしまうことがよくあるような気がする。
その映画ができてからずいぶん年月が経っていたりすると、
その映画がテーマにしたことが忘れ去られていたりするからだ。

自分が歳を食ってきたので、そう思うことが多くなってきてるんだね。

「ああ、この映画って、ただ漠然と観てもおもしろくないばずだ。
これを知らないと、半分くらいしか楽しめないよなあ。もったいないなあ」・・・
・・・って、そんな自分のムズムズを解消するためにも、
余計なお世話をしてしまえ、というのがこの記事でーす。

ネタバレしない範囲で、いくつか書き残していこうと思う。


その①は、『カッコーの巣の上で』。
この映画の「これを知らないと・・・ポイント」は、
ずばり「ロボトミー・サージャリー」という言葉だよ。
この映画を観た人は、この言葉の意味や時代背景を調べると、
この映画の意味がもっとわかるはず。
まだ観てない人は、できれば、“この映画を観た後” に、
この言葉の意味や時代背景を調べるといいと思う。

この映画は、ジャック・ニコルソン扮する主人公が、
ある精神病院に入院してくるところから始まる。
主人公マクマーフィは実は健常者で、犯罪を犯したため刑務所に投獄されるところを、
精神病を装って逃れてやってきたのだった。

カッコーの巣の上で_マクマーフィ

映画の序盤は、変な人たちの変な入院生活が描かれている。
いろいろな入院患者がいて、いろいろな奇行を繰り広げるのでコミカルに展開するけど、
人権問題なんかがあって表現が難しかっただろうと思う。

しばらく経って、健常者のマクマーフィは、
精神病院というところが専制政治とでもいうような、
病院側の異常なまでの管理体制で運営されていることに気付くんだな。
それからというもの、すでに仲良くなった変テコな仲間たちを扇動して、
いろんな反抗行為を繰り返すようになる。

カッコーの巣の上で_患者たち

患者たちの反抗行為と、病院の制裁行為・・・
だんだんと、患者たちの行為がラブリーに、病院側が極悪に見えてくる。
患者がフツーで、医者や看護師の方がよっぽど異常なことが浮き彫りにされてくるんだな。

この辺から、序盤の “ほのぼの” がコワイ感じに映画の空気が変わっていく。
そして、最後まで抵抗をやめない主人公への制裁へ。

なんにも知らずに観ると、精神病院のひどさが、映画としておもしろくなるように
誇張して表現されているように見えるだろうと思う。
深読みする人は「人間、何も知らず何も企まないピュアな理性が善で、企図とか管理とか施策とかは悪」
というような、文学的というか哲学的な意味で受けとめてしまうかもしれない。
ラストシーンが、非現実的に飛躍して見えるからだ。

でも、実はそうじゃないのだ。
この作品は、文学作品やアートではないし、メタファーも遠回しな表現もない
まっすぐ明らかにリアルな社会派なのだ。
その当時存在してた社会問題をはっきりと糾弾してる。
そのことが、前述のキーワードの意味や時代背景を知ることで正しくわかるはず。
でも、やっぱ “観た後” がおすすめだなあ。


監督は、なんとミロス・フォアマンだよ!
あの「アマデウス」の監督
サイコーだよね、あの映画!

製作には、「コーラスライン」「氷の微笑」のマイケル・ダグラスが絡んでる。
まだ俳優としては有名じゃなかった頃かな。

出演者は、ジャック・ニコルソン以外は当時は無名に近かったんだろうけど、
今では歴史に残る名優ばかり。
まあ、ひと癖ふた癖もあるバイプレーヤーがほとんどなんだけど。

カッコーの巣の上で_患者たち2

●ルイーズ・フレッチャー(「エクソシスト2」「赤いドレスの女」「ブレインストーム」)
●マイケル・ベリーマン(「フローズン・ライター」)
●ブラッド・ダリフ(「デューン/砂の惑星」「ブルーベルベット」「エイリアン4」)
●ウィル・サンプソン(「ポルターガイスト2」)
●クリストファー・ロイド(「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「アダムス・ファミリー」)
●ダニー・デヴィート(「ツインズ」「バットマン リターンズ」)
●ポール・ベネディクト(「グッパイガール」「マンディンゴ」)
●スキャットマン・クローザース(「ルーツ」「シャイニング」)
●シドニー・ラシック(「キャリー」「天使にラブ・ソングを2」)
●ヴィンセント・スキャヴェリ(「アマデウス」「ゴースト/ニューヨークの幻」)


ちなみに、原題は『ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST』
訳すと「一羽は、カッコーの巣の上を飛んでった」となるね。

マザーグースの歌から引用されているらしい。


『Vintery, mintery, cutery, corn』
『Vintery??、ミント、cutery??、とうもろこし』

Vintery, mintery, cutery, corn,
(Vintery??、ミント、cutery??、とうもろこし、)

Apple seed and apple thorn;
(りんごの種とりんごのとげとげ)

Wire, briar, limber lock,
(針金、いばら、しなやかロック??)

Three geese in a flock.
(三羽なかまのガチョウ)

One flew east,
(一羽は東へ)

And one flew west,
(もう一羽は西へ)

And one flew over the cuckoo's nest.
(もう一羽は、カッコーの巣の上を飛んでった)


マザーグースの歌って、韻をきっちり踏むあまり、訳が難しいねぇ。
無茶な単語や英語じゃない単語(造語?)がバシバシ入ってるんだもん。

それで、「cuckoo=カッコー」という言葉は、
“気がふれたヤツ“ という意味のスラングらしいんだね。
カッコーは、自分の卵を他種の鳥の巣に生んで、他の鳥に育てさせる、
という素っ頓狂なところからきているという意見があるらしいけど、
はっきりしたことはわからないそうだ。

それを踏まえて訳すと、“THE CUCKOO'S NEST=カッコーの巣” は、
“精神病院” という意味に解釈できる。
劇中の愛すべき患者たちがカッコーなら、
その当時の精神病院は “他の鳥の巣=本来いるべきじゃないところ”
ということになるかな。



カッコーの巣の上で_ポスター

●『カッコーの巣の上で』(ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST)
1975年 アメリカ(日本公開:1976年4月)
上映時間:129分
製作:ファンタジー・フィルム
配給:ユナイテッド・アーティスツ
監督:ミロス・フォアマン
製作:ソウル・ゼインツ、マイケル・ダグラス
原作:ケン・キージー
脚本:ローレンス・ホーベン、ボー・ゴールドマン
撮影:ハスケル・ウェクスラー、ビル・バトラー
編集:リチャード・チュウ
音楽:ジャック・ニッチェ
出演:ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー、ブラッド・ドゥーリフ ほか
受賞:第48回アカデミー賞(主要5部門)
   ・作品賞(ミロス・フォアマン)
   ・監督賞(ミロス・フォアマン)
   ・主演男優賞(ジャック・ニコルソン)
   ・主演女優賞(ルイーズ・フレッチャー)
   ・脚色賞(ローレンス・ホーベン)
   第33回ゴールデン・グローブ
   ・作品賞(ドラマ)
   ・監督賞
   ・男優賞(ドラマ)
   ・女優賞(ドラマ)
   ・脚本賞
   ・新人男優賞(ブラッド・ドゥーリフ)
   第1回ロサンゼルス映画批評家協会賞
   ・作品賞
   第41回ニューヨーク映画批評家協会賞
   ・男優賞


客の花咲く、デパ蕎麦 ~ 『更科堀井 立川店』



2013年の東京都の桜の開花は3月16日。
去年より15日も早かったそうだ。
千代田区の靖国神社にある桜(ソメイヨシノ)の標本木が咲いたんだねー。
1953年以降の観測史上、2002年とタイで過去最速だってさ。

満開宣言は3月22日。
これも統計開始以来2番目の速さ。
ちなみに、最も早かったのは2002年の3月21日だって。

最近、竜巻とか雹(ひょう)とか、北海道の激しい寒波とか、天気が異常なことが多いけど、
桜の開花が早い、というのはイヤな感じはしないよね。
まあ、真冬に咲いたりすると、やっぱり調子が狂うけど。

001桜

というわけで、以下、桜と春の木の花の写真を呈上!
3月23日(土)撮影でーす。

002桜

埼玉県所沢市の花々だから、22日に東京の満開宣言が出てても、まだ満開じゃないみたい。
東京より、ちょっと寒いのかな。

003桜

ソメイヨシノだよね。

004桜

ツボミもたくさん残ってます。

005プリヌス-プシリフローラ

これも、桜。赤みは全然ない、まっ白。
直系20ミリくらいの小さな花だよ。

006プリヌス-プシリフローラ

図鑑で調べたら、「プリヌス-プシリフローラ」という種類らしい。
中国雲南省の特産種。違うかなあ?

008コブシ

コブシですよねぇ?

007コブシ

乙女椿?

乙女椿01

植物にまったく疎いんです。

乙女椿02


花を眺めて、すっかり春の気分にひたっていたんだけど、
そうだ!お腹も春の気分にしなさい!
と、ふと、天の言葉降臨。
そりゃー、“桜切り” しかないわさ、
というわけで、“変わり蕎麦” のできる蕎麦屋を探してみた。

近所にもいろいろあるけど、立川の伊勢丹に『更科堀井』が入っているのを発見!
1月始めにも、麻布十番の本店に午後酒しに行ったけど、
“デパ蕎麦” もおもしろいかも、ということで行ってみることにした。


東京都立川市は、昔は “米軍基地の町” として知られていたんだね。
駅の北口にある、いまの「昭和記念公園」や官公庁エリアは、
米軍のエアポートやいわゆるハウスが立ち並んでいて、
駅からベースキャンプまでのストリートは、
英語の看板の並ぶ外人相手の繁華街だったんだよ。
東京の西多摩地区では唯一、街娼が街に立ち、
連れ込み旅館や怪しげなスナックなんかが密集する “欲望産業” のある街だったんだよ。

それが、いまは近年の再開発のおかげで、駅周辺の怪しげな店群は一掃。
高島屋がリニューアルし、伊勢丹ができ、モノレールが走り、
すっかりさわやかな都会と化しちゃったんだねー。
漫画「聖☆おにいさん」のブッダとイエスは、立川のアパートに住んでるけど、
いまでは、駅のすぐそばでは、賃貸のモルタルアパートを見つけるのはむずかしくなっちゃったね。


『更科堀井 立川店』は、立川伊勢丹の8階にあった!
麻布十番にある、あの更科(※1)の “総本家” 唯一の支店だよ。
「銀座 天一」や「銀座アスター」、「キハチ」なんかと同じフロアだから、
その “格” がどんな位置づけなのかわかるというもの。

でもね、同じフロアにある呉服屋みたいに敷居が高いということはなくて、
入口に扉がないし、美人の花番おねえちゃんの店外での接客もテキパキで、
気軽で快活な印象だったね。

000更科堀井立川店_入口

お昼の12時少し前に着いたんだけど、さすが土曜日、
店の外の待合いすはいっぱい、たくさんの人が待っていたよ。
さすがは、人気百貨店、人気蕎麦店。

客層はさまざまで、じじい、ばばあ、おじん、おばんはもちろん、
ヤングなカップル('75年以前生まれは、アベックと呼ぶ)や
中学生くらいの男二人組というものいた。
ランチタイムでも、丼物とのセットメニューみたいな
お手頃価格でヤングの腹を満たすものはないのに、奇特な若者たちだ。
って、僕よりお金持ちなだけかあ。

たのんだのは、「十番膳」という松花堂弁当みたいなお昼の限定メニューと
もちろん「桜切りそば」だ。

001更科堀井立川店_昼メニュー

「十番膳」には、松と竹があって、なぜか松の方が安い。

002更科堀井立川店_十番膳_松

もりとさらしなに鳥、玉子の “焼き物” と 筑前煮みたいな “煮物” がついて、1,260円。
お上品なお得さだね。

玉子焼きは、更科系ならではの甘味が強めのかえしの味がきいたもの。
焼き方が本店より少し固めかな。
「鳥焼」も、ちゃんと堀井の味だ。

003更科堀井立川店_十番膳_松_焼物

煮物の鴨は絶品!
柔らかいし、肉の旨味とつゆのハーモニーが後頭部を突き抜ける。

004更科堀井立川店_十番膳_松_煮物

あれ?これはなんだ?
写真では筍の下に隠れてわかりずらいんだけど、
ひとつ、よくわからないものが入っていたんだよ。
生麩のような歯ごたえと舌触りで、中にぷつぷつと蕎麦の実が埋まってる。
確かめながらもうひと齧りしてもわからない。
なんだかよくわからなくてもいいか、うまいんだから。ハハハ

蕎麦は、オーソドックスな微粉のもっちりつるつる・・・

005更科堀井立川店_十番膳_松_もり

・・・と更科ならではのまっ白でコシのあるさらしな。

006更科堀井立川店_十番膳_松_さらしな

白い蕎麦は、「御前蕎麦」として1750年にあったことが確かめられているけど、
当時、それと “さらしな” がイコールだったのかははっきりしないらしい。

更科堀井の前身「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」の蕎麦が徳川将軍家ご用達になったのは、
1840年頃からと言われているんだけど、その頃はそれを “御前蕎麦” と呼んでいたものの、
まだ白くなかったらしい。

更科の御前蕎麦が白い蕎麦になったのは、明治34年(1901年)頃ではないかと推定されている。
「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」の4代目の女将・ともが、
一番粉を篩にかけた粉で作る御前蕎麦を生み出したのだそうだ。
これがのちに、更科の白い御前蕎麦=さらしな蕎麦、ということになったそうだ。

007更科堀井立川店_十番膳_松_桜切り
季節の変わりそば「桜切りそば」893円

「桜切りそば」は、いわゆる季節の変わりそば(※2)、というやつ。
店によっては、うすいピンク色をしてるものあるけど、ココのはそうじゃない。
透き通った白いさらしな蕎麦に、塩漬けの桜の葉っぱのみじん切りが練り込んであるから、
“海苔のふりかけをかけたさらしな蕎麦” といった趣きだよ。

008更科堀井立川店_十番膳_松_桜切りアップ

でも、口に含むと、桜の香りがふんわり。
うん、年に一度のことだから、これはこれで楽しみのひとつだねー。

花見を愛でて、花になって、花を食べた一日でした。



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※1
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ついこのあいだまで、僕は“永坂更科”といえば「麻布永坂 更科本店」のことだと思ってた。
たまたま、「麻布永坂 更科本店」ばかりをデパート内の支店や通販商品などで目にしていたからだ。

ところがどっこい、麻布永坂のあたりには3つも“永坂更科”があったのだ!

『麻布永坂 更科本店』と『永坂更科 布屋太兵衛』と『総本家更科堀井』の3つ。

それを知ったのは、わりと近年。とほほ
しかし、どれがホントの元祖なのか、けっこうややこしい経緯があるんだよ。


麻布永坂町にできた更科の蕎麦屋のホントのホントの元祖は、
「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」という名前だったそうだ。
創業は1789年(寛政元年)というから、バリバリの江戸時代。

お、だったら、『永坂更科 布屋太兵衛』がその承継店だろ、
という感じがするけど、それは○正解ではなくて△ってとこかな。
まあ、ややこしいストーリーがあるんだよ。

信州の織物の行商人で、清右衛門という人がいて、江戸にちょくちょく来ていたんだけど、
麻布の保科という武家が逗留先だった。
当時は、行商人が物を売るために突然江戸にやってきてもバンバン売れるわけもなく、
口利きというか紹介人というか、そういうネゴが必要だったんだろうね。
保科家は、信州の保科村出身というから、
信州から来ている清右衛門と何らかの関係があったのかもしれない。

清右衛門さん、なんかのきっかけでその保科さんに実家で作って食べてる蕎麦を
打ってもてなしたことがあったんだろうね。
清右衛門さんは信州人の中でも相当蕎麦打ちがうまかったらしく、
保科さんはいたく気に入り、蕎麦屋の開店をすすめたそうだ。
そもそも保科さん自身が、すごく蕎麦が好きだったということもあるらしいけど。

その時に、清右衛門さんは「太兵衛」と名前を変えて、
当時の平民は苗字がないし、布売りだから「布屋」で、
くっつけて「布屋太兵衛」という名前になった。
で、店名は「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」となったわけ。

「さらしな」とは、信州の蕎麦の名産地「更級」のことだけど、
“級”を恩のある保科家の“科”の字に差し替えて、「更科」としたわけだ。

当時、“さらしな”を冠した蕎麦屋は「布屋太兵衛」が最初というわけではなくて、
いまの馬喰町や浅草並木町に「さらしな」や「更級」があったと記録があるから、
先行のそれらと区別するためにも“科”の字を使ったのかもしれないな。

「さらしな」や「更級」の看板や子孫は、どこへ行ったんだろう?
ひょっとすると、布屋太兵衛より古いさらしな蕎麦のルーツがあるかもしれないのに。

1800年代半ばには、逆に布屋太兵衛の「更科」をパクッて使った蕎麦屋が
何軒も出現するようになっていたらしい。

「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」は、保科家とのつながりから、
将軍家や大名屋敷、大寺院などにも出入りしていたと言われていて、
創業当初から御前蕎麦を売りとした高級店として超有名だったそうだ。

明治8年に、日本人全員が名字をつけることになった時、堀井とつけることにして、
“布屋”は「堀井家」となった。
麻布に大名がいなくなっても高級化は進み、
蕎麦だけでなく器や調度品、店内の造作などでも群を抜いて、
敷地の面積も拡大し、宮内庁や華族なども御用達だったと言われている。
この頃が、元祖「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」の最盛期だったのかもしれない。

隆盛を極めた永坂更科の布屋は、1941年(昭和16年)に廃業。
昭和恐慌による資金繰りの困難化や食糧統制、
そして、七代目松之助の放蕩などが原因だったという。

ところが、戦後で混乱する昭和23年頃に、突然「永坂更科本店」という蕎麦屋が出現!
堀井家とは全然関係のない、元料理屋をやっていた馬場繁太郎という人物が起業したのだ。
七代目松之助が、この人物に店名まで売ってしまったらしい。
これが、いまの『麻布永坂 更科本店』。
支店が全国にあるし、けっこう人気だよね。
僕はついこの前まで、これが江戸時代からある永坂更科の本家本元だと思っていたからねー。

ハナシがややこしいのは、この次。
まったく堀井一門と関係ない人に、店の名前を持ってかれたせいで、
本物を復活させないか、という気運がモリモリ。
麻布十番商店街の小林勇という人が旗を振って、堀井家の保氏とその妻きん、
布屋時代の職人などを呼び寄せて会社として、昭和24年にスピード再開したのだった。
実質的に、伝統のノウハウも味も復活したんだろうね、きっと。
これが、いまの『永坂更科 布屋太兵衛』。

でも、この店は、うまいこと小林さんを代表とした会社組織の下に配されて、
堀井一族を役員に迎えたりしていたけど、あくまで小林さんの商才で成り立つ会社だし、
他人がどんどん儲けておもしろくないし、ということで、昭和59年、
八代目の堀井良造氏は独立して直系の店を作ることを決意。
これが、いまの『総本家更科堀井』ってわけ。

先にできた2店が主な名称を商標登録してしまっているので、商標権争いに勝てなくて、
この店は、布屋太兵衛直系の店だというのに、“麻布”も“永坂”も“布屋”も“太兵衛”も
店名に使えない、なんてことになっちゃった。
それで、「総本家」なんて嘘くさい冠と、本家本元の全然知られていない名字「堀井」を
くっつけるという、いちばん本物っぽくない店名になっちゃったというわけ。
でも、この『総本家更科堀井』こそが、ホントの“麻布永坂の更科”なのだ。

でも、2番目の『永坂更科 布屋太兵衛』は、
戦後すぐに始めたし、開店当初は本物の布屋の人間と職人を擁してできた店なので、
いまは堀井家の血は流れていなくても、元祖・布屋の蕎麦屋としての体液は流れているかも。
つまり、味やサービスはより元祖に近いのかも、ということ。
まあ、伝統をきちんと守っていたら、のハナシだけど。

本家本元の「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」は、
いくつかの支店を残しているんだよ(いまでもやってるとこ)。

●明治20年に血縁分店第1号として生まれた、「布屋丈太郎」→ 現『神田錦町更科』
●明治32年に初の支店として生まれた、「麻布永坂更科支店布屋善次郎」→ 現『さらしなの里』(築地)
●昭和38年に有楽町更科から分れた、「布屋恒次郎」→ 現『布恒更科』(南大井、築地支店もあり)

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※2
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[更科堀井の季節の変わりそば]

1月4日~8日 / 桜海老切
1月9日~31日 / 柚子切
2月1日~28日 / 春菊切
3月1日~3日 / 三色そば
3月4日~15日 / ふきのとう切
3月16日~4月10日/ 桜切
4月11日~30日 / 木の芽切
5月1日~10日 / 茶そば
5月11日~23日 / よもぎ切
5月24日~6月5日 / 紅花切
6月6日~20日/ 蓼切
6月21日~30日 /トマトつなぎ
7月1日~7日 / 笹切
7月8日~31日 / 青海苔切
8月1日~31日 / しそ切
9月1日~21日 / 青柚子切
9月22日~10月9日 / 菊切
10月10日~31日 / くこ切
11月1日~21日 / くちなし切
11月22日~30日 / 柿の葉切
12月1日~30日 / 柚子切

※12月21日・22日のみ、かぼちゃ切

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●『更科堀井 立川店』
東京都立川市曙町2-5-1 伊勢丹立川店 8F
042-540-8273
11:00~22:00
ランチ営業、日曜営業
定休日/不定休(伊勢丹に準ずる)


『電子書籍の衝撃』 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?



電子書籍の衝撃

●『電子書籍の衝撃』 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?
佐々木 俊尚(ささき・としなお)
2010年
ディスカヴァー携書(株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン)



「本がなくなるって?そりゃ困るなあ。タブレットって固いから、ベッドで読んでて
寝ちゃって顔に落ちたら痛いよな」って、そういう問題じゃないス。

本が全部電子化されたら、紙屋さんは儲からなくなるし、印刷屋さんも減収、
トーハンや日販もいままで通りにはいかなくなるし、本屋さんはどんどんなくなるし、
出版社や編集者はどうなるんだろう、ってな大問題なんだよ。

逆に、著作者は印税収入が増えそうだし、
読者は書籍を安く買えるようになるかもしれないな。

それより、作る側は大がかりな先行投資が不要になるから、
誰でも本を出版できるようになるよね。
これは、革命的!

反面、どんな内容でもどんどん発刊されるから、
何が正しくて何が間違っているのか判断が難しくなるし、
ネットって、情報がフラットに大量に流されるから、
僕らは何を参考にして書籍を選べばいいのかわからなくなるね。
間違った情報や、つまんない物語を買ってしまう可能性が高まるのかなあ。

これまでは、出版物って、書く人がいて、なんとか賞などの評価システムがあって、
編集者などの納得があって、出版社や流通や小売店の理解があって、
何人もの評論家や作家のエールがあって・・・
たくさんの人の「これは出版の価値がある」という太鼓判を押されることで
社会的にオーソライズされて本になってきたわけでしょ?
書店に並んでいるだけで、なんらかの存在価値があるんだ、ということが肌でわかったんだね。

その過程がごそっとなくなるか簡略化されるから、ネットの画面に本が並んでいても、
なんだかさっぱりわからない、ということになりそうだね。
ネットの「ランキングもの」や「比較もの」、「レビューもの」が人気になるのも
この辺に理由があるんだと思うな。

逆に、「村上春樹ならなんでも買う」というような買い方とは別に、
「おもしろければ、主婦がケータイで書いた小説だって買う」といった現象が起こってくる。
コンテンツの時代とか言われてきたのは、そういうことだよね。
でも、ケータイ小説が売れたのには、別の理由があるとこの本の筆者は言っている。

筆者の佐々木さんは、コンテンツから “コンテクスト(文脈)” の時代になった、と言っているんだ。

それはちょっとした比喩的な言い方であって、
マスメディアが発する作者情報や作品情報を頼りにするんじゃなくて、
その作者がネットの世界を通じて、「どんな考え方やどんな活動をしているのか」、
「どんな属性なのか」、「どんな人柄なのか」、
「その作品がみんなからどんな口コミを得ているのか」など、
その作者や作品の中身ではなくその周辺の “脈動”というか、
“みんなでわかり合う、関わり合う、生き方やあり方”
人の心を動かす要素になる、ということだと僕は解釈したね。

主婦のケータイ小説で言えば、
その中身がおもしろかったのではなく、
「素人が」、「ケータイで連載アップする新しいスタイル」や「フツーの人の話のリアリティ」、
「それに対してレビュアーがレスを繰り返すことによる盛り上がり」、
そうこうしながら、「仲間化、ファン化」が増殖して、
「自分たちの要望で書籍化する」など、
“自分たちが関わって、その小説が盛り上がって、中身が書籍化されるまでの文脈”
がおもしろかったから
、みんなその小説を買った、ということだということ。

これは、売る側が仕掛ければ「マーケット・イン」というやり方になるんだけど、
ケータイ小説の場合は自然発生的というか自発的というか、
そこんところが “熱く” なれる原因なんだろうね。

宣伝やPRに関わる人間にも、↑この辺がこれからの仕事の大切なポイントになるに違いないな。

そういえば、音楽出版の世界はとっくの間にそれが進行しているんだね。
iTunes などの大手音楽配信プラットホームの成功はもちろん、
僕らが全然知らないのにネットで大人気で、自作自演自録りの曲をネットで販売して
ビジネスを成立させている人もいるのだ。

この本は、2007年頃からアメリカで本格化した電子書籍ビジネスや音楽配信ビジネスを例に、
今後、日本でどんな電子書籍の嵐が吹き荒れるのかを示唆している。
2010年発刊だから、ハナシの内容が古くなっていそうな気がするけど、
2013年現在、日本では電子書籍の本格化はまだまだこれからといった感じだから、
“出版物の電子化” というものをマーケティング的に捉えたい人には、
いまこそ読むのに最適な本だと思う。

本や音楽だけでなく、雑誌や新聞、映画、ドラマ、アート、漫画・・・
ほらほら、もうどんどん進んでいるよね。
だから、あらゆるコンテンツビジネスのヒントがこの本には書かれている、と言えるなあ。
この本が電子書籍じゃないのは、どういう意味があるのかわかんないけど。

ある日突然、レコード盤が発売されなくなった。
いつの間にか、カセットテープもVHSもベータも消えた。
レーザーディスクやDATはどこへ行ったんだろう。
気づいたらMDプレーヤーが電器屋から消えてた・・・
デジタルの世界の変化は、驚くほどドラスティックだよね。

いま、タブレットを買おうかどうか迷っている人は、
この本を読んだらすぐに買っちゃうだろうなあ。


小料理屋のような酒と肴と会話と ~ 手打ち蕎麦処 『火群(ほむろ)』



蕎麦屋ってなんだろう、ってたまに考えることがある。
めし屋なのか、呑み屋なのか、料亭なのか・・・。

それは蕎麦屋が、“○○庵” とか “○○屋” とか言っても、
高いのか安いのか、うまい酒やツマミがあるのかないのか、こだわり系かフツーなのか、
店名やお店の外観、営業時間などではわかりずらいからだと思う。

イタメシ屋なら、パスタ屋なのか、ピザ屋なのか、トラットリアなのか、リストランテなのかで
どんな使い方をしたらいいのか、なんとなくわかるよね。
和食なら、食堂なのか、居酒屋なのか、小料理なのか、割烹なのか、懐石料理なのかなどでそれとなくわかる。

でも、蕎麦屋となると急に難しくなるよね。
天ぷらとか寿司とかうなぎとか、専門店だと難しいのかなあ。


① ウチは「めし屋」である

営業時間は、昼と夕方の3時間ずつくらい。
丼物とのセットメニューもいろいろある。盛りもいい。
時にはチキンライスもあったりする。値段もだいたい安い!
酒は日本酒1種とビール大瓶、つまみは枝豆くらい。
そう、働く者の強い味方、いつもの店だ。
バカにしているんじゃないよ、僕は実はこういう店が大好きなんでーす。
腹いっぱい、幸せいっぱい食べられるし、
「蕎麦は手打ちで、天重も天ぷら屋顔負けのうまさ」、
というような店も探せばけっこうあるからね。
こういう店が、1980年代までの日本の経済成長を引っ張って来たんだよ。
残念ながら、最近はこういう店を見つけるのが難しくなってきたね。
昔は、駅前といえば1軒や2軒必ずあったんだけど。


② ウチは「ちゃんとした蕎麦屋」である

営業時間は、昼3時間&夕方3時間くらい。
蕎麦屋らしいメニューがそれなりの値段で押さえてあって、
季節を感じさせる天ぷらなどもその折々にある。
ツマミも伝統的な品書きのほか、季節のものやオリジナルもあって蕎麦前をそそる。
「天ぬき」や「鴨ぬき」などの蕎麦屋裏メニューも通じる。
酒も燗酒、冷酒でこだわり銘柄がある。
惜しむらくは、中休みがあるので、昼下がりの蕎麦屋酒ができない。
・・・といった感じかな。


③ ウチは「蕎麦にこだわる、こだわり蕎麦屋」である

一日に、昼の2時間しかやってなかったりする。
昼&夜それぞれ2時間くらいやってても、
「蕎麦がなくなりしだい閉店」だったりする。
酒にもツマミにもあまりこだわっていない。
むしろ、酔っぱらいにはいてほしくないようすだ。
蕎麦単品の値段は、そこそこ高い。
店主に語らすと、長い、説教っぽい。


④ ウチは「蕎麦前を楽しめる蕎麦屋」である

②とあまり変わらないけど、
ツマミメニューと酒のラインナップがもっと多くて、
ぐぐっと呑みたくなる。
夜は、フツーの蕎麦屋は午後8時頃に終わるけど、
このテは9時か10時頃までやっていることが多い。


④’ ウチは「昼下がりの蕎麦前を楽しめる蕎麦屋」である

②または④の「中休みなし」バージョンのありがたい店。
これが意外と少ないよね。
中には、11:00~16:00だけとか、12:10~17:00だけといった
“昼下がりのまったり” を思い切りねらった店もあるよねー。
昼酒をする習慣というか気力というかがなかった僕には、
このテが最も “大人の世界” でわかりにくいんだなあ。
法事の時に、昼間っから酔っぱらっていた、親戚のおっさんを思い出してしまう。
でも、自分も正月なんかは昼から呑むかあ。
ともかく、昼酒の好きな向きには、とってもありがたい店だ。
このタイプが、江戸の蕎麦屋やうなぎ屋の真骨頂なんだろうな。


⑤ ウチは「蕎麦で〆られる呑み屋」である

これは、④と似ているけど、蕎麦屋の範疇から逸脱したツマミがたくさんある店。
逆に蕎麦のメニューがもりだけだったりして、“呑み” と “蕎麦” が逆転している感じ。
そもそも蕎麦屋だから、ツマミが手作りで手間がかかっていて、
器も凝ったりしてるから、まるで小料理屋や割烹料理屋みたいなレベルのとこも。
和風ダイニングバー、という言い方もできるかもね。
ランチタイムに加えて夜遅く11時頃までやっているか、
17:00~23:00だけといった、完全呑み屋型のとこもあるね。


⑥ ウチは「蕎麦懐石料理屋」である

文字通り、蕎麦周辺の素材や季節の食材を使った懐石料理屋。
高いよ。


⑦ ウチは「手打ち蕎麦を食べられる日本料理屋」である

コース料理が蕎麦でシメという料亭や割烹って多いよね。
でも、コレって蕎麦屋じゃないね、すんません。


・・・といったくらい、蕎麦屋にはいろんなスタイルがあるよね。
まあ、ネットで情報収集すればいいんだけど、
行き当たりばったりの看板やたたずまいではわかりずらくてさ。

こうやってみると、東京の老舗名店って、
①から④'までをピシッと押さえているとこがほとんどなことがわかる。
なるほど、さすが!
でも、ほぼ午後8時頃で終わりだから、
昼のほろ酔いはよしだけど、夜中の酩酊に加担する気がないのも特徴だね。
きっぱりと、「酔っぱらってぐだぐだ言ってんじゃねぇや、蕎麦食わねぇんならほか行っとくれ」
っちゅう潔いスタンスが伺えるね。


今回伺ったとこは、『火群(ほむろ)』という店。
西武新宿線の「新井薬師」駅から歩いて3分くらい。
南口の商店街が終わりそうで、さて住宅街に、といったあたりにある
マンションかな、その路面1階にあった。
ほら、代官山や自由が丘の住宅街にあるお洒落な店といった感じ。

火群_入口

麻暖簾をくぐると、4人がけテーブルが一つあるけど、
カウンター中心のカフェバーといった造り。
打ちっぱなしのコンクリートの壁だけど、
木製の棚やテーブルや椅子がうまいことレイアウトされているので、
ちゃんと和な空間が演出されているんだね。

ぱっと見てすぐに気づくのが、陶器がたくさん置かれていることだ。
器はもちろん、お地蔵さんや猫なんかのデコパージュというか
アート作品的な物もたくさんある。
聞けば、全部女将さんが作ったものとのこと。
ああ、店名の “火群” って、陶芸の窯の火のことかあ、
って勝手に納得してしまった。
「蕎麦がまずい季節だし、陶芸をやっているので」ということで、
毎年7月と8月は休業になるんだそうだ。
いいなー、ヨーロッパ人のバカンスみたいで!

平日の午後6時前に行ったので、ラッキーにも客が他にいなかった。
7~8人着けるカウンターのまん中辺に座らせてもらったよ。

その日は3月始めだったけど、わりとポカポカデーだったので、まずはビールから。
いきなりお通しに、殻つきの貝の蒸し物!
ばい貝だと思ったんだけど、小さなつぶ貝でした。ゴージャス!
冷たいビールがうまい!

火群_お通し

毎日手書きしてるに違いない和紙のメニューには、
日替わりのうまそうなおつまみがズラリ。
お造り系から煮物、焼き物、練り物で、しめて15種類くらいかな、全部一品500円!
それと、漬物や乾き物が300円か400円だ。
全部手作りだから、すごーく安いよね!

でも、出し巻玉子とか焼き海苔とか蕎麦味噌、板わさなんかの
蕎麦屋のツマミは今日は見当たらない。

お酒は、燗の「白鷹」500円
冷やの「真澄」、「獺祭」、「東洋美人」、「磯自慢」各700円と、
なかなかの品揃えでこれまた安い。

そして、蕎麦は「手打ちせいろ蕎麦」のみ。

そう、もうわかったよね。
ココは⑤の「蕎麦で〆られる呑み屋」なのだ。
料理と酒に凝った、カウンター割烹か、カウンター小料理か、はたまた和風ダイニングバーか
・・・なのに安いし、手打ちそばも食べられる店なのだ。
うん、これで人気が集まらないはずがない。

火群_しめサバ

よっしゃ、まずは大好きな「〆鯖」を注文。
女将さんの手作りだと。
身がしっかりしていて、魚臭くなく、甘すぎず酸っぱ過ぎず、絶妙!

火群_ぐい呑み

酒はまずは「白鷹」の燗
女将さんが焼いた盃、ぐい呑みが籠に盛られて出てきたホイ。
呑みやすそうなのをひとつ選ぶと、女将さんがお酌をしてくれた。
おっ、なんだか背筋がくすぐったい気分になってきた。
くーっ、燗酒と〆鯖、相性サイコー!

女将さんとぽつぽつ話をしながら呑んでたらすぐになくなっちゃったので、
今度は冷やの「東洋美人」「鮪とアボカドのわさびあえ」
お酒が徳利から土瓶に変わって、ぐい呑みも選びなおしができる趣向・・・

火群_鮪とアボカドのわさびあえ



・・・ちびちびやっていると、マラソンマンがやってきた・・・

少しおくれて、早口ぼやきんもやってきた・・・

マラソンマンのお連れかな・・・



そうこうしていると、ボトルキープのポンちゃんもやってきた・・・

ポンちゃんは、手作りチョコケーキを持ってきて・・・

仲間入りのしるしに僕にもおすそ分けをしてくれたのだった・・・

僕以外、みんな常連客なのだ・・・



高齢化のハナシなんかをしながら、お酒を追加したのを覚えてる・・・

どんどん打ち解けて、いろんなことを話して・・・

だんだん、何を話しているのかよくわからくなってきたけど楽しい・・・



ああ、そうだ、蕎麦を食べに来たんだっけ、蕎麦を食べなくちゃ・・・

おっと、かっこいい器だな・・・

もちろん、女将さんが作った皿・・・



女将さんの蕎麦は、蕎麦殻のホシのまばらさがユニークだね・・・

思いのほかコシのある、おいしい蕎麦・・・



もり汁がすごいぞすごいぞ・・・

カツオがピチピチ跳ねている・・・

「カツオを上げるタイミングが難しいの、出しが出切った時をつかまえるのがね」・・・

って女将さんは言ってたっけ・・・



さっき、女将さんと僕とふたりきりだった時・・・

22歳の猫のハナシをしたっけな・・・

そしたら、引き出しから黒猫の写真が出てきたっけ・・・

ハタチの時の写真・・・

1月に亡くなって、女将さんは最近まで傷心状態だったって・・・

写真を見ると、ああ、女将さんそっくり・・・

22歳の黒猫が、着物とかわいい割烹着を着たら女将さんになっちゃった・・・



と気づいたら、3日も経っていた・・・

家に帰らなくちゃ・・・


店の外に出たら、空からなにかがやってきた・・・

黒い猫だ・・・

背中に乗れ、と相図する・・・

駅まで行って、人間の乗り物に乗るのは面倒だ・・・

と思っていたところなので、うれしく乗らせてもらった・・・



空の上から、火群が見えた・・・



火群_手打せいろ蕎麦

火群_手打せいろ蕎麦アップ



●手打ち蕎麦処 『火群(ほむろ)』
東京都中野区新井5-12-9
03-3388-8717
17:00~23:00
※2011より7月・8月は休業
夜10時以降入店可
定休日/木曜、日曜


店名はイタリア語だけど、ザ・蕎麦屋 ~ 蕎麦『ぐらの』



なんかの用で出かけて、川越街道のふじみ野市あたりを車で走っている時に
偶然見つけたお店だよ。

街道沿いに縦長のでっかい看板が嫌でも目に入るから、
こりゃ、よくある和食ファミレスかな、と思ったんだけど、
「手打ち石臼挽 そば」って書いてあるから、ぐっと引き寄せられてしまった。
その時お腹が空いていたのかいなかったのか覚えてないけど、
まあ、チェーン店でもいいか、と思って入ったんだっけか。

ぐらの_外観

外観は直線が生かされたシャープな印象の和風家屋で、
内装は生木のトーンが印象的な古民家造り、って感じかな。
切り出した大木の一枚板で作られたテーブルやイスがなんとも贅沢。
梁や天井、あがりの床、窓枠、柱なんかも木目が生きている。

ぐらの_店内

天井が高い!
5mはあるかもしれない天井には、大きな天窓が5~6カ所も。
ベランダ側には、ヒノキの塀で囲まれた庭があって、
屋根からも窓からも、自然光がふんだんに取り入れられるように造られているんだなー。
中にいると、まるで高原リゾートの別荘!
ここが主要幹線道路沿いの町中であることを完全に忘れさせてくれる。

それでも、街道沿いで、大きな看板があって、店の前に広い駐車場もあるし、
“ぐらの” なんて店名だし、典型的なドライブインスタイルの
ランチ&晩ご飯向きの蕎麦レストランだろう、
って思っていたんだけど、全然違った。

たのんだものが出てくるまでの間、
酒ではなく、テーブルの上にあった小冊子を眺めていると、
どうもこの店は、“新そば会” という団体に属していることがわかった。
会員の顔ぶれを見ると・・・
北は「竹老園東家」から東京の “藪御三家”、“砂場三大店”、“更科二大店”、
西の「尾張屋」、沖縄の「美濃作」まで、老舗&名店がずらり。

“新そば会” がどんな組織なのか僕にはわからないんだけど、
ココがフツーの蕎麦屋じゃなくて、
そうとうなこだわり系の店なんだということに気づいたんだよ。

メニューを見ると、冷たい蕎麦、ぶっかけ系、あったかい系と
基本とバリエーションをほぼ押さえてあるね。
本物の蕎麦屋だ!

ぐらの_蕎麦メニュー

基本的に車で来るはずの店だから、お昼のメニューもしっかり練られているね。
ボリュームもバリエーションも豊かで、CPもバッチリ!
土日は中休みなし、というのもすばらしい!

ぐらの_お昼の品書

たのんだのは、このお昼のメニューの「天丼セット」のせいろ中もり1,310円也。

ぐらの_天丼セット

入口に「本日の蕎麦/福井県産・丸岡在来種、北海道産・キタワセ、茨城県産・常陸秋」
とあったので、花番さんに「このもりは、どこのですか?」と聞くと、
「ちょっと待っててください。板さんに聞かないとわからないんです」と言って、
少し経って戻ってきて「ヒタチアキです」とのこと。
これって、客が品種を指定しないと、本日の3種から店主が気分で決めるということ?
ココには、せいろの他に極太の田舎もあるのに、
2×3でどんなオペレーションをしてるのか、そのすごさに驚いてしまうな。

ぐらの_石臼挽せいろ

麺をよく見ると、ただの微粉じゃなくて、微妙につぶつぶが混じってるよ。
石臼を使った、自家製粉らしい見映えだねー。

ぐらの_石臼挽せいろアップ

食べてみると、なるほど。
常陸秋らしいって言うのかな、濃い香りと味が口の中に広がる。
うん、やっぱりうまい!

天丼はどんなだろう。
フタを開けてみると、おー、なるほど、これは蕎麦屋の天ぷらだねー。
衣を多めにフワッとつけて、かけ汁にも天丼のつゆにも負けない揚げ方のやつ。
しっぽに包丁を入れた、中ぶりの海老が2匹だよ。
食べてみれば、おーっ、これは上等な車海老だ!プリプリ!
ふんわり、もっちり炊けたごはんに、東京風の濃いめのつゆが適量。
んー、うまいわ。
「天ちら」もメニューにあるから、おか天の場合どんな衣のつけ方なのか、
興味が湧いてきたね。

ぐらの_天丼

うん!申し分ないっしょ。
すばらしいお店だねー。

しっかし、ココは夜はうまくいってるんだろうかな?
リゾート気分のお洒落な空間も蕎麦も、これだけのハイクォリティなんだから、
太くてうまいと評判の「田舎」も食べてみたいし、
お酒をちびちびやりながら、蕎麦前メニューの「かも焼き」や「そばみそ」、
「ニシンの甘煮」、「だし巻き玉子」なんかも食べてみたいんだけど、駅から遠いよねぇ。
東武東上線の「鶴瀬」からも「ふじみ野」からも、
歩いたら25分くらいかかるかなあ。
お昼は、豊富で楽しいメニューで大人気なんだろうけど、
他人事ながら心配になってしまう。
もったいないな、って。

ぐらの_ツマミメニュー

ちなみに、店名の「ぐらの」とは、
「grano saraceno」(グラーノ・サラチェーノ)= サラセン人の穀物 = 蕎麦のこと。
そういえば、イタリアの蕎麦の品種に、サラセン種というのがあったな。
ご店主は、蕎麦は日本だけでなく世界中の人が食べていることをとらえて、
世界の食文化に寄与していきたい、という気持ちからイタリア語で店名をつけられたとのこと。


そうそう、僕はついこの前まで、蕎麦って、日本人が世界で最も多く食べてるんだろうな、
と思っていたんだけど、これが違ったんだなあ。
世界で最もたくさん蕎麦を食べている国って、どこか知ってる?

<玄蕎麦生産量 世界ランキング>

① ロシア(100万トンくらい)
② 中国(80万トンくらい ※内モンゴル自治区含む)
③ ウクライナ(16万トンくらい)
④ フランス(12万トンくらい)
⑤ アメリカ(8万トンくらい)
⑥ ポーランド(7万トンくらい)
⑦ ブラジル(5万トンくらい)
⑧ 日本(2.5万トンくらい)


・・・正解は、ロシアでした。
なんと、日本の40倍も生産してるんだよ!
しかも、上位15位くらいまでにウクライナやカザフスタン、
ベラルーシなどの旧ソ連の国がたくさん入っているから、
蕎麦は北方ユーラシアの国々の主食といってもおかしくないほどの量だな。
寒くて痩せた土地でもよく育つ、って言われるもんね、蕎麦は。

しかも、フランスやイタリアなどの美食の国でも、ムシャムシャ食ってるし、
ポーランドやチェコなどの東欧の国でも、ワシワシ食ってる!

それから、インドやネパールやブータンなどのヒマラヤ諸国も日常的に食べてるし、
アメリカやカナダなどの北米も、最近は健康食として人気。

つまり、日本より蕎麦を食べている国がたくさんあるってわけだ。
知らなかったねー。

でも、ロシア料理の蕎麦なんて聞いたことないよね、世界一食べているのに。
でも、それは知らなかっただけで、ホントに毎日のように食べられているんだよ。
一番多い食べ方は、「蕎麦粥」
ロシアではカーシャと呼ばれているそうだ。
丸ヌキか挽き割りにした実にバターや牛乳、スープなどを入れて茹でたもので、
肉やニシンや時にはキャビアなどのお好みの具を入れて作る。
当のイタリアでも、ブラック・ボレンタ(貧民粥の意)という蕎麦米のお粥が有名。
このお粥というか雑炊というかが、世界で最もポピュラーな蕎麦の食べ方だったんだ!

カーシャ
カーシャ

その次に多い食べ方が、パンケーキ or クレープ方式。
ロシアではブリヌイ。フランスではガレットブリニ
ヒマラヤ諸国ではロティチャパティナン
アメリカやカナダではパンケーキ

ガレット
ガレット

変わったところでは・・・
中国やヒマラヤ諸国では酒の原料
ポーランドではピロシキプリン
イギリスやチロル地方の蕎麦すいとんマスの蕎麦粉詰め
中国の餃子の皮すいとん蕎麦がき蕎麦煎餅
イタリアではもちろんパスタニョッキ
「ピッツオケリ」というミラノの料理は有名。
などなど・・・・

ピッツオッケリ
ピッツオケリ

なんだ、世界中で蕎麦は食われていたのだ!
しかも、お粥か雑炊、クレープ、パンケーキ、というのが世界の主流だった。
麺に加工して食べるのは、日本はじめ中国、韓国、ブータン、イタリアちょびっと
だけらしいんだね。

『ぐらの』さんは、バリバリジャパニーズな蕎麦屋さんだけど、
今後、イタリア系の料理も出すようになるのかな?


●蕎麦『ぐらの』
埼玉県ふじみ野市大井816-4
049-264-0337
11:00~15:00、17:00~21:00(土日は通し営業)
ランチ営業、日曜営業
定休日/火曜日(祝日のときは翌日)


菓子屋の蕎麦は、新しい伝統の味 ~ 『蕎彩庵』



埼玉県西部で、すごくうまいと評判の蕎麦屋が4軒あると言われていた。
比企郡鳩山町の『満作』、川越市霞ヶ関の『みかあさ』、
坂戸市の『信楽庵』、同じく坂戸市の『蕎彩案』だな。
埼玉西部には、他にもたくさんうまい蕎麦屋があるけど、
この4軒とはいわゆるニューウェーブ系のことだね。

鳩山の『満作』は、やや粗挽き系の細麺で、とてものどごしのいい蕎麦。
メニューもオーセンティックで、リーズナブルな値段で上質な蕎麦を食べさせてくれた。

霞ヶ関の『みかあさ』は、“オヤマボクチ” の葉っぱをつなぎに使った、幻の「富倉そば」の店。
ツマミがすごく凝っていて、地酒のラインナップも見事な三拍子揃った店だった。

坂戸の『信楽庵』は、残念ながら平成12年の7月いっぱいで閉店してしまった!
僕は、行かずじまい、うー悔しい。
他の方のブログを拝見すると、群馬や福井の蕎麦を微粉で打った細麺を出していたようだ。
ざるに盛られた “もり” の写真を見ると、茹でた蕎麦粉の香りと、蕎麦の色を感じる甘味を
思わず想像してしまう。

いずれも蕎麦がうまいことはもちろん、おか天の飛び抜けたうまさと郊外ならではの低価格で、
遠くの街からも客足を引っ張ることのできる実力店だ(信楽庵は過去形で)。

4店ともいくぜー、っと思っていたんだけど、
今回の3店目で最後になっちゃった。


『蕎彩案』は、関越自動車道の鶴ヶ島インターの近くだから、
川越の駅前から車で北西に少し走ったら着いたねー。

蕎彩庵_入口

県道256線に面してある一軒家。
できてまだ7年だから、建物の外も中も新築に近いきれいさだ。
車を停められるスペースは、店の前の3~4台分しかないから、
もし満杯だった時のためにどっかにパーキングを探しておくか、
予約をしておくなど事前に工夫しとかないと流浪することになるねぇ。

蕎麦メニューは、冷たいやつのみだ。
いろんな天ぷらとのコンビネーションと、大根おろし系と鴨汁のつけ麺だけ。
得てしてこういうところは、もり蕎麦がうまいことになってるよね。

自分でも蕎麦を打ってて感じることがあるんだけど、
蕎麦打ちって「水回し」が一番大事で、「揉み(練り)」、「のし」、「切り」
のことばかりに視点がいくけど、「茹で」ってけっこう重要じゃない?
ヘタにアルデンテみたいなことをねらって生茹でにでもしてしまったら、
これがひどくマズいんだよ。
逆に茹で過ぎは、味と香りはすごーく損なわれるということはないけど、
歯ごたえやのど越しなんかの食感面で調子悪い。
実は、“茹で” で、蕎麦のうまさを引き出す絶妙なタイミングを捉えるのは
わりと難しいんだよね。

ココのは、ちゃんとグッドタイミングで茹で上げられていて、バッチリうまい!
新鮮な微粉で打った麺をちゃんと茹でて、香りと味を最大限に引っ張り出す伝統的なやり方で、
大成功してるんだなあ。
それだけに、“茹で” にはけっこう神経を使っていると想像される。
だからこそ、“かけ” 系はやらないんだと思う。
“もり” ひとつでもけっこう神経使ってベストを追究しているのに、
熱い汁に入れてどんどんのびてしまうのを計算しながら、
さらに、いろんな種物を作って載せる時間も計算に入れて茹でなきゃならない
“かけ” 系なんかやってられない、ちゅうことなんじゃないかなあ。
一人で全部調理をやっているとしたら、これはまずムリだと思う。
調理係の「中台」さんがもうひとりいないとね。

蕎彩庵_口上

まあ、僕のごたくは横に置いといて・・・
ココの蕎麦は、北海道・浦臼地方産の「ぼたん」だそうだ。
その玄蕎麦を、ご店主の郷里の山形にいらっしゃるお兄さんが石臼挽きした一番粉を
送ってもらって打っているとのこと。
お兄さんは、製粉業者さんなのかな?
あちこちの人の手間をかけているおかげに違いないと思うんだけど、
ココの “勝負もり” は、ものすごくうまいぞ!
汁は甘味も出しも醤油のカドも出っ張らない、名バイプレイヤー型。
ココで食べると、老舗名店のほとんどがなんで微粉なのか、わかるような気がする。

同行2名で行ってたのんだのは、「デザートセットもりそば・1,100円」、なんかお得な感じ。
と、「天ぷら(海老付)もりそば」1,260円、やっぱお得な感じ。
メニューの値段は全体的にお得な感じですなあ。
ちなみに、たのんでないけど単品の「野菜天ぷら盛り合わせ」は420円

最初に出てきたのは、刻んだ「野沢菜の漬物」。
ん?これは、全部のメニューについているのかな?天ぷらもりそばのつきだしかな?

続いて「ごま豆腐」ときた。
もちろん手作りだそうで、スーパーのゼラチンを多く入れて固めたプルプルしたやつとは違う。
むっちり具合とごまの濃厚さが明らかに違った。
ごまの甘味が、ふわーっと口に広がるんだよ。
これは、すべてのメニューについているんだっけ?
これは、つきだしと呼ぶにはクォリティが高すぎる、と言えるくらいうまいね!

蕎彩庵_ごま豆腐

次は「天ぷら(海老付)もりそば」の天ぷら。
海老は車海老なのかな?芝海老なのかな?いい海老だねー。
衣のサクサクの中にプリプリがアツアツで、ホカホカだあ。
こりゃ、天ぷら専門店もびっくりのうまさだなあ、すごい!

蕎彩庵_天ぷら

茄子、南瓜、舞茸そして、たらの芽も盛り合わせ。
たらの芽は、苦みを残した揚げ方で絶妙!
海老が主演女優なら、これは主演男優、って感じ。

蕎彩庵_もりそば

さてさて、メインの蕎麦が出てきた。
口上の通り、石臼で挽いて一番に篩にかけた微粉で打ったものだろうね。
老舗などでみるオーソドックスな麺に見えるけど、
よく見るとさらしな粉のような透明感があって、
噛むとけっこうコシがあるんだな。
上で書いた通り、香りも味も豊かで、もり汁も絶妙。
ハイレベルな微粉系の蕎麦のうまさに、
さらしな粉の美しさとコシを足し算したとでも言うのかな、
目を見張るクォリティだ。

蕎彩庵_もりそばアップ

食べ終わって・・・いやー、こりゃすごいなー、
なんて言っているうちに、デザートが出てきた。

蕎彩庵_デザート

えっ?なんだコレ、すご過ぎないか?
フレンチレストランのコースメニューのデザートみたい。
きれいな盛り付けだねー、なんて言いながら、
木苺のシャーベットに刺さったクッキーというかラングドシャーというかを齧ったら、
そのサクサク具合に驚いて、思わず「うめーっ」。
その声を聞きつけたのか、気づいたら女将さんがそばに来ていて、
「蕎麦粉で作ったクッキーなんですよ」って。

僕が「手作りなんですか?」と聞いたら、「ええ、全部手作りです」とのこと。
へぇー、蕎麦打ちだけでも大変なのに、ものすごくマメなんだ、なんて思っていたら、
僕の胸の中を読んだように女将さん、「店主は、元、椿山荘のパティシエだったんです」だって!!
椿山荘といえば、目白にある、あの椿山荘だよ。
フォーシーズンズホテルもくっついているとこ。

そう聞くと、かぼちゃのプリンがパンプキンのプディングに、
木苺のシャーベットがフランボワーズのソルベに見えてきた!

蕎彩庵_デザートアップ

そうか、そういえば、江戸時代には菓子屋が蕎麦を作って売ったりもしてたんだな。
今昔問わず、お菓子職人のこだわりやマメさや繊細さ、粉の特性に対する知識なんかは、
蕎麦打ちや蕎麦料理につながるものがあるのかもね。
うーん、パティシエ恐るべし。
ちなみに、ご店主は宮川洋二さん

ツマミや酒がいい、というのもいいけど、
デザートがぴかいち、という蕎麦屋もありだねー。
蕎麦もぴかいちだからね。
いやー、すごーくいい店だねー。

こういうスイーツに凝った店が増えて、
ヤングな蕎麦好き女子 = “そば女(ソバジョ) or そばガール” が増えるといいな。
“そばばぁ” はいっぱいいるんだけどねぇ。
(失礼。あなたのことではありません)

最後に、あんこをかけた蕎麦がきというか蕎麦団子というかが出てきた。
これも、全部のメニューにつくんだっけ?
うーん、大満足!
また、来よっと。

蕎彩庵_蕎麦がきデザート


●『蕎彩庵』
埼玉県坂戸市戸宮226-3
049-289-7867
平日11:00~14:30
土日祝日11:00~14:30、17:30~20:00
そばが無くなりしだい、終了。
日曜営業
定休日/火曜日(不定休あり)


隠れ家じゃなくて、隠れ屋敷 ~ 『麻屋』



いったい蕎麦屋って、どうやって商売を成立させているんだろう。
行きたいな、と思った蕎麦屋が昼の2時間しかやってなかったり、
マイカーじゃないと行けないようなところにあったり、
なんてことに出くわすと、そんなふうに思うことがある。

どうしても気になるのが「営業時間」。
気にならない?

一番多いのが、「11:00~14:00、17:00~20:00」だよね。
これは、どう考えても昼ご飯と晩ご飯タイムだよねぇ。

「ウチはめし屋です」って言っているようなもんでしょ?
だから、どうしてもこの時間帯でいくしかないとしたら、
田舎とニ八のもりと天もりしかない、なんてのはダメでしょ。

僕だったら、メニューはできるだけバラエティ豊かで、量がそれなりに多くて、
おかずやツマミになる料理もたくさんあって、値段もリーズナブルに設定するなあ。
お客さんは、昼ご飯と晩ご飯を食べに来るんだから。

それで、儲けたけりゃ客席は多いほどいいし、
お客の回転を早くしたり、夜は高級化する工夫も必要かも、
ということになるね。

しかも、この時間帯の営業を通すなら、お酒で儲けようなんて考えない方がいいなあ。
だって、午後8時で終わりでしょ。
現代人は、なかなか6時や7時には仕事をあがれないないからね。
かといって、正月でもなけりゃ、
昼間っからガボガボ酔っぱらうまで呑める人もあんまりいないよね。

蕎麦屋酒を楽しませて儲けようと思ったら、23時や24時頃までやらなくちゃ。
なおかつ、土・日・祝日は中休みなしにすれば完璧でしょ。
休みの日なら、昼間っから呑みたい人はけっこういるだろうからね。
仕込みに必要な時間や人件費のことを無視して、
たいへん恐縮なのですが、理想を言わせてもらえば・・・。
でも実際、夜遅めまでがんばっている蕎麦屋もあるからねぇ。

ツマミになる料理は凝る必要がない、と言ったら語弊があるかもしれないけど、
日本料理屋や高級割烹みたいにビシッとやる必要は全然ないと思う。
蕎麦屋らしい材料で、ちょっと気の利いた、という程度のものがいいんだよね。
じゃないと、なに屋なのかわからなくなってしまう。
酒とツマミは “蕎麦前” であって、あくまで蕎麦が主役なんだから。
サラッと夜遅くまでやってくれる蕎麦屋がふえてくれるといいなあ、
っていつも思ってしまう。

江戸時代や明治時代の職人さんや商家の旦那なんかは、
遅い昼飯や午後に休憩を入れたりで、
平日でもアフタヌーンティーみたいな感じで、
昼下がりにちょいと酒と蕎麦をひっかける、
といった粋な蕎麦屋の使い方をしていたんだろうけど、
それ向きな営業時間の店もあるよね。
平日の「12:00~16:30」だけ、って感じの店。
このタイプは、昼酒型の江戸蕎麦の伝統にかなっているはずだけど、
はたしていまこの世に、平日の午後に酒を呑むことのできる人が
どのくらいいるんだろうか。

一番理解しがたいのが、平日の「11:30~14:00」だけしか店を開けず、
田舎と並そばのもりと鴨南蛮くらいしかないところ。
概してこだわり派が多くて、もちろん蕎麦はうまいんだけど、
値段もけっこうする店が多いかな。
観光地や大都会なら、「今日は軽いもので済ませたいな」って人や、
「人気の店があるんだよ、おかずがないし、ちょっと遠いけど行ってみる?」
って感じの、僕みたいな物好きが来るだけで商売が成立するかもしれないけど、
フツーは全然儲からないよね、きっと。
そういう蕎麦屋って、なんかの理由で儲ける必要がない店が多いのかなあ。

で、その次に気になるのは「立地」。
都会でも田舎でも営業時間については、
僕的には中休みなしで「11:00~23:00」か
上に書いた「11:00~14:00、17:00~23:00 ※土・日・祝日は中休みなし」
が理想なんだけど、駅や繁華街に近いか遠いかでまた違ってくると思う。

駅から遠い店は自動的に酒は呑みずらくなるよね。
マイカーやお金のかかるタクシーで行かなきゃいけなくなるからね。
だから、近所の人があまり飲みに来ないのなら夜は遅くまで開ける必要はなくなるし、
中休みをとっても全然いいかもしれない。
それでも繁盛したいなら酒商売ではなく、
楽しいメニューや珍しいメニューとか、超こだわり蕎麦とか、
デザートに凝るとか、安いとか、量が多いとか、
別のコンピタンスを創り出す必要が出てくるわけだ。

まあ、どんな店でも、蕎麦屋である限り蕎麦がうまいことが最も肝心だけどね。
そればっかは、うまけりゃうまいほど、こだわればこだわるほどいいに決まってる。
これまた、採算とか考えもしないで勝手なこと言ってすみませんが・・・。


ところで、この前行った『麻屋』は、その「別のコンピタンス(強み)」を持った店だったんだよ。

麻屋の蕎麦のメニューは、少なくはなく、かといっても多くもなく、でもあったかい蕎麦はゼロ。
うどんがあって、こちらは冷たいメニューのほかにあったかいメニューもたくさんあるけど、
西埼玉名物の地粉でコシを出した武蔵野うどんでもないし、
なんとなくピントがぼやけてる印象なんだ。

“おつまみ” も「もつ煮込み」、「おでん」、「板わさ」、「みそ田楽」だけで、
なんとなく、これぞ蕎麦屋、って感じがしないでしょ。

営業時間帯が “昼飯&晩飯型” なのに、ご飯ものは1品だけだし、
ランチメニューも1種類のみ。

お酒も「ビール」、「酒」、「冷酒」と書いてあるだけで、迫力がない。

悪いということは何もないんだけど、営業時間やメニューを見る限りでは、
集客パワーというものがありそうに見えないんだな。
値段のお得感は、かなりあるけどね。

ところが、メニューからふと顔を上げてみてわかった!
そういえば、なんかココ、広いなあ。
せせこましいところがなくて、妙に居心地がいいのだ。

06麻屋_店内

よく見たら、客席空間は40畳くらいはあるかなあ。
そこに、小さなテーブルが3つと、7~8人は着けそうな囲炉裏作りの相席テーブルが一つ、
こあがりに座卓が3つかな。
それだけレイアウトされていても、何にもないスペースがたくさんあって、
ゆったり広々としてるんだ。
ムダというかもったいないというか、いや贅沢な空間の使い方。

入った時からまず目を惹くのは、中庭だ。
フツーの家ではまず考えられないL字型に3枚はめ込まれたどでかい一枚板ガラスから、
いやがおうにも見えるんだよ。
南からの自然光にあふれた、よく手入れされた庭木たちが目を癒してくれる。
鳥のえさ台が設けられていて、鳥たちが競い合ってえさをついばんでいるのが見える。

02麻屋_中庭

トイレも和づくりで広々。
厨房もそうとう広い。
奥には、あがりではなくて10畳くらいの座敷まである。

入口を見た時は、よくある “一軒家改造型” と思ったんだけど、
これは、“お屋敷” だ!
この辺は、団地やファミリー型マンション、建て売り住宅なんかが立ち並ぶ住宅地なんだけど、
こんなところにこんな贅沢な屋敷があったんだ!って驚いたなー。
おまけに、帰る時に気づいたんだけど、7~8台停められるくらいの駐車スペースもあった。
敷地面積200坪、いや300坪くらいあるのかな。

01麻屋_入口

うん、そうだ、これはサロンだ!
和サロン
ゆっくり眺めていると、なんとゆったりで贅沢な店だということに
しばらく経ってからじわじわと気づいてしまった。
こりゃ、誰にも邪魔されずに、鳥でも眺めながらのんびり蕎麦前酒をやるのに最高だわ。
隠れ家じゃなくて、隠れ屋敷。
今度、ゆっくり来よう、って考えたらなんだかウキウキしてきた。

聞けば、平成25年現在で、開業22周年とのこと。
なんとなくピンボケなのに、長年愛されてきている理由がわかったね。

03麻屋_天汁そば
天汁そば 850円

05麻屋_天汁

ちなみに、蕎麦は常陸秋
自家製粉ではないみたいだけど、実はこれがすごくうまいんだな。
微粉で打って、しっかりもっちり茹でた、昔ながらの実直な蕎麦だけど、
ものすごく、と言いたいくらいうまい!
香りも味もバツグンだ。
なるほど、あったかい蕎麦がゼロというのは、
もりのこの味に絶対的な自信があるからなんだなー。
うん、僕の中ではヘタをするといままで食べた “微粉系” では、一番うまいかもしれない。
恐るべし常陸秋、恐るべし『麻屋』。

04麻屋_天汁そばアップ



●『麻屋』
埼玉県所沢市けやき台1-44-5
04-2926-5033
11:30~14:30(オーダーストップ)
*夜予約準備のため14:00で閉める場合あり
18:00~19:30(オーダーストップ)
*宴会の場合は営業時間延長
定休日/日曜日