【閉店】築200年の古民家で、腹いっぱい食べる幸せ ~ 『まるい』小手指店



蕎麦屋の建物って、どんなもんだろう?

外観のハナシだけど・・・

まずは、①純和風一軒家店舗タイプだよね。
一部焼けちゃった “かんだやぶ” や “虎ノ門砂場” や “神田まつや” みたいなやつから、
街の蕎麦屋みたいな昭和食堂タイプのものまで。
数寄屋造りのような由緒正しいものから、最近建ったものまで、「町屋建築」のもの。
江戸蕎麦系の蕎麦屋の建物だよね。

それから、地方でよく見る、②古民家民芸タイプ
豪農とか田舎の商家のでかい木造建築。
一本木切り出しの梁や柱が立派な取り廻しのやつ。
昔の住居を転用してるやつや、最初から民芸風店舗として建てたものがあるよね。

②に似てるんだけど、民芸調ではないし、古いとも限らない、
③“農家タイプ” というのもあるよね。
一軒家に違いないんだけど、繁華街なんかの街では “町屋”だよね。
でも、郊外や田舎の一軒家には、この “農家” がかなり多い。
そう、故郷の親戚の本家、って感じの家。
けっこうでかくて、和室が床の間のある部屋から襖仕切りで3部屋くらいつながっているようなやつ。
正月や法事に親戚がわんさか集まって宴会やっちゃうような。
座布団で座って、いすはゼロ。
ちょっと気が利いていて、掘りごたつ式のテーブルがあるとこもあるね。

ニューウェイブ系でよくあるのが、④一軒家住宅改造タイプ
これは、古い町屋でもなく、古民家でもなく、農家でもない、フツーの一軒家。
自分ちの表玄関と1階の和室と厨房を改造して店舗化してるとこ。
これは、住居と兼用だし、高い家賃がかからない分、
このスタイルで独立開業する人が多いんだろうね。
固定資産税はかかるけど。
こちらの内装は、和モダンやモダンが多いかな。

⑤商業ビルやマンションのテナントは、繁華街ならあたりまえだよね。
東京都内みたいな地価の高いところで、
気軽に楽しめる店を成立させるのは難しいんだろうなあ。
これは外装のハナシであって、内装は純和風もあれば、
民芸調も和モダンもモダンもなんでもあり。

あとは、いわゆる “デパ蕎麦” の⑥デパート・専門店ビル食堂街テナント
⑦ドライブインタイプかな。
いずれも、内装はいろいろ。

僕的には、街でも田舎でも、古い一軒家がいいなあ。
江戸時代や明治、大正から続く歴史的建造物とは言わないまでも、
せめて戦後以前くらいに建った、それなりに古い建物で、
駅か自分ちに近くて、蕎麦屋らしいツマミがそこそこあって、
種類が多くなくてもうまい燗酒と冷酒の銘柄が置いてあって、
できれば手打ちで、粗挽きも微粉もあって、安くて。
それで、愛想のいい花番さんがいればいうことなしだなあ。


この前行ったとこは、思いっきり②の古民家の店。

01まるい小手指店_正面外観

古民家どころか、築200年以上というから古古民家くらいの博物館入りクラス!

02まるい小手指店_庭

古民家 “風“ とか民芸 “調” とかじゃなくて古民家そのものなんだよ。

03まるい小手指店_茅葺

昔の武蔵野の民家って、こんなんだったんだ、って実物の中に入れる貴重な一軒だろうなー。

04まるい小手指店_裏外観

もう、かなり傾いちゃっているけどねー。

05まるい小手指店_内観

『まるい』って言って、“うどんと蕎麦” の店。
たまに、“うどんもある蕎麦の老舗名店” もあるけど、
ココは明らかに “蕎麦もあるうどん屋” だなー。

埼玉県所沢市あたりや東京都東村山市あたりには、おいしいうどん屋が多いんだよね。
そう、「武蔵野うどん」って言って、地粉を使って打った、太くて、黒っぽくて、
つるつるしてなくて、コシが強いうどん。
素朴な郷土料理なんだけど、けっこううまいよ。
最近では、まっ白な麺だったり、妙にやわらかかったりする武蔵野うどん屋もあるらしくて、
要は、地元の手打ちうどん屋さん、ってことだよね。

武蔵野うどんは、広大な武蔵野台地の中でも、東京都西部(多摩地区)と埼玉県西部を
合わせた地域に伝わる郷土料理だとのこと。
もともとこのあたりは、関東ローム層である台地の水はけが良すぎて水田を作りずらいため、
小麦の生産がさかんだったらしいんだよね。
このあたりの農家や民家では、家庭でうどんを打って食べるのがあたりまえだったそうだ。
いまでも、冠婚葬祭などの行事でうどんを出すのが習慣になっているところもあるんだって。
長年多摩地区に住んでたけど、僕もついこの間まで知らなかったんだな、このことは。
東京都西部と埼玉県西部ではやたらと沿道で見かける
かかしのイラストでおなじみの「山田うどん」の本社は、所沢にある
というくらい “うどんのくに” なんだよね、武蔵野って。

というわけで、この『まるい』は、この辺の典型的な武蔵野うどん屋さんなのだ。
所沢近辺で、僕が知っているかぎりで3店展開してるはず。
でも、古民家なのはココだけ。
どの店も、うどんの他に、丼ものや刺身、天ぷら、焼き物、煮物など各種料理メニューも豊富で、
地元で大人気の “うどん&蕎麦食堂” なのだ。

パンフレットには、「手打ちうどん そば」とショルダーコピーが書かれていて、
これを見て僕なんかは、うどんの方が主役だというだけじゃなくて、
「うどんは手打ちだけど、そばは製麺会社におまかせ」なのか、
と勘ぐってしまうんだけど、そんなこたあどうでもいいや、
と思わせるパワーがあるんだよ、ココには。

だってね、機械打ちかなんか知らないけど、うまいんだよ蕎麦も。
天ぷらも相当うまいし、茶碗蒸しもうまい。
そして、量も多い。
なによりも、安い!
ココは、前にも書いたけど(※1)、“「めし屋」系蕎麦屋” の典型であり、
その最高峰であると言いたい。
でなけりゃ、平日も休日もなく、ランチタイムも晩ご飯タイムも、
長い行列ができるわけがないもんねぇ。

06まるい小手指店_内壁

07まるい小手指店_柱時計

柱時計のかかる壁を見ると、おつまみメニューに違いないから、
夕方は家族連れや友人連れ、地域の宴会などでも賑わうんだろうね、きっと。


同行2名で行ってたのんだのは、ランチセットメニュー。
もちろん、うどんじゃなくて蕎麦だよー。

最初に出てきたのは「日替わりランチ」
もり蕎麦、かき揚げ(中2個)、茶碗蒸し、しらすと大根おろし、きゅうりと大根の糠漬け、ライス
の全部が、小さなテーブルみたいなでかいお盆に乗っかって出てきて、870円(税込)!

08まるい小手指店_日替わりランチ

桜海老の入った、中くらいのかき揚げが2個だし・・・

09まるい小手指店_日替わりランチかき揚げ

10まるい小手指店_日替わりランチ_小もり

手打ちにも勝るとも劣らない風味豊かな蕎麦が、
小もりに見えるけどたっぷり1人前。
これに、ライスや茶碗蒸しもついているからものすごく腹いっぱいになるんだよ。
これで、870円なんてとんでもない安さだよね。

次に出てきたのが、季節のランチメニューの「穴子天重セット」、780円(税込)!!

11まるい小手指店_穴子天重セット

これも、小もりのせいろに見えるんだけど、
実はせいろに深さがあるので、たっぷり1人前あるんだな。

12まるい小手指店_穴子天重セット_小もり

13まるい小手指店_蕎麦麺

麺の太さの均一度が高いので、たぶん “切り“ は機械に違いないと思うんだけど、
味も香りもちゃんとあって、コシも異常のない、おいしい麺だよ。

それよりも、この穴子天!
一本まるまるで、はみ出すぎー!

14まるい小手指店_穴子天

なすと椎茸の方もサクサクで、つゆのかけ具合も絶妙。
ご飯の炊き方も含めて、手抜きなんて微塵もなくて、うまいのひとことだよ。
その辺の気取った蕎麦屋の天ぷらよりうまいかもしれないや。

15まるい小手指店_穴子天2

うまくて、うまくて、安くて、超腹いっぱい!
なるほど、ココは長年休みなく、こうやって所沢人のパワーを応援してきたんだなあ。
ありがたい店です、いやホント。



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※1
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蕎麦屋ってなんだろう、ってたまに考えることがある。
めし屋なのか、呑み屋なのか、料亭なのか・・・。

それは蕎麦屋が、“○○庵” とか “○○屋” とか言っても、
高いのか安いのか、うまい酒やツマミがあるのかないのか、こだわり系かフツーなのか、
店名やお店の外観、営業時間などではわかりずらいからだと思う。

イタメシ屋なら、パスタ屋なのか、ピザ屋なのか、トラットリアなのか、リストランテなのかで
どんな使い方をしたらいいのか、なんとなくわかるよね。
和食なら、食堂なのか、居酒屋なのか、小料理なのか、割烹なのか、
懐石料理なのかなどでそれとなくわかる。

でも、蕎麦屋となると急に難しくなるよね。
天ぷらとか寿司とかうなぎとか、専門店だと難しいのかなあ。


① ウチは「めし屋」である

営業時間は、昼と夕方の3時間ずつくらい。
丼物とのセットメニューもいろいろある。盛りもいい。
時にはチキンライスもあったりする。値段もだいたい安い!
酒は日本酒1種とビール大瓶、つまみは枝豆くらい。
そう、働く者の強い味方、いつもの店だ。
バカにしているんじゃないよ、僕は実はこういう店が大好きなんでーす。
腹いっぱい、幸せいっぱい食べられるし、
「蕎麦は手打ちで、天重も天ぷら屋顔負けのうまさ」、
というような店も探せばけっこうあるからね。
こういう店が、1980年代までの日本の経済成長を引っ張って来たんだよ。
残念ながら、最近はこういう店を見つけるのが難しくなってきたね。
昔は、駅前といえば1軒や2軒必ずあったんだけど。


② ウチは「ちゃんとした蕎麦屋」である

営業時間は、昼3時間&夕方3時間くらい。
蕎麦屋らしいメニューがそれなりの値段で押さえてあって、
季節を感じさせる天ぷらなどもその折々にある。
ツマミも伝統的な品書きのほか、季節のものやオリジナルもあって蕎麦前をそそる。
「天ぬき」や「鴨ぬき」などの蕎麦屋裏メニューも通じる。
酒も燗酒、冷酒でこだわり銘柄がある。
惜しむらくは、中休みがあるので、昼下がりの蕎麦屋酒ができない。
・・・といった感じかな。


③ ウチは「蕎麦にこだわる、こだわり蕎麦屋」である

一日に、昼の2時間しかやってなかったりする。
昼&夜それぞれ2時間くらいやってても、
「蕎麦がなくなりしだい閉店」だったりする。
酒にもツマミにもあまりこだわっていない。
むしろ、酔っぱらいにはいてほしくないようすだ。
蕎麦単品の値段は、そこそこ高い。
店主に語らすと、長い、説教っぽい。


④ ウチは「蕎麦前を楽しめる蕎麦屋」である

②とあまり変わらないけど、
ツマミメニューと酒のラインナップがもっと多くて、
ぐぐっと呑みたくなる。
夜は、フツーの蕎麦屋は午後8時頃に終わるけど、
このテは9時か10時頃までやっていることが多い。


④’ ウチは「昼下がりの蕎麦前を楽しめる蕎麦屋」である

②または④の「中休みなし」バージョンのありがたい店。
これが意外と少ないよね。
中には、11:00~16:00だけとか、12:10~17:00だけといった
“昼下がりのまったり” を思い切りねらった店もあるよねー。
昼酒をする習慣というか気力というかがなかった僕には、
このテが最も “大人の世界” でわかりにくいんだなあ。
法事の時に、昼間っから酔っぱらっていた、親戚のおっさんを思い出してしまう。
でも、自分も正月なんかは昼から呑むかあ。
ともかく、昼酒の好きな向きには、とってもありがたい店だ。
このタイプが、江戸の蕎麦屋やうなぎ屋の真骨頂なんだろうな。


⑤ ウチは「蕎麦で〆られる呑み屋」である

これは、④と似ているけど、蕎麦屋の範疇から逸脱したツマミがたくさんある店。
逆に蕎麦のメニューがもりだけだったりして、“呑み” と “蕎麦” が逆転している感じ。
そもそも蕎麦屋だから、ツマミが手作りで手間がかかっていて、
器も凝ったりしてるから、まるで小料理屋や割烹料理屋みたいなレベルのとこも。
和風ダイニングバー、という言い方もできるかもね。
ランチタイムに加えて夜遅く11時頃までやっているか、
17:00~23:00だけといった、完全呑み屋型のとこもあるね。


⑥ ウチは「蕎麦懐石料理屋」である

文字通り、蕎麦周辺の素材や季節の食材を使った懐石料理屋。
高いよ。


⑦ ウチは「手打ち蕎麦を食べられる日本料理屋」である

コース料理が蕎麦でシメという料亭や割烹って多いよね。
でも、コレって蕎麦屋じゃないね、すんません。


・・・といったくらい、蕎麦屋にはいろんなスタイルがあるよね。
まあ、ネットで情報収集すればいいんだけど、
行き当たりばったりの看板やたたずまいではわかりずらくてさ。

こうやってみると、東京の老舗名店って、
①から④'までをピシッと押さえているとこがほとんどなことがわかる。
なるほど、さすが!
でも、ほぼ午後8時頃で終わりだから、
昼のほろ酔いはよしだけど、夜中の酩酊に加担する気がないのも特徴だね。
きっぱりと、「酔っぱらってぐだぐだ言ってんじゃねぇや、蕎麦食わねぇんならほか行っとくれ」
っちゅう潔いスタンスが伺えるね。

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『まるい』小手指店
埼玉県所沢市小手指元町3-26-21
04-2948-9759
10:00~21:00
無休


隠れ家じゃなくて、隠れ屋敷 ~ 『麻屋』



いったい蕎麦屋って、どうやって商売を成立させているんだろう。
行きたいな、と思った蕎麦屋が昼の2時間しかやってなかったり、
マイカーじゃないと行けないようなところにあったり、
なんてことに出くわすと、そんなふうに思うことがある。

どうしても気になるのが「営業時間」。
気にならない?

一番多いのが、「11:00~14:00、17:00~20:00」だよね。
これは、どう考えても昼ご飯と晩ご飯タイムだよねぇ。

「ウチはめし屋です」って言っているようなもんでしょ?
だから、どうしてもこの時間帯でいくしかないとしたら、
田舎とニ八のもりと天もりしかない、なんてのはダメでしょ。

僕だったら、メニューはできるだけバラエティ豊かで、量がそれなりに多くて、
おかずやツマミになる料理もたくさんあって、値段もリーズナブルに設定するなあ。
お客さんは、昼ご飯と晩ご飯を食べに来るんだから。

それで、儲けたけりゃ客席は多いほどいいし、
お客の回転を早くしたり、夜は高級化する工夫も必要かも、
ということになるね。

しかも、この時間帯の営業を通すなら、お酒で儲けようなんて考えない方がいいなあ。
だって、午後8時で終わりでしょ。
現代人は、なかなか6時や7時には仕事をあがれないないからね。
かといって、正月でもなけりゃ、
昼間っからガボガボ酔っぱらうまで呑める人もあんまりいないよね。

蕎麦屋酒を楽しませて儲けようと思ったら、23時や24時頃までやらなくちゃ。
なおかつ、土・日・祝日は中休みなしにすれば完璧でしょ。
休みの日なら、昼間っから呑みたい人はけっこういるだろうからね。
仕込みに必要な時間や人件費のことを無視して、
たいへん恐縮なのですが、理想を言わせてもらえば・・・。
でも実際、夜遅めまでがんばっている蕎麦屋もあるからねぇ。

ツマミになる料理は凝る必要がない、と言ったら語弊があるかもしれないけど、
日本料理屋や高級割烹みたいにビシッとやる必要は全然ないと思う。
蕎麦屋らしい材料で、ちょっと気の利いた、という程度のものがいいんだよね。
じゃないと、なに屋なのかわからなくなってしまう。
酒とツマミは “蕎麦前” であって、あくまで蕎麦が主役なんだから。
サラッと夜遅くまでやってくれる蕎麦屋がふえてくれるといいなあ、
っていつも思ってしまう。

江戸時代や明治時代の職人さんや商家の旦那なんかは、
遅い昼飯や午後に休憩を入れたりで、
平日でもアフタヌーンティーみたいな感じで、
昼下がりにちょいと酒と蕎麦をひっかける、
といった粋な蕎麦屋の使い方をしていたんだろうけど、
それ向きな営業時間の店もあるよね。
平日の「12:00~16:30」だけ、って感じの店。
このタイプは、昼酒型の江戸蕎麦の伝統にかなっているはずだけど、
はたしていまこの世に、平日の午後に酒を呑むことのできる人が
どのくらいいるんだろうか。

一番理解しがたいのが、平日の「11:30~14:00」だけしか店を開けず、
田舎と並そばのもりと鴨南蛮くらいしかないところ。
概してこだわり派が多くて、もちろん蕎麦はうまいんだけど、
値段もけっこうする店が多いかな。
観光地や大都会なら、「今日は軽いもので済ませたいな」って人や、
「人気の店があるんだよ、おかずがないし、ちょっと遠いけど行ってみる?」
って感じの、僕みたいな物好きが来るだけで商売が成立するかもしれないけど、
フツーは全然儲からないよね、きっと。
そういう蕎麦屋って、なんかの理由で儲ける必要がない店が多いのかなあ。

で、その次に気になるのは「立地」。
都会でも田舎でも営業時間については、
僕的には中休みなしで「11:00~23:00」か
上に書いた「11:00~14:00、17:00~23:00 ※土・日・祝日は中休みなし」
が理想なんだけど、駅や繁華街に近いか遠いかでまた違ってくると思う。

駅から遠い店は自動的に酒は呑みずらくなるよね。
マイカーやお金のかかるタクシーで行かなきゃいけなくなるからね。
だから、近所の人があまり飲みに来ないのなら夜は遅くまで開ける必要はなくなるし、
中休みをとっても全然いいかもしれない。
それでも繁盛したいなら酒商売ではなく、
楽しいメニューや珍しいメニューとか、超こだわり蕎麦とか、
デザートに凝るとか、安いとか、量が多いとか、
別のコンピタンスを創り出す必要が出てくるわけだ。

まあ、どんな店でも、蕎麦屋である限り蕎麦がうまいことが最も肝心だけどね。
そればっかは、うまけりゃうまいほど、こだわればこだわるほどいいに決まってる。
これまた、採算とか考えもしないで勝手なこと言ってすみませんが・・・。


ところで、この前行った『麻屋』は、その「別のコンピタンス(強み)」を持った店だったんだよ。

麻屋の蕎麦のメニューは、少なくはなく、かといっても多くもなく、でもあったかい蕎麦はゼロ。
うどんがあって、こちらは冷たいメニューのほかにあったかいメニューもたくさんあるけど、
西埼玉名物の地粉でコシを出した武蔵野うどんでもないし、
なんとなくピントがぼやけてる印象なんだ。

“おつまみ” も「もつ煮込み」、「おでん」、「板わさ」、「みそ田楽」だけで、
なんとなく、これぞ蕎麦屋、って感じがしないでしょ。

営業時間帯が “昼飯&晩飯型” なのに、ご飯ものは1品だけだし、
ランチメニューも1種類のみ。

お酒も「ビール」、「酒」、「冷酒」と書いてあるだけで、迫力がない。

悪いということは何もないんだけど、営業時間やメニューを見る限りでは、
集客パワーというものがありそうに見えないんだな。
値段のお得感は、かなりあるけどね。

ところが、メニューからふと顔を上げてみてわかった!
そういえば、なんかココ、広いなあ。
せせこましいところがなくて、妙に居心地がいいのだ。

06麻屋_店内

よく見たら、客席空間は40畳くらいはあるかなあ。
そこに、小さなテーブルが3つと、7~8人は着けそうな囲炉裏作りの相席テーブルが一つ、
こあがりに座卓が3つかな。
それだけレイアウトされていても、何にもないスペースがたくさんあって、
ゆったり広々としてるんだ。
ムダというかもったいないというか、いや贅沢な空間の使い方。

入った時からまず目を惹くのは、中庭だ。
フツーの家ではまず考えられないL字型に3枚はめ込まれたどでかい一枚板ガラスから、
いやがおうにも見えるんだよ。
南からの自然光にあふれた、よく手入れされた庭木たちが目を癒してくれる。
鳥のえさ台が設けられていて、鳥たちが競い合ってえさをついばんでいるのが見える。

02麻屋_中庭

トイレも和づくりで広々。
厨房もそうとう広い。
奥には、あがりではなくて10畳くらいの座敷まである。

入口を見た時は、よくある “一軒家改造型” と思ったんだけど、
これは、“お屋敷” だ!
この辺は、団地やファミリー型マンション、建て売り住宅なんかが立ち並ぶ住宅地なんだけど、
こんなところにこんな贅沢な屋敷があったんだ!って驚いたなー。
おまけに、帰る時に気づいたんだけど、7~8台停められるくらいの駐車スペースもあった。
敷地面積200坪、いや300坪くらいあるのかな。

01麻屋_入口

うん、そうだ、これはサロンだ!
和サロン
ゆっくり眺めていると、なんとゆったりで贅沢な店だということに
しばらく経ってからじわじわと気づいてしまった。
こりゃ、誰にも邪魔されずに、鳥でも眺めながらのんびり蕎麦前酒をやるのに最高だわ。
隠れ家じゃなくて、隠れ屋敷。
今度、ゆっくり来よう、って考えたらなんだかウキウキしてきた。

聞けば、平成25年現在で、開業22周年とのこと。
なんとなくピンボケなのに、長年愛されてきている理由がわかったね。

03麻屋_天汁そば
天汁そば 850円

05麻屋_天汁

ちなみに、蕎麦は常陸秋
自家製粉ではないみたいだけど、実はこれがすごくうまいんだな。
微粉で打って、しっかりもっちり茹でた、昔ながらの実直な蕎麦だけど、
ものすごく、と言いたいくらいうまい!
香りも味もバツグンだ。
なるほど、あったかい蕎麦がゼロというのは、
もりのこの味に絶対的な自信があるからなんだなー。
うん、僕の中ではヘタをするといままで食べた “微粉系” では、一番うまいかもしれない。
恐るべし常陸秋、恐るべし『麻屋』。

04麻屋_天汁そばアップ



●『麻屋』
埼玉県所沢市けやき台1-44-5
04-2926-5033
11:30~14:30(オーダーストップ)
*夜予約準備のため14:00で閉める場合あり
18:00~19:30(オーダーストップ)
*宴会の場合は営業時間延長
定休日/日曜日


近所に引っ越したくなる店 ~ 『松むら』



いやー、実にいい蕎麦屋だなあ
紋切りな言い方だけど、“隠れた名店”というのはこういうのを言うんだろうなー。

『松むら』は、JR武蔵野線の東所沢駅の北側に出て、
徒歩で10分くらいのところにある。
東所沢は、駅前の通りやそれと交差する通りに面してちょびっと
商店やファミレスがあるくらいで、ほぼ完全な住宅地。
昼も夜も静かなところ。

まず、この静かなところがいいね。
場所柄、平日の昼下がりにサボリ酒、というわけにはいかないロケーションだけど、
休みの日の昼下がりや夕べの蕎麦屋酒には、この静けさはもってこい。
のんびり、時間を忘れさせてくれるにちがいないなー。

01松むら_入口

よくある “一軒家改造型”
入口の感じもいい。
入る前にメニューが見られるのも親切だね。

店内のレイアウトは・・・
2人掛けのテーブルが2つと4人掛けのテーブルが2つ、
それと、詰めて座れば8人着ける座椅子付きこあがりが1つだから、
15~16人も来ればいっぱいになる小ぶりな店だ。

でも、内装はよく練られた造りだね。
柱やあがり、壁の一部は生木で清潔な感じだし、
壁の色は日本の伝統色の “紅” というやつだな、ベージュがかったうすいピンク。
食欲を増進させる色なのかな。

テーブルやいす、座椅子などはこげ茶色の和モダンで統一されているし。
日本酒の一升瓶がきれいに置ける、壁にはめ込まれた棚もこげ茶仲間だ。
もちろん、最新型の電動石臼も稼働中。
うん、緻密な計算で造られた店内、完璧。

たのんだのは、ランチメニューの「かき揚げセット(自家製豆腐付)」850円
「淡雪そば(とろろ)」850円、安い!
あったかいメニューには、いかにも江戸的な「深川そば(浅利)」というのもあって、
それも食べたいんだけど、そんなには食えないので次にとっておこう。

02松むら_手作り豆腐

最初に出てきたのは、かき揚げセットの「自家製豆腐」。
メニューを見るとランチタイム以外では、450円の一品料理だから得した気分。
かえしではなく、生醤油でいただく。
きざみ葱のほんわり具合と白と青の混ざり具合が芸術的でしょ?

車で来たので酒が呑めないのが残念だけど、
メニューはいちおう見てみるのだ。

03松むら_金鶴

ココのご主人はどちらかというと冷酒が好きなのかな。
概してすっきり系のラインナップだね。
でも、「金鶴」というのは珍しい!
僕は、佐渡島出身の知人に地元から持って帰ってきてもらったのを呑んだことがあるんだけど、
そういう方法以外では本州では手に入りにくい酒だ。
アル添ありの本醸造だけど、冷やで呑むと新潟系端麗辛口とは違ってかすかな甘味が感じられて、
どんな料理にでも合いそうな味が魅力なのだ。

当然、焼き味噌や板わさ、お新香、出し巻き玉子、にしん、鴨などの蕎麦屋らしい肴もあるし、
天ダネもひととおりあるから、蕎麦屋酒もそそられるねー!
夜にじっくり呑みたければ、リーズナブルなコースメニューも。
家から遠いし、会社帰りの通り道でもないのがホントに残念だ。

04松むら_かき揚げ

次に出てきたのは、やはり、かき揚げセットの「かき揚げ」。
これは、めっちゃおもしろいぞ!
めっちゃめちゃサクサクなのだ。
箸ではしっこをちぎろうとすると、その部分が文字通り “崩壊” する!
けっこう崩壊系のかき揚げは多いけど、ココの崩壊ぐあいはフツーじゃないな、こりゃ。
天つゆも用意されているんだけど、どうやってそれにつけるんだろう。
桜海老と粉が想像以上に崩れて食べにくいけど、歯ごたえはサックサクのサックサクだ。
生まれて初めての食感!
なんにもつけなくても、これは香ばしくてすごくうまいぞ。
しっかし、どうやって作っているんだろうね、これ。

05松むら_かき揚げアップ

これが、ランチメニュー限定だから憎たらしい。
ん?手作り豆腐とこのかき揚げとざる蕎麦で、850円だよな。
ものすごく安くないかい?
都内だったら、このかき揚げだけでも850円するんじゃないかなあ。

いよいよ、蕎麦の登場。
「本日の蕎麦・北海道産キタワセ種」と店内に貼ってある。
“ざるの裏返しもり” で出てきたよ。

06松むら_ざるそば

あれっ?違う。
実は、ココに来たのは2度目で、この前もキタワセだったのに見た感じが全然違うのだ。
この前はいわゆる微粉というやつで、丸抜きのニ八あたりの色でつるんとしたやつだったはず。
今回も同じキタワセのざるなのに、こりゃ粗挽き

07松むら_ざるそばアップ

よく見ると、これはただの粗挽き粉じゃなくて、
微粉に、殻まで挽きぐるみにした粗挽き粉をブレンドしたものじゃないかと思う。
つぶつぶしてるだけでなく、つるつるにつぶつぶが混じってる感じだからだ。

08松むら_ざるそばアップ

品種の表示と粗挽き
この店も、日々最新トレンドを研究してるんだな、って感心させられる。
ちなみに、ココはキタワセのほか、茨城県産「常陸秋」福井県産「丸岡在来種」
かわるがわる提供しているようだね。

食べてみると、香りは少ないけど、
固からずやわからずのしなやかなコシと蕎麦の旨味がガツンとくる。
粗挽き粉一色じゃないはずなので、つるつる感もバッチリある。
何よりも、麺が長い!
これはお見事だねー。
クォリティが高い、高い、値段が安い、安い。

09松むら_淡雪そば(とろろ)

次は「淡雪そば」!
ありゃー、きれいだねー。
冬の故郷を思い出しちゃうなー。
降ったばかりの雪の上におしっこをひっかけて、
その上にうっかり焚き木を置いてしまった、って感じ。

うそうそ(食べ物なのに下品だなあ)。
これは、もはやアートだね。
アバンギャルドなシルクスクリーンアートかオブジェ。
ここまでやるか!って感じ。

まっ白なのは、メレンゲではなく大和芋だけど、これはフツーの作り方じゃないな。
おろし金でおろして、すり鉢とすりこぎですっただけじゃないだろ。
泡だて器かフードプロセッサーで、少しホイップしてるみたいだな。
それで、大和芋以外、玉子や出汁は入れていないと思う。
入っていたとしても、うすーい出汁だろうな。
だから、まっ白なんだ。

10松むら_淡雪そば(とろろ)アップ

黄色いにょろにょろペインティングは、お察しの通り卵黄。
赤いのはそう、クコの実だね。
なんだかやばい感じの毛のようなモノは、とろろ昆布に決まってる。
薄削りのやつを、指で少しこよりにしてるかもしれないな。

表面は、昨晩薄く雪が積もった勇払原野のようにしんとしてる。
でも、雪の下には、春を待ち焦がれた夏秋の実りが、
熱いエネルギーを持て余して地表に出て来たがっているのだ。

なら、掘り出して食ってやろうじゃないか、
と誰にも侵されていない雪原に箸を突っ込んで蕎麦をつまみ上げて、
ずるっと一気にすすり込んでみる。

おーっ、混じり気のない大和芋の新鮮な風味と、上質な醤油と出汁の旨味と、
温められて立ち上がるキタワセの香りが、次々と口の中にきらめく。
そして、それらが融合した新しい香味が後からやってくる。
視覚だけでなく、味覚もアートなんだなあ。

僕は、この店に完全にやられてしまった。
まわりの静けさも含めて、隅から隅までさりげなく上質。
それが、うれしさと安心感になって寛がせてくれる。
のんびりしながらも、「仕事ってのは、こうでなけりゃだめなんだ」、
ということを思い出させてくれる。

いい蕎麦屋って、ココみたいに創造力をこちょこちょしてくれるとこなんだろうな、きっと。


●『松むら』
04-2944-5787
埼玉県所沢市東所沢2-8-16
11:30~14:30 (L.O.14:00)
17:30~21:30(L.O.21:00)
定休日/月曜日


気軽に通える、超一級店 ~ 手打ちそば処『椿屋』



その日は、12月29日。
明日は会社が休みなので、昼間から蕎麦屋酒をやっちまおう、と決め込んで、
どっかの駅から歩いて行けるところ、というコンセプトで店を選んで、
西武新宿線・新所沢駅に行ってみたぜー。

ホントは昼酒と昼風呂は苦手なんだけどなあ。
昼酒は妙に酔っ払って、心臓がドキドキするし、
昼風呂は風邪を引いてしまうのだ。

駅から5分位歩くと『椿屋』はあった。
けっこう交通量の多い県道の道端にある、
3階建てくらいのマンション風の建物の一階だ。

パッと見の外観は、ただのマンションにしか見えないので、
これは、みーんな見逃してしまうだろうなあ、って感じ。
しかも、通りすがりの人でも気軽に「おっ、めしでも食ってくかあ」とは思いにくい感じの構えだ。
メニューもショウウィンドウも何もないんだもんな。

椿屋玄関

でも、入口の前に立ってよくみると、蕎麦好きならドキッとくる情報がちゃんとあった。
ひとつは、「手打ちそば処」であること。
もひとつは、ママチャリのノイズに紛れて「本日の蕎麦 宮崎児湯郡川南町産」
「品種名 鹿屋在来種」とあることだ。

椿屋蕎麦品種

普通にお腹が減っただけの人だったら、「なんじゃ、こりゃ」で終わりだろうな。
値段も写真も何もないうえに、漢字が戒名のように並んでいるんだから、
逆に不気味な感じがするかもしれない。

でも、蕎麦の味は、その産地や品種でずいぶん違うということを知っている人は、
これだけの情報で、おっと!と足を止めるに違いないね。

蕎麦粉の産地と言えば、北海道産とか長野産とか茨城産なんかがフツーで、
宮崎も蕎麦の安定産地だけど珍しいよね。
よくわからない地名だけど“在来種”なんて書いてあると、
そりゃ、そそられるっちゅうもんだ。

なんか得した気分で暖簾をくぐると、
外観の殺風景さとは違って、中は小ぶりで庶民的な感じだけどちゃんとした蕎麦屋だ。
テーブルが3つとこあがりテーブルが3つ、それに2~3人座れる程度のカウンターだけの規模。
15人も入ればいっぱいかな。

2人掛けのテーブルが1つ空いているいるだけで、そこに座ったっけ。
ちゃんと混んでいるんだな、これが。

メニューにはないんだけど、壁に貼ってある半紙にはなんと、「神亀」が!
そして、「男山」も!
おー、なかなかやるじゃん、と感動しながら、すかさず「神亀」の燗を注文。
それから、アテに「山かけ豆腐」も。

椿屋山かけ豆腐

燗酒の徳利&お猪口と一緒に、あたりまえのように蕎麦味噌が出てきて、
なるほど、ちゃんと蕎麦屋なんだ、とさらに納得。

蕎麦味噌の旨味 → 神亀 → 山かけ豆腐のあっさり → 蕎麦味噌・・・
というローテーションで日本の旨味のハーモニーを愉しんでいたら、
神亀がすぐになくなっちゃった。

ので、旭川の男山「鴨のネギ味噌」を追加。
「鴨のネギ味噌」ってなんだべか、と待っていたら、
杓文字に塗りたくった蕎麦味噌とあまり変わらないものが出て来て、
あれっと思ったけど、味は大違い。
蕎麦味噌に、刻んだ鴨肉が混ぜてあるからグンと旨味が強いのだ。

椿屋鴨のネギ味噌

「味噌の旨味 × 肉の旨味」が日本酒に合わないわけがないよな。
おまけに、醤油や味醂の旨味も蕎麦屋にはいっぱいあるから、
蕎麦屋酒はうまいに決まってる、というわけだ。

そろそろ蕎麦にいくか、と思って壁のメニューを見ると、
宮崎児湯郡川南町産であるうえに、「石臼挽き」と「更科」と「田舎」が選べるときた。
すべてのメニューで、麺をこの3種から選べるというからものすごい。
この店の凄味がガツーンと伝わってきたぞ!

なら、できるだけ種類を食べたいので、「合重ね(お好みのそば二枚重ね)」1,100円にして、
「石臼挽き」と「田舎」を試してみることにした。

先に出てきたのは、「石臼挽き」
おっと、これは “粗挽き” だ。美しい!
丸抜きを挽き込んだ、って説明には書いてあるけど、
蕎麦殻の黒い星が芸術的に散りばめられている。

他でも何度もこういう麺に出くわしているけど、
ココのはバツグンにきれいだねー。
これは、いいなあ!
ギュッ、ポンの外人系ねーちゃんじゃなくて、
楚々として可憐な和美人、って感じ。

しっかし、伝統的な微粒粉+細麺もいいけど、
粗挽きってのも、魅力あるよなあ。
どういう製粉と配合でこういう麺ができて、
どうやって“つないで”いるんだろう。

椿屋石臼挽き
合重ね・石臼挽き

椿屋石臼挽きアップ

少し黄緑がかった細身の粗挽き麺は、
すすって噛むと独特の甘味と香りが口の中に広がった。

“二枚重ね“と書いてあるのに、後から「田舎」が出て来た
これは、お昼の混雑対応とのびるのを防ぐのと、うまい時間差攻撃だな。

んー、この田舎も粗挽きだ。
“田舎”は、うどんみたいに太いのが多いけど、ココのはフツーの太さ。
その分、田舎+粗挽きでもズルッとやりやすいかな。
コシのしなやかさと味の濃さが半端じゃない!

そういえば、蕎麦汁の出しの風味の強さも、他とは一線を画しているな。
うん、だからって、けっして魚介くさいというわけでもなく、
こういううまさもあるんだ、と気づかされる。

椿屋田舎
合重ね・田舎

椿屋田舎アップ

ちょっと、待てよ!
これまで「椿屋」なんて名前、聞いたことなかったよなあ。
これはひょっとして、すごい店、見つけちゃったぜ。

何がすごいかって、この店は小さなお店のナリも値段も
まったく粋を気負うことがなくてごく庶民的なのに、
蕎麦は最先端を行っていることだ。

最近の蕎麦打ちのトレンドは、「手打ち」、「十割」、「田舎」ときて
手動にしろ電動にしろ「石臼挽き」がポピュラー化しているけど、
その次に、手打ちの「粗挽き」が盛り上がっていると思う。
もちろん、全部昔からあるものだけど、ブーム化という意味で。

その先を、「熟成蕎麦」とか「杵つき」や「寒ざらし」が “はしって” いるけど、
「石臼+粗挽き」が旬だろうと思う。

そして、玄蕎麦の「産地」と「品種」の表示
これも、最近ぐぐっと流行り始めているんじゃないかと。
もう、ワインのブランドと同じ感じになってきたね。

「やっぱ常陸秋だなあ」とか「今年は、徳島県祖谷在来種がいいらしいぞ」とか
「この前、イタリア産のサラセン種で作ったそばを食べたよ」なんて
電車の中のおじさんが会話してるのを聞く日も、間違いなく近いな。
いやいや、おちょくっているんじゃなくて、わくわくうれしい気持ち。

「粗挽き」と「産地・品種表示」・・・
そう「椿屋」は、この蕎麦界最新トレンドをスコーンとやっちゃってるのだ。

最近よく見るスノッブなたたずまいでジャズが流れてて、
メニューに粗挽きのもりと田舎しかなくて、
一枚1,000円もするようなもったいぶった蕎麦屋なら感動も薄いけど、
ココは、見た目も値段もフツーの蕎麦屋だからジーンとくるんだよ。
このフツーと最先端のギャップが、なんともわくわくなのだ。

「椿屋」のすごさは、それだけじゃない。
まずは、メニューの豊富さ。
いわゆるもり・せいろ系が11種、冷たいぶっかけ系が6種、
温かいかけ・種物系が12種、どんぶり系のご飯ものが6種、
ヌキを含めないおつまみ系が14種、
どんぶりとセットのランチメニューが6種、
定番の酒類が10種!デザートも1つある!

それに、蕎麦の麺の「石臼挽き」「更科」「田舎」の3種をかけ算すると、
壮大なグランドメニューになるじゃんか!
さらに、神亀などのその時々のおすすめの酒や季節の変わり蕎麦、
季節のタネで揚げた天ぷらの盛り合わせ、
メニューにないおつまみなんかもあるから、すご過ぎ。

そして、安さ
もり650円、鴨せいろ1,050円、かき揚げ天そば950円、かつ丼と手打ちそばのランチセット950円、
鴨の治部煮850円、だし巻玉子550円、かき揚げ天420円、山かけ豆腐350円・・・・。
これも、かなりだね。

これなら、およそこの世に存在する蕎麦屋遊びのほとんどのことが、
このたった3人で切り盛りしているちっちゃい店で体験できるぞ。

そうそう、それって子供も大食いも酒好きも蕎麦通も、
みんなが満足できる店ということだ。
“気軽に通える、超一級店”とでも言えばいいのかなあ。

入口が小さくて、中も小さいのに、すげー深い懐の蕎麦屋。
メニューも多くて安くて、庶民的なのに、すごい蕎麦を出す店なんだなあ。

超オーセンティックなのに、庶民的で親しみやすい蕎麦屋、
・・・というのもあるよねぇ。
それは、僕の場合「神田まつや」のこと。
まあ、まつやの店内はそんなに小さくないけど、


神田まつや
神田まつやの店先

まつやと比べて「椿屋」に足りないのは、当然、歴史だよね。
まつやは、いい感じにひなびた店内外の造りと、
気取らないおばちゃんの接客が気持ちいいよねぇ。

でも、まつやは「切り」が機械だと聞くけど、
手打ちで最先端の蕎麦を出している分、
新しめのナリの椿屋もまんざらでもないかとも思う。

“どんなにすごい蕎麦を打っていても、どんなに長い歴史を背負ってても、
大名屋敷への出前以外は、蕎麦屋は庶民の気軽なカフェなのだ”、
というスタンスが貫かれている店、
それがホントにいい蕎麦屋に違いないと思うなあ。

満席の「椿屋」の店内、カウンターに着いてる初老ご夫婦の旦那さんが、
女将の手すきのタイミングで、「にしん蕎麦を田舎で」って注文してた。
メニューにはないけど、ちゃんとあるんだな、これが。

客と馴れ合い言葉を交わすわけでもなく、あわてるわけでもなく、
女将が厨房にさらっとオーダーを通してた。

「椿屋」では、一日に何杯のにしん蕎麦が注文されるんだろうか。


●手打ちそば処『椿屋』
埼玉県所沢市北所沢町2017-6
04-2942-6000
「水~月」11:00~20:30
ランチ営業、日曜営業
定休日/火曜日


すすり心地、No.1とみた! ~ 職人のこだわりに会える『久呂無木』



前から、車で何度も通っている道に面してある、
「久呂無木」という木の看板が気になっていたんだよ。

その道は、人呼んで“ライオンズロード”。
埼玉の所沢のほうから西武球場や多摩湖へ続く道なんだけど、野球の試合がない日でも、
道が細い上に、西部池袋線の「西所沢」駅横の踏切が“開かず”なので、渋滞がものすごいのだ。
渋滞にはまっているうちに、ボヘーっと道端の看板を眺めていたら、記憶に残ってしまったのだ。

それに、「久呂無木(クロムギ)」という言葉は本で読んで知っていて、
蕎麦屋だな、いつか行くぜ、とむずむずしていたんだよ。

「そば」という名前が最初に使われたのは、
延喜18年(918年)に表わされた『本草和名』という書物に万葉仮名で
「曾波牟岐」と書かれているやつらしくて、「ソバムギ」と読んだそうだ。
ヤンキーの「夜露死苦」と似たノリだあ。(いや、だいぶ違うな)

そして、承平年間(931~938年)に書かれた『和名類聚鈔』には、
「曾波牟岐(ソバムギ)」の他に、「久呂無木(クロムギ)」という言い方も
出てくるとのこと(『蕎麦屋の系図』岩崎信也 光文社知恵の森文庫)。

そうそう、この本で覚えたんだった、クロムギ。
この由緒正しい言い方から付けたんだな、店名。

そりゃ、蕎麦殻の色が黒いからクロムギなんだろーね。
ということは、黒くないムギもあるということになるわけで、それが小麦(大麦?)らしいんだな。
なら、奈良時代や平安時代には、ムギ(小麦)の方が先に名付けられていて、
蕎麦より生産量も多かったのかも、と想像させられるなー。

実際、江戸時代に大阪で火のついた蕎麦人気が江戸にも広がるまでは、
当時の日本の主要都市の外食人気をリードしていたのは小麦のうどんだったとのこと。

この前、よっしゃ、今日こそは!とランチタイムに行ってみた。

01久呂無木_入口

ビルの1階だけど、看板、暖簾、戸なんかの“和アイテム”がすごく凝っている。
ビルのポストモダンをしのぐ迫力があるなぁ。

暖簾をくぐり、戸を開けると、おっ!
北海道の家によくあるような、“中に、もひとつ戸がある二重戸玄関” になっているじゃん。
そんな造りが、グッとお店のクォリティを高めていると思うな。

そこで左を向くと、蕎麦打ち場があった。
粉も道具も、きれいに片づけられている。

2つ目の戸を引いてホントに中に入ると、右手にカウンター、
左手に掘りごたつ式の上がりが3つくらいある。

正面奥は、戸と衝立で閉ざされた座敷らしきものがある。

客的には、ちょうどいい空間かも。
でも、2人(ご主人と女将)で切り盛りするには、混んだら限界に近いかもとも思う。

よく見ると、カウンターの一枚板はもちろん、石造りっぽいひざ元や戸のまわりの造り、
衝立や障子の造り、緑の配置なんかがとても凝っていて、
その辺の居酒屋などとはレベルが違うことがわかる。
ちゃんと、“蕎麦屋”として作ったんだなー、これは。
店内は目障りなものはなにもないし、寂しくもなく整頓されている。
「神は、細部に宿る」。
これだけで、ご主人の仕事の質の高さに期待しちゃうぞ。

同行2名でたのんだのはランチメニューで、
蕎麦に大根のサラダと天ぷらと小魚のマリネ、おまけにゴマプリンまで付いて1,050円の
「彩(いろどり)」と、蕎麦にミニ天丼の付いた「天丼蕎麦膳」1,000円。
場所柄、お得なランチセットもあるんだ、感心。

02久呂無木_彩セット
「彩(いろどり)」(ランチメニュー)

03久呂無木_天丼蕎麦膳
「天丼蕎麦膳」(ランチメニュー)

10分ほど待って出てきた蕎麦をながめると、おーっ、細い!
しかも、凛とした角が立っている。
茹でているのを見ていたが、だいたい20秒くらいと早い。
十割なのか二八なのかはわからないけど、
麺の表面に透明感があり、しなやかな印象だ。

04久呂無木_そばアップ

手繰って、メニューに書かれたご指示通り半分くらい蕎麦汁につけてすすってみると、
なんと、“ズルッ!“ のスピード感がバツグンだあ。
細い上に、キリッとした腰があるから、すすった時のつるつる感とのど越しが尋常じゃないんだ!
これは、僕がいままでに食べた蕎麦で、間違いなく“つるつる部門”No.1。

でも、それだけじゃない。
適度な歯ごたえのある麺を噛むと、蕎麦粉の香りが口の中に上品に漂うからすごい。
うーむ、よくできた蕎麦だ。
ちなみに、蕎麦粉は群馬県の川場村と嬬恋村で蕎麦を研究栽培してしている人から
直接買い付けているという。

辛汁は、いわゆる江戸前というヤツかな。
甘味が少なく、キレのある味。
かえしをどんなふうに作っているのかは見当もつかないけど、
出し汁の鰹の風味が絶妙じゃないか。
魚介臭くなく、ちゃんと主張しているのに後にも残らない。
明らかに他の蕎麦屋のつゆとは一線を画しているね。

天丼の種の大きさもカラッと具合も、江戸系の濃口のつゆの味もその量も、
そしてその盛り付け!も、天ぷら屋も料亭もびっくりのクォリティだぞ!
おまけに黒ゴマプリンも、完璧。

05久呂無木_ミニ天丼

06久呂無木_そば湯
ポタージュスープのような蕎麦湯

他の方のブログも覗かせていただくと、
鴨や牡蠣の種物や各種一品料理もかなりうまそうだ。
今度は、夜に来るっきゃないなー。

まったく上げ足のとりどころのない蕎麦屋。完璧。
そうそう、埼玉県の蕎麦屋の中でもトップクラスの評価をもらっている店なんだと。
知らなかった、どうりで看板からオーラが出ていたよ。

女将さんは、まだ若くてかわいらしい方。
ご主人はどんな人かな、と思い見てみるとやっぱり若い。
これだけの仕事をするのだから、
どんな苦み走ったおっさんかと想像していたんだけど、
ココの蕎麦同様、細身で芯のありそうな、つるっとしたいい男だ。
東京都内の店で修行して、独立してココに店を持ったとのこと。

手打ち蕎麦屋って、おおまかに①「名店」②「名店で修行して暖簾分け」
③「名店で修行して独立」④「蕎麦マニアが脱サラ」と、
その出自を分類できると思うんだけど、
いまは④の“脱サラ手作りこだわりおたく系”の新興がすばらしく、
昨今の“うまい手打ち蕎麦屋ブーム”と蕎麦屋の“高級ブランド化”をけん引しているという。

①と②は過去に機械化量産に走ったりしていたのを「脱サラ組のこだわりを見習おう」と反省して、
手打ちや自家製粉に戻したり、蕎麦前メニューの充実化などに力を入れて
クォリティを戻しつつあるらしい。

でも、この店のご主人のような、③の「名店で修行して独立」が一番なんじゃないかな。
だって、名店で身につけた高度な技術や洗練されたもてなしと、独立に対する強いモチベーションと、
名店のしきたりに囚われずうまい蕎麦づくりにこだわれる環境とが揃って、
「久呂無木」のようなほぼ完璧な店が生まれるんだからさ。


●『久呂無木』
埼玉県所沢市西所沢1-4-14
04-2922-9619
11:30~14:30
18:00~21:30(LO)
定休日/水曜