2014/04/29

本物のロックのあるところ ~ 『シュガーマン 奇跡に愛された男』



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ロックミュージシャンのドキュメンタリー映画。



主人公の名前は、ロドリゲス。

ネイティブアメリカン系のアメリカ人。

1960年代後半の不況の真っただ中のデトロイトの片隅を漂っていた。

そう、漂っていた。

45年前の彼を知っている人間は、彼を浮浪者だと思っていたんだから。



彼はビルの解体工事の仕事をしながら、地元のライブハウスで歌っていた。

景気後退で希望がシュリンクしつつある街の片隅で、打楽器のようなギターの音に載せるものは “嘆きの詩” だ。



貧困や、貧困から生まれる犯罪や、不当な管理社会などへの嘆きと罵倒。

ロドリゲスの歌は、狭くて不幸な街の人々の胸を打ち続けた。



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大物プロデューサーに拾われ、彼はメジャーレーベルからレコードデビューした。

2枚リリースしたアルバムは、まったく売れなかった。



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ボブ・ディランに似ていると言われるが、それはかなり違う。

もっと、エッジが立っているのだ。

静かだけど、触れると手を切りそうな心の叫びは、鋭利すぎてアメリカに受け入れられなかった。



ロドリゲスの歌と名前は、アメリカに広まることはなかった。

知っている少数の人たちの脳裏には “自殺” と記され、生きていた時の記憶も消えつつあった。





ある音楽ジャーナリストが、不思議な現象に目をとめた。

ロドリゲスのレコードとCDが、南アフリカで売れているという!



アメリカで6枚しか売れなかったレコードが、どうやってアフリカ大陸に渡ったのだ?

アパルトヘイト時代に、発禁になりながらも爆発的に売れたという。

この40年で100万枚以上も売れているのだ。

アメリカでの数字とはわけが違う。

人口や経済力で計ると、とんでもない数字だ。



ロドリゲスの歌は、アパルトヘイト反対を掲げる音楽ムーブメントのバイブルになっていた。

本人が行ったこともない国で。



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“シュガーマン” を愛してやまない、ヨハネスブルグのレコード店店長



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ロドリゲスの版元、サセックス・レコーズ元社長。著作者に無断で南アのレーベルに版権を売ったのか?



彼のレコードを出版してる南アのレーベルは、どこから版権を買ったのか?

それとも海賊版なのか?

作者が取るべき印税はどこに支払われているのか?





調べ着いたところには、驚愕の事実と大きな感動が・・・。



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アメリカのロックはまやかしもんだ。

本物のロックは南アフリカにある。

1994年、アパルトヘイト撤廃。

2013年12月5日、ネルソン・マンデラ死去。

ロドリゲスの歌が売れているうちは、南ア国民の幸福はまだまだ遠いところにある、と僕は思う。






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●『シュガーマン 奇跡に愛された男』(Searching for Sugar Man)
2012年 スウェーデン、イギリス
上映時間: 86分
監督:マリク・ベンジェルール
製作:サイモン・チン
製作総指揮:ジョン・バトセック
音楽:ロドリゲス
撮影:Camilla Skagerstrom
編集:マリク・ベンジェルール
配給: ソニー・ピクチャーズ・クラシックス(米)、角川映画(日)
受賞:アカデミー賞 長編ドキュメンタリー映画賞
   英国アカデミー賞 ドキュメンタリー映画賞
   英国インディペンデント映画賞 外国作品賞ノミネート
   放送映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞
   シカゴ映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞ノミネート
   ロンドン映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞ノミネート
   ワシントンD.C.映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞ノミネート
   ロサンゼルス映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞次点
   トロント映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞次点
   ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 ドキュメンタリー映画賞
   全米製作者組合賞 ドキュメンタリー映画賞
   ダーバン国際映画祭 観客賞(ドキュメンタリー部門)
   サンダンス映画祭 ワールドシネマ ドキュメンタリー部門 観客賞
   ワールドシネマ ドキュメンタリー部門 審査員特別賞
   ワールドシネマ ドキュメンタリー部門 審査員大賞ノミネート
   ロサンゼルス映画祭 観客賞(ドキュメンタリー部門)
   モスクワ国際映画祭 ドキュメンタリー映画賞


2014/02/27

中国人が撮ったドキュメンタリーを観る度量を ~ 『靖国 YASUKUNI』



安倍総理が、去年(2013年)の12月に靖国神社を参拝して問題になったよね。
いったい、何が問題なんだろう、って思わない?
特に、中国や韓国の人たちにとって、何がそんなに問題なんだろうって。
いい機会だから、ここに簡単にまとめておこうと思う。

だいたい、靖国神社参拝について問題にされるのは、下の5つの点だね。

① 信教の自由
憲法第20条第1項で、日本人は誰でも自由に信教できることが保障されているんだね。
一般国民でも、政治家や官僚のような公人でもだよ。
逆に、信教を誰からも強制されないことも保障している。
つまり、総理大臣だって靖国神社を参拝したっていいんだね。

② 政教分離
同じく憲法第20条には、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」
と書かれているんだね。
これは①と相反していて、総理大臣の参拝が「国なのか、個人なのか」という議論を呼ぶ元なんだよね。
だから、公用車を使わず、大臣を従えず「個人的に参拝した」という総理も出てくるんだね。

でもね、「中国や韓国の人たちにとって」という観点で言えば、
そんなことはどうでもいいことだよね。
信教が自由でも不自由でも、政教分離でも一致でも、
どっちでも同じように中国や韓国の人たちは反発するはずなんだから。

③ 歴史認識・植民地支配
これは、「靖国神社は戦争を肯定しているか否か」の判断に関わる、
一番の問題じゃないかと僕は思う。
中国や韓国の人たちの感情を逆なでして、外交の摩擦なども生む問題だということ。
でもね、僕は感情の問題じゃないと思うけどね。

④ 戦死者・戦没者慰霊
日本には戦死軍人に対する公的な慰霊施設がないらしいんだね。
千鳥ヶ淵があるけど、あれは第2次大戦限定だし、身寄りのない遺骨用なんだね。
だからって、墓でない靖国神社をそれにしていいのか、そもそもフツーの慰霊施設なのか、
ほかに作るべきなのか
、なんてモメてる。

でもね、これも僕は “問題” とはあまり関係ないと思ってる。
だってね、別に慰霊施設を作ったからって、嫌がる中国人や韓国人はいるだろうし、
それでも靖国を参拝する総理大臣は出てくるはずだから。

⑤ A級戦犯の合祀
A級戦犯の定義について議論があるみたいだけど、問題はそこにないと思う。
じゃ、C級戦犯はどうなんだ?一般の国民は何級戦犯なんだ?ってことでしょ。
そんなことで、靖国神社の意味が変わるものでもないっしょ。



・・・てなわけで、対外的には主に③が問題なわけだ。

それについて・・・

日本は、「国のために戦って亡くなってしまった人の霊を慰霊しに行って何が悪いのだ」、
「戦争のヒーローを崇めているのではない、二度と悲惨な戦争が起こらないように祈っているのだ」、
「アメリカの首相だって、アーリントン墓地に行くだろう」
って説明する。

それに対して中国や韓国は、「靖国神社の参拝は慰霊ではない、戦死者を崇めているのだ」、
「兵士を崇め、称賛し、戦争を肯定し、次の戦勝を祈っているのだ」、
「いまのドイツの首相がナチス将校の墓を拝みに行くか?
戦争責任というものをまったく反省していないではないか」
と責め立てる。

ここまできたらもう、ハナシは平行あるのみだよね。
だって、日本はこう言う、でも中国、韓国はそれを信じない、ということだからねー。



こういう行きづまりの時、「ホントはどうなんだろう?」って思う人には、
この映画(ドキュメンタリー調)は、考えるヒントをくれると思う。

監督が中国人だからもちろん、
「靖国参拝は、軍国主義の正当化」というスタンスで映画が作られているんだけど、
日本人は、そういう一方的なパンチを受けながらも、
客観的に物事を判断できる人種だと、僕は信じている。
それが、近所の国の人には真似のできない日本人の品格であり度量なのだ、
と自分に言い聞かせてこの映画を観たんだよ(2度目)。(笑)



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この映画のポイントは、この日本刀にあるんだよ

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思い切り右翼団体みたいな人が参拝に

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元軍人なのかなあ

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昔は、戦地に行く前に祈祷することもあった

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現職自衛隊員も

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思い切り軍人姿の人も

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なるほど、合祀名簿からはずしてほしい人たちもいる

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戦没者に贈られる勲章状

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A級戦犯ってなんだろう?一般の国民は何級戦犯?



じゃあさ、この映画が言うように
「靖国参拝は、戦死者を崇め称賛し、軍国主義を正当化するもの」ということで
現状を考えたらどうなるだろう?



日本の言う「国のために戦って亡くなってしまった人の霊を慰霊しに行って何が悪いのだ」、
「戦争のヒーローを崇めているのではない、二度と悲惨な戦争が起こらないように祈っているのだ」、
というのはウソだよね。

実際、靖国神社というのは、
「戦争に行って死んだら神になる。靖国神社に祀られて、天皇陛下でさえ親拝にくる」といって、
国民が戦争に行く、死をもいとわずに戦う、意思をモチベイトする機関
だったんだね。

それをいまでも美学としてとらえている人たちがいて、
「日本は敗戦したけど、戦死者を称え、崇め、
次に戦うことになった時には武運をもらって必ずや勝とう」と思っているんだよね。
でも、これは「戦争をやりたい」という意味とは違うけどね。

その人たちって、けっこう強力な自民党のバックアップ団体だったりするから、
自民党の総裁は少なくともポーズだけでも靖国参拝をするんだよ。
つまり、自民党にとっては、重要な “政治カード“ の一枚なんだね、小泉総理の時までは。



じゃ、中国や韓国が言ってることはどうだろう?
「靖国参拝は、戦死者を崇め称賛し、軍国主義を正当化するもの」だとしたら、
何だといいたいのだろう?

そりゃ、反省してるのか?と言いたくなるだろうけど、
国を挙げて何十年も日本軍の悪さを教育したり、
未来永劫忘れちゃならないと臥薪嘗胆するのはなぜなんだろう、って思わない?
それは、これも中国や韓国の重要な “外交カード” の一枚だからなんだね。

「円借款」とか「ODA」という言葉を知ってるよね?
日本は敗戦後、罪滅ぼしするみたいに、アジアの国々に経済支援や技術供与を行ってきたんだな。
特に中国や韓国に対する経済的な支援は膨大で、中国へは累積6兆円以上、
韓国へは累積2~3兆円にもなるんだよ。
このお金は低利または無利子の貸付なんだけど、返さなくていいお金もずいぶん含まれているんだ。
また、技術供与については金額に換算するととてつもない金額になるらしいし。
韓国へは、1965年の「日韓基本条約」で定められた戦後賠償が、
現在の金額に換算して1兆800億円支払われているんだよ。
この額が、まだまだ発展途上だった中国や韓国にとって、
どのくらい大きな額だったのかは大雑把に想像してもわかるよね。

これは、“戦後の罪滅ぼし” という暗黙の了解のもとに行われてきたことだよね。
だから、中国や韓国はこの利益をもたらす「暗黙の了解」を忘れたくないわけだ。
けど、そういう援助を日本から受けていることを自国民には知られたくない。
だから、日本の戦争責任を表沙汰にして “憎しみ” として教育しているんだね。
そうすればおまけに、日本に負けるな、という国家発展のためのモチベイションにもなるし。
国に感情を利用されてかわいそうなのは、中国や韓国の国民ばかり、だと思うな。
未来永劫、日本に憎しみを持ち続けることにどんな目的があるのか、
考える人はいないんだろうか。

でもね、日本政府は僕みたいに恩着せがましいことなんて言わないよね。
ここにも日本人の品格の高さが窺えると思うけどね。
同じ儒教がベースの国なのに、中国や韓国には、
「もう、物乞いみたいなみっともないことはやめようぜ」と言い出す人はいないんだろうか。

小泉総理の時、中国の経済成長は著しく、日本の経済は傾いているというわけで、
中国へのODAの一部を打ち切ったんだよね。
そうしたらいきなり、靖国参拝への批判や教科書問題が勢いを増したんだよ。
それで、なんで中国が「日本の戦争責任は未来永劫」と言いたいのか、
一瞬浮き彫りになったんだけどねー。



つまり、日本政府も中国・韓国政府も、政治的・経済的に利益を得るためのカードとして
靖国神社参拝を利用しているんだよね。
純粋に憎んだり、謝ったりしている国民感情は、目的もわからず利用されているだけ。



この映画は、小泉元総理の退任の後に作られた作品だよ。
映画のメッセージはもちろん、「靖国参拝は軍国主義の正当化で、やってはいけないこと」。
その目的は、意図していなくても構造上結果的に、
「日本の戦後賠償を未来永劫続けさせる」ということに違いないわけ。

でもね、現職の安倍総理の靖国神社参拝の強行は、
小泉元総理の時とは全然意味が違ってきてる
よね。
だから、この映画もいま観ると封切り間際の頃とはメッセージが違って見える。
もう、カードの切り合いじゃすまなくなっているんだな。
ただ「靖国神社参拝はいけない」というだけでなくて、
もっと深刻ないろんなことが見えてくる・・・。

そもそも、自民党総裁が、支援団体の一部のナショナリストへの
ポーズのために参拝をするのとは意味が違う。
だって、安倍総理自身がナショナリストなんだから。
「場合によっては、我々は戦争をやりますよ」と宣言しているようなもんだよね。

僕も、日本が自分の意思で防衛的な戦闘をできる軍隊を持つべきだと思うし、
もっと国民が愛国心を持つべきだ、とも思っているんだけど、
それは、軍国主義になりたいと言う意味ではなくて、“まともな国にしたい” という意味。

日本は、先進国の中でも極めて変わった国なんだよね。
共産主義国や軍事国家のすぐそばにありながら、軍事力も弱小で、
自身の意思で防衛的な戦闘もできないなんて。

まあ、GHQ以降、アメリカの戦後統治のもとにあるんだから仕方がないけど、
日本は両翼をとっぱらった飛行機、飛車&角抜きの国際政治をしている
とっても変わったアンバランスな国なんだ、ということ。
戦争をしたいという意味じゃなくて、まともじゃないということ。

中国や韓国の要人も、小泉総理の時とは違って、本気で戦闘体制を整えるつもりなんだ
ということを感じている
だろうと思う。
それは、本気で戦争をやる、という意味ではなくて、
両翼の揃ったジェット機として、日本が政治的にも経済的にもアジアにおいて
イニシャティブをとって、有利に利権を獲得するようになるに違いないという意味だ。
外交政治は、国益追求が目的のすべてだからね。
国民は、「日本が刀を持って攻めてくる」と思っているかもしれないけど。

最近のアメリカの民主党の政治を見ていると、
米軍基地問題やTPP問題についての自分勝手さが目立っていて、
政治的にも経済的にも、日本を尊重しているんだろうか?
という疑問が湧いてくるなあ。
日本はもうアメリカに頼って生きるのはやめたほうがいいのかもしれない
という気がしてくる。

安倍総理が靖国参拝をした時点では、アメリカと
「日本やアメリカの国益のマイナスになるから、靖国神社参拝はしない」
という約束になっていた
らしいね。
その共通認識を破ったから、アメリカは “失望(disappoint)“ したんだよ。

アメリカが軍備配備の検討や軍事演習をしようとしている矢先で、
中国とのトップ会談も控えたタイミングだったよね。
安倍総理は、アメリカの民主党がキライなのかもしれないね。
軍産複合体の代表である共和党が好きなのかもしれない。
結果、「アメリカの言いなりにはならない」という宣言をぶちかましたカタチにもなったんだね。

そんなことをやったり、憲法9条の改正を独断で突っ走ったりで、
自民党内でも、安倍総理は “危険人物化” しつつある。

僕は、安倍総理の “自主独立” 的な方向性には反対ではないんだ。
政治的にも経済的にも軍事的にも、いち独立国としての方向に向かったほうが自然だと思うからだ。
それは、決して軍国主義国家になりたいという意味ではなく。

でも、安倍さんがどこまでナショナリストなのか知らないし、
「特定秘密保護法案」を強行的に議決させたり、「東京の経済特区化」を進めていて
アメリカに迎合的なのか反抗的なのかもよくわからない。
アメリカが統治国の日本の先行きをどう考えているのかもわからない。
中国や韓国、台湾やその他東南アジア諸国がどう感じて、
どういう行動を起こすのかも想像できない。

だから、しっかり今後の外交情勢を見極めていかないといけないな、
って自分に言い聞かせている。

そんなことを考えるきっかけになった映画だなー、この映画は。



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●『靖国 YASUKUNI』
2008年 中国、日本
上映時間:123分
監督:李纓
製作:張会軍、胡雲、蒋選斌、李纓
製作総指揮:張雲暉、張会軍、胡雲
撮影:李纓、堀田泰寛
編集:李纓、大重裕二
配給:ナインエンタテインメント、アルゴ・ピクチャーズ
公開:サンダンス映画祭
   ベルリン国際映画祭
   香港国際映画祭