入院するということ



ある日の夕方・・・
「なんか、腹が痛いなあ」と思いつつも、晩ご飯のサバの味噌煮を完食。
ちょっとお腹の調子が悪い時の痛みとは、微妙に違うような気がする。

それから、時間が経つに連れて、どんどん痛みが強くなってきた。
ただごとではないことに気づいてくる。

夜中・・・
布団に入っても、腹が痛くて寝られない。
正面を向いて寝ても、右を向いても左でも、痛みは軽くもならない。
5分周期くらいで、激しい痛みが襲ってくる。

げっぷとともに胸やけも襲ってくるようになったので、
「これは “出す” しかない」と思い立って、トイレへGO。
上からも下からも水状のものが出るけど、もひとつ量が少なくて達成感が得られない。

その繰り返し。
朝が来ても、昼が来ても、その繰り返し。
永遠に止みそうに思えない痛みが、だんだんと気力をシュリンクさせる。
頭が朦朧としてきて、トイレに行くのもフラフラだ。

昼過ぎ・・・
近所の病院へ行く。
がまんしきれずに来たというのに、いろんな薬をくれただけ。

調剤薬局で、すかさず痛みどめの頓服を飲んだけど、利かない。
抗生剤、胃腸の消化亢進剤、胃壁の消炎剤、抗生物質に対する腸の耐性剤・・・
などを飲みながら、寝たきり生活をまる2日続けるけれど、ぜんぜん良くならない。

こりゃ、もう一度病院へ行くしかなさそうだ。
まる4日、水以外何も口にしていないので、明らかに体が弱っているのがわかる。
道すがら、これで痛みが止まらず、ちょっとでも体力が回復することがなければ、
もう家に帰れないんだろうなと思った。
たった3分程度の帰り道を歩ける気がしないのだ。

その医師は、先に処方した薬を飲み続けろと言う。
レントゲンに写った胃腸は、水やガスでパンパンに膨れている。
この中身が出てしまうまで、薬を飲んで安静にしていろと言う。

この医師は・・・
●いま、ものすごく腹が痛いこと
●言われた通り薬を飲んで安静にしていても、胃腸の水やガスが溜まる一方であること
●体が弱って、もう限界に近い状態になったから病院へ来たこと
・・・をまったくわかってない。

「もう、家まで歩いて帰る気力も体力も残ってません」
「え?」
「痛みも、もうこれ以上がまんできません」
「・・・・・、では点滴をしましょう」

というわけで、横になって点滴を受けていたら、院長と呼ばれる人が現れて、
「つかりこさん、このまま転院して入院。腸閉塞を起こしているから、
すぐに処置しないと危ないからね。救急車を呼ぶよ」

そこから先は、気が遠くなってよく覚えていないんだけど、
連れの話では、血圧が高くなったり下がったり、脈拍が早くなったり止まったりしていたことのこと。
後から聞いた医師の話では、そんな感じで腸閉塞で亡くなる人がけっこういるとのことだった。

こうして僕は、24時間 × 365日救急対応の病院に担ぎ込まれた。



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●びっくりしたこと

CTスキャンを撮って、“重症部屋” と呼ばれる、ナースセンターに一番近い部屋に入れられた。
ヘタすると死ぬかもしれない、他の患者には見せなくても済む部屋、ということだろうね。

点滴をし出すと、ややあって痛みがウソのように消えた。
苦痛がなくなると、4日分の睡魔が襲ってきたんだろうね、眠ってしまった。

びっくりしたのは、朝、目が覚めたら、ベッドがウンコだらけだったことだ。
その日から、僕は紙オムツをはいて生きることになったんだよ。
初めての入院、初めての寝大便、初めての大人用紙オムツ・・・ってわけ。



●愛しい病気仲間

自分が苦痛に悶えていたうちはそれどころじゃなかったんだけど、
一般部屋に移されて、ちょっと良くなってきたら、まわりの人の音が聞こえてくるんだよね。
なんせ、薄いカーテンで仕切られただけの8人部屋だからね。

トイレに行く途中でちょくちょくウンコを漏らして、看護師さんを困らせていたスナツボさん、
ぶつぶつ独り言を言いながら、しょっちゅう備え付けのキャビネットを開けたり閉めたりするマツモトさん、
自身の病状について、医師や看護師に長々と自分の見解を述べずにいられないマツミヤさん
・・・
そして、長い夜の間に、点滴のドレーンを押して何度も何度もトイレに行く僕。

ちょっとした言動や会話を聞いているだけで、その人がどんな病気やケガで入院してきたのかはもちろん、
どんな職業で、どんな性格で、どんな食べ物が好きで、どんな家族がいるのかさえもわかってしまう
(スナツボさんの息子嫁はとてもいい人だ)。
まあ、いいところも悪いところもわかってる、家族みたいなもんだよね。
寝食を共にする、というのは、こういう親近感を越えた理解関係のことを言うのかな。
いやいや違うか、寝食以外は何にも共にしていないからなあ。

だから、夜、寝ている間に、いびきが多少でかかろうが、あっちこっちでジイさんが放屁しようが、
寝言で何か叫ぼうが、ナースコールをしょっちゅう押そうが、あまり気にならないんだよ不思議と。
「どうした、大丈夫か」って、治療に参加したくなるくらいだよ。
たしかに、ナースコールや急な点灯で睡眠を妨げられることが何度もあったけど、
寝る時間なんてほんぼでもあるし、お互いさまだからね。
“オレたちゃ、病気仲間!” って感じかな。



●白衣の天使

あの薄手でタイトなナース服を着たおねーたまが、色っぽいんだよなー、
なんて勘違いしてる健康な男子がたくさんいると思うけど、
具合が悪くって、エロな気持ちなんて湧くわけがないべー。
入院して本当の意味がわかった気がするなあ。

本当に苦しくて床に伏している人にとっては、彼女たちはホントに “天使” なんだなー。
“24時間、具合の悪い人をなんとかするエキスパート“ なんて、他にどこにいる?
夜中に、ドクターに痛みどめを打ってもらっても腹痛が収まらなかった時に、
温湿布を作ってくれた看護婦さんはホントに天使に見えたよ。
ウソのように痛みが消えたんだよ。

僕は、検温と血圧測定と点滴以外は、
車いすを押してもらうとか、シモの世話をしてもらうとか、風呂に入れてもらうとかしなかったんだけど、
夜中に目を覚ました時に、ナースステーションに何人も看護師がいる、
と考えただけでとても安心できたなあ。

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●三食・昼寝・医師・看護・介護付き:一泊9,000円

具合が悪い状態の時はそれどころじゃないけど、ちょっと良くなってきたら、
これほど快適な所はないんじゃないか、って気がしてきたよ。

だってさ、ダイエット食が三食ついていて、常に医師と看護師が健康管理をしてくれるホテルなんてある?
おまけに、きちんと生活リズムの管理がなされていて、空調も湿度も完璧で、
場合によっては風呂にも入れてくれるし、食事やシモの世話までしてくれる(笑)。

そりゃベッドはふかふかじゃないけど、電動で機能性バツグンだし、
あとは、夜中に他の人のナースコールで起こされるのさえなければ万全だけど、
でもね、具合が良くなってくると、個室みたいにあまりにも何もないのも退屈過ぎるかもね。
いやー、退院までの残り数日は、実に快適だったよ。
人間ドックが好きだ、という人の気持ちがわかった。

これで一泊9,000円は、安いなあ。
まあ、病院側は健康保険でこれの何倍も請求しているんだろうけど、
それでも人件費や食べ物やリネンなどの経費を想像すると、
病院がすごく儲けているような感じはしないなあ。
感謝の気持ちさえ湧いてくるよ。
近年は、おカミのレセプトチェックや入院期間の制限などが厳しくて、経営が大変なんだろうな、と思う。



●人生途中の心の整理

だいぶん治ってきて、「なんだか、病院って快適だなあ」なんて思いながら本を読んでいたら、
入院って、その時点での自分の意思を確かめるのに役立つ、いい機会なのではないかって、
ふと思いついたんだよ。

10代20代の頃、友達のお見舞いで病院に行ったことが何度もあるよね。
もう、一刻も早く病院から出たかった。
院内感染しそうだし、けが人や病人を見るのが気の毒でしょうがなかった。

夏風邪をひいた時、学校や部活を休むのが悔しくてならなかった。
元気にやってる人に遅れをとる、人生のムダ遣いをしている気がした。

僕が入院している間に担ぎ込まれてきてすぐに退院して行った
スキーで足を折った学生や、バイクでコケて肋骨を折った若もんはそんな気持ちだったんだろうね。
気力と健康に満ちあふれていて、一秒でも早く病院を去りたい人たち

それから、不謹慎だけど、死を覚悟する人たち、というのもいるのではないかと思ったんだよ。
入院してると、「重症部屋」から出て来られない人や、
たくさんの管を差しこまれたまま個室に移される人、
突然の発作で別室に移されて帰って来ない人なんかをしょっちゅう見ることになる。

誰でも「なにくそ、死んでたまるか」と思うに違いないけど、
もし、僕が長いこと重病で苦しんでいて「オレはもうだめかもしれないな」という状態だったとしたら、
逆に気が楽になるんじゃないかと思ったんだよ。

死ぬのは自分だけじゃないって、孤独感や恐怖感がだいぶん減るような気がする。
気力も体力も失って、死を受け入れる人たち

今回の自分と言えば、そのどっちの人でもなかったなあ。
「ずっと走って来たけど、ちょいと休憩。いろいろ確かめて、よっしゃ、次行くぜー!」って感じ。
休んだ時間がもったいないとも思わないけど、まだまだあきらめられないこともたくさんある。
そう、そんなことを確かめられたのさ。





腹が痛くて病院のベッドでのたうちまわっていたある晩、それでもちょいと5分くらい眠れた時間があった。
その時、妙にはっきりした夢をみたんだよ。

自分のブログのCSSをいじくっていたら、
なぜか、600字くらいの文章が書かれたテキストファイルが何十個も見つかった。
なんと、それは、さとちんさん(http://nimaruni.blog.fc2.com/)の映画評じゃんか!

僕は、その一つ一つを開いて、時間に追われるようにして校正しているんだよ。
一字一句、読み上げるようにして確かめている。
んー、ツッコミどころのない文章。
あと何本校正しなきゃならないんだーっ、って思ったら目が覚めた。
ガハハハハー

素人分析だけど、さとちんさんが出てきたのは・・・
映画カッパさん(http://kappacinema.blog.fc2.com/)からいただいた
「キネ旬ベストテンの授賞会」のチケットをなんとかして渡す方法はないか、
そもそも、急に振っても、さとちんさんは土曜日空いているのか、
なんて昼間に考えていたからだと思う。

それから、映画評の校正をしていたというのは、映画のレビューがたくさん溜まっているので
「ああ、早くブログを更新しなくちゃ」という気持ちが頭の中のどっかにあったからなんだろうね。
なんとわかりやすい。

★カッパ師匠、さとちんさん、ホントすみませんでした。



ちょっと、暗い感じの記事になっちゃった。
ま、こんな時もあるわさー。

さ、次の目標に向かって、再スタートだぜっ!



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“Try To Wake Up To A Morning“ / GODIEGO