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ゆらゆら草

もう少し感受性を働かせれば、毎日がスペシャルになる。そう自分に言い聞かせて、 いろいろ感じたことを書きとめてみよっと。

痛いアメリカの詰め合わせ ~『スリー・ビルボード』  


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これは、難しいわー。
いやね、ストーリーとかが難しいというんじゃなくて、
そのおもしろさを理解するのが、ってこと。
ストーリーはいたってシンプルなんだよ。

でも、微妙に人物像がはっきりしなかったり、
ハナシの筋がスッキリしなかったり、
メリハリがぼんやりしてたり・・・。

ま、ひと言で言うと変な映画。
良く言うと、映画マニア、批評家ウケする映画だなー。
映画の観方・観え方が多元的というか、
いろいろなコンセプトといろいろな表現タッチが
混然一体となっている
とでも言うんだろうか。
“脚本の妙” を楽しむ映画とでも言うのか。



★以下、ネタバレ。
これから観ようと思っている方は、
観てから読んだほうがいいに違いないのですが、
おもしろがるにはけっこう難しい作品だと思うので、
読んでから観たほうがおもしろく観られる
場合もあるかもしれません。

観た人は、ぜひどうぞ↓。



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■社会派映画

この映画の多元的な側面のひとつは、
社会派としての側面、というか正面。
この作品は、誰が見てもわかる通り、
「社会派映画」に違いないわなー。

日本人にはわかりずらいかも知れないけど、
そもそも、“ミズーリ州” と聞いただけで、
アメリカ人は「社会派のヤバイ映画だろうな」って
くるらしい
んだよ。

ミズーリ州と言えば、アメリカ中西部。
中西部といえば、アメリカの悪いところをいろいろ集めた
ようなところというのが、一般的なアメリカ人のイメージ
らしいんだな。(ミズーリ州の人たち、すんません)

たとえば、2014年に起きた、黒人青年が白人警官に
射殺されて、その後、暴動に発展した事件

あれは、ミズーリ州セントルイスの郊外に位置する
ファーガソンという街で起きた事件。
黒人差別だよね。
KKKの活動も元々は、中西部が盛んだったらしいし。

人種差別は黒人ばかりではなくて、インディオや白人にも。
元々住んでいた白人と、後から入ってきたアイルランド移民や
ドイツ系移民との対立もあったりする。

それから、“ヒルビリー” と呼ばれる低所得者層。
この人たちは白人なんだけど、アメリカ中の人から
田舎者扱いされて、“White trash(白いゴミ)”とまで
蔑まれているんだそうだ。

そのせいでひねくれているのか、ひねくれているから
蔑まれているのかわからないけど、
その人たちのコミュニティはとても差別的で暴力的
女性差別も激しい土地柄なんだそうだ。

そういえば、主人公のおばさんや警察署長の部下の警官や
歯医者のてんかん気質的な攻撃性・暴力性、主人公の元夫の
女性差別的な態度、そもそもレイプ殺人そのものが女性蔑視、
街の人々の主人公に対する閉鎖的な仕打ち・・・
ヒルビリーの特徴を描いているんじゃないだろうか。

だから、あのおばさんが、自分の娘がレイプ殺人された事件を
糾弾して、3枚のビルボードを出した時点で、
日本人の想像を超えた、ピリピリとした緊張感が
アメリカ人には伝わる
んだな。


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ここまでで・・・

●人種差別(黒人差別事件、ヒルビリー差別)
●女性蔑視
●暴力


それから・・・

●DV=主人公の元夫。DVが理由で別れた。
●聖職者による児童レイプ事件
●医療問題=署長はなぜ末期ガンなのに働いていたのか
      なぜ自殺したのか
●同性愛差別=あの短気な警官は、ゲイであることを隠していた
●身障者差別=主人公は小さい知人の善意・好意に目もくれない
●戦争問題=イラクで起こった事件
★〇〇問題=犯人は誰か、最も悪いヤツは誰かの答えに関わる問題
      後述


・・・と、ミズーリ州は、いま思いつくアメリカの社会問題を
全部1か所に集めたようなところ
だという内容。
つまりこの作品は、アメリカの社会問題を全部集めたような
「社会派映画」
だということ。


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■ブラックコメディ

音楽の使い方がコミカルなんだよな。
(町山さんの評を読んで知った)

主人公のミルドレットおばさんが登場するところでは、
西部劇調の曲。

警察署長のテーマは、讃美歌的な曲。

乱暴なディクソン巡査が聴いている曲は、
ABAの『チキチータ』(ゲイの人たちにウケる曲)。



■ヒューマンドラマ

看板屋さんが暴力ディクソンを許すシーン。
オレンジジュースを渡すシーンは、
作品全体の尺でみれば一瞬だけど、泣かされる。



■哲学的・文学的示唆

このハナシの “変なトーン&マナー” の基調になっている
要素だと思うんだけど・・・
登場人物、特に3人のキャラの見え方が、
観ている人の思い込みを裏切って、変わっていく
んだよね。

あのおばはんは最初、正義感にあふれた人物だと思っていたのが、
とんでもなく頑迷な人間に。
あのレイシストで短気なディクソンは、けっこういいやつに。
善人の署長は、最後まで善人に見えるけど、
実は内に秘めた反骨心(たぶん)の人に。

『スリービルボード』の “スリー” は、この3人にひっかけて
あるのかもしれないね。
看板が燃えてしまって、張り替えられてから、
3人のキャラの見え方が変わっていく
もんね。

つまりこの映画では、人間の二面性、あるいは多面性、
心のダイバーシティ
とでも言うのかな、
そんなことを伝えているのかも。
この世には、完全なる悪人も善人もいないんだ、
完全なる強者も弱者もいないんだ、って。


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■もちろん、ミステリー(サスペンス?)

そう、「社会派ミステリー」なんだね、この作品。
最後まで、犯人は誰なのか?ってツカまれてしまう。

そして、上で書いた「〇〇問題」
これが、犯人よりもホントは誰が一番悪いヤツなのかの答え。
よく考えると、この映画の最もコワイところ。
でも、最後までわからない、もしくはわかりにくい。

こういう、サクッとしない終わり方、流行っているのなかあ?
日本でも、西川美和監督の『ゆれる』、『ディア・ドクター』、
是枝監督の『三度目の殺人』みたいな、誰が犯人なのか
誰が悪いのか、その後どうなんのか、もしあれだったらこうに
違いない、なんて観た後に考えさせる作品。



はい、そういうことです。
この作品は、たくさんのアメリカ社会問題と
映画としてのたくさんのニュアンスが、
絶妙な脚本によって、くんずほぐれつ
緻密に詰め込まれた作品
なんだとみたねぇ。

でもね、緻密によく練られてできたものが、
すべておもしろいとは限らないわけで・・・ぶつぶつ

ところで、誰が犯人で、誰が一番悪いヤツだと思う?





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●スリー・ビルボード(Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)
2017 アメリカ、イギリス
上映時間/115分
監督/マーティン・マクドナー
製作/グレアム・ブロードベント、ピート・チャーニン、マーティン・マクドナー
製作会社/ループリント・ピクチャーズ、フォックス・サーチライト・ピクチャーズ、
     フィルム4・プロダクションズ、カッティング・エッジ・グループ
製作総指揮/バーゲン・スワンソン、ダーモット・マキヨン、ローズ・ガーネット、
      デビッド・コッシ、ダニエル・バトセック
脚本/マーティン・マクドナー
撮影/ベン・デイヴィス
編集/ジョン・グレゴリー
音楽/カーター・バーウェル
配給/フォックス・サーチライト・ピクチャーズ(米)、
   20世紀フォックス映画(日)
出演/フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、
   アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ ほか
受賞/第42回トロント国際映画祭 ・観客賞
   ベネチア国際映画祭2017 ・脚本賞
   英国アカデミー賞2017 ・作品賞 ・英国作品賞
   ゴールデングローブ賞 映画部門 ・作品賞 (ドラマ部門)
   第24回全米映画俳優組合賞 ・主演女優賞 ・助演男優賞 ・キャスト賞
   第90回アカデミー賞 ・主演女優賞 ・助演男優賞





♪ Mildred Goes To War / Soundtrack


ミルドレットのテーマ



♪ Monsters of Folk / His Master's Voice


ウィロビー署長のテーマ



♪ Chiquitita / Abba


ディクソン巡査のテーマ







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太陽の塔の向こうに、見えるもの ~『太陽の塔』  


新聞記者から編集局長に昇進して東京赴任しているHくんから、
映画の先行試写会があるから、行くかい?」との
お誘いがあったんだよ。

瞬間、有楽町あたりのガード下の焼き鳥屋が頭に浮かんだ僕は、
すかさずオッケー。



タイトルは、『太陽の塔』。
場所は、日比谷のプレスセンター。
ははん、岡本太郎を題材にした映画なんだろうけど、
少し社会派がかっていて、新聞社向けにパブリシティネタ
提供して記事にしてほしいという配給側の狙いなんだろうな、
こういうことって、新聞社には仕事としてよくあること
なんだろうなと思いつつ、タダで観られるんだから
こんなにうれしいことはないし、有楽町あたりのガード下の
焼き鳥屋も待っているし、とも思いつつ、ゴー!

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日本プレスセンターは、野外音楽堂でおなじみの
日比谷公園の横というか向いというかのところにあるんだな。
なるほど、霞ヶ関の官庁街の傍ら。
よく、テレビで外国人記者クラブなんかが記者会見を
やったりしているとこだよね。


早く着いたので、日比谷公園をプラプラ。
この日は、ライブでもあったのか、
音楽堂のまわりに長い行列ができていたなあ。

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木々の向こうに見えるかまぼこ屋根の建物が目的地だわー。


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取材とかと全然関係ない用事で中に入れるなんて、
なかなかオツというものだわな。

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10階。
おお、180坪というから、ホテルなんかのでかめの結婚式が
行われるバンケットルームくらいの広さがあるんだねー。
着席で200人のキャパがあるとのこと。
うむ、記者がふざけた質問なんぞをしずらい空気がほわほわ。



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うーむ、なかなか濃厚なドキュメンタリーだったわー。
本人の生前の動画なども挟まれているけど、
ほとんどが岡本太郎の学芸員や研究者などへのインタビューの
集大成という感じだね。

1970年の大阪万博の時に作られた「太陽の塔」を中心に、
岡本太郎という人は、どんなアーティストだったのか、
彼はいまの世に何を残したのか、を探れる逸品といえるだろうね。
岡本太郎ファンなら、新しいことを知れたり、
知っていることの復習なりができる、よだれモノの力作に
違いないなー。

大阪万博は、宇宙開発や、映像技術や、コンピューターや、
テレビ電話などの高度通信や、建築、ロボットなんかの
当時の世界の “科学技術” の最先端を集めた博覧会だった
のに、
岡本太郎は、「太陽の塔」は・・・

●なぜ、あんな “手づくり的作業” によるオブジェを作ったのか?
●あのカタチは、何に由来しているのか?
●何を意味しているのか?
●塔の中には何があるのか?何を意味しているのか?
●当初、アート性を加味したパビリオンの建築を依頼された
 はずなのに、なぜ、何の役にも立たないオブジェを作ったのか?
●なぜ、丹下健三の当時最先端の無限増築技術を投入した建物を
 突き破るようなカタチで建てられたのか?

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●他の建物や展示物はすべて取り払われたのに、
 なぜ、「太陽の塔」だけが残されているのか?


・・・そんなことが解き明かされると同時に、
岡本太郎のバイオグラフィや芸術思想が浮き彫りにされていく。
それは、48年後のいまになってこそ、ようやく理解できる
痛いメッセージ
に違いないなあ。

でも、我々がそのメッセージを100%理解できているかといえば
そうではなく、まだ理解の途中なんだろうな。
きっと、それが理解できる日まで、立ち続けるんだろうな

太陽の塔は。

うーむ、やはり岡本太郎は芸術家というより
反骨精神に満ちあふれた「哲学者」だったんだなー、と思う。


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日比谷公園の地図に向かって、左上のあたりに野外音楽堂が
あるんだけど、その左下に「千代田区立日比谷図書文化館」
というのがあるよね。
てるてる坊主みたいなカタチのやつ。

そのてるてる坊主のアタマのカタチのところが、
交通会館の展望回転レストランみたいな、円形スペースの
カフェになっているんだな、交通会館ほどでかくはないけど。

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円形の中心が、円形に書棚が並べられた読書スペースに。

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入口のほうを見ると、「Library Shop & Cafe」って
表示してある。
レジ横のショウケースの中には、まい泉のカツサンドなどが。
カフェの運営は、PRONTO

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なるほど、この文化館とまい泉とPRONTOが
コラボした業態なんだね。

土曜日の石造りの官庁街の傍らだというのに、
けっこうな人でにぎわっていたよ。

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●太陽の塔

2018(2018年9月29日劇場公開) 日本
上映時間/112分
監督/関根光才
製作/井上肇、大桑仁、清水井敏夫、掛川治男
エグゼクティブプロデューサー/平野暁臣
プロデューサー/曽根祥子、菅原直太、鈴木南美、倉森京子、
        桝本孝浩、後藤哲也
ラインプロデューサー/佐藤大
プロダクションマネージャー/西野静香
撮影/上野千蔵
照明/西田まさちお
録音/清水天務仁
スタイリスト/伊賀大介
ヘアメイク/小西神士
美術/中條芙美
編集/本田吉孝
本編集/木村仁
カラリスト/Toshiki Kamei
CGチーフディレクター/尹剛志
アニメーションディレクター/牧野惇
音響効果/笠松広司
音楽/JEMAPUR
配給/パルコ
出演/赤坂憲雄、安藤礼二、糸井重里、植田昌吾、大杉浩司、
   奥山直司、嵩英雄、唐澤太輔、小林達雄、コンチョク・ギャムツォ、
   佐藤玲子、椹木野衣、シャーラプ・オーセル、
   ジャスティン・ジャスティ、菅原小春、春原史、関野吉晴、
   舘鼻則孝、千葉一彦、Chim↑Pom、土屋敏男、中沢新一、
   長野泰彦、並河進、奈良利男、西谷修、平野暁臣、マユンキキ、
   織田梨沙







♪ (You Make Me Feel Like) A Natural Woman / Aretha Franklin





♪ Hey Nineteen / Steely Dan









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いまのいやーな空気感 ~ 『恋人たち』  


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ふだん生活していて、なんとなく・・・
「これって、なんか間違ってるんじゃないの?」とか、
「どんだけ我慢すれば、解決するんだろう?」とか、
「こんな泥沼から抜け出したい」とか、
「どうしてこんなに不公平なのだ?」とか思うことって、ない?


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僕らの日常には、
●夫婦のマンネリが我慢できなくて、不倫する・・・
●人助けをしようとして、詐欺師に騙される・・・
●すごく有能で価値ある仕事をするのに、給料が少ない・・・
●高過ぎる健康保険料を払っているのに、いざという時の治療費が払えない・・・
●被害者が苦しんでいるのに、犯罪者が法に守られて大手を振って暮らしている・・・
●自分が被害者なのに、世間から咎められる、冷たくされる・・・
●身内が辛い目にあっているのに、見て見ぬふりどころか忌み嫌う・・・
●エラソーに命令するばかりで、責任をとらない先輩・・・
●ゲイだと、危険人物扱いされる・・・
●一番信じていた人が真っ先に去っていく・・・
●あの医者は、あの弁護士は、弱っている人から金を巻き上げる・・・
なんてことが、フツーに転がっているのだ。

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この映画は、複数の主役がそれぞれの物語を展開する群像劇なんだけど、
僕らがフツーに暮らしていて起こりうる理不尽というか不条理というかの
不幸を淡々と並べた作品
なんだなー。

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わざとらしい演出や、びっくりするようなハプニングなんかが
起こらないがゆえに、すごーくリアルな感じがするなあ。
いま身のまわりにある理不尽なことや時代の負の空気
ぜーんぶ詰め込んだんだろうなあ。
そして、『ぐるりのこと』の橋口演出の独特の人間くささ。

そういう、“いま、ホントにリアルな” 社会派の作品として、
2015年のキネマ旬報ベスト・テンで1位をとったんだろうな。

でもねぇ、ハッピーエンドっぽく描かれているけど、
すごーく嫌な気分になる、生活者として落ち着かない気分になる。

ズバリ、観ないほうがいいかもね。(笑)

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こんな不穏な空気の映画を作っちゃってさあ、
では、作った監督ご本人に言い訳してもらいましょう。


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●恋人たち
2015年 日本
上映時間:140分
監督:橋口亮輔
原作:橋口亮輔
脚本:橋口亮輔
製作:松竹ブロードキャスティング
エグゼクティブプロデューサー:平野隆
企画:越智貞夫
企画協力:文藝春秋
プロデューサー:木村理津、大原真人、渡邉敬介、浅野博貴、伊藤正昭
共同プロデューサー:藤井和史、山田昌伸
ラインプロデューサー:武石宏登
制作プロダクション:コブラピクチャーズ
撮影:上野彰吾
編集:橋口亮輔
音楽:Akeboshi
配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、
   山中聡、リリー・フランキー、木野花、光石研 ほか
受賞:第89回キネマ旬報ベスト・テン
   ・日本映画ベスト・テン 第1位
   ・新人男優賞/篠原篤
   ・監督賞/橋口亮輔
   ・脚本賞/橋口亮輔
   第70回毎日映画コンクール
   ・日本映画大賞
   ・録音賞/小川武
   第37回ヨコハマ映画祭
   ・日本映画ベスト・テン 第2位
   ・監督賞/橋口亮輔
   ・助演男優賞/光石研
   第30回高崎映画祭
   ・最優秀監督賞/橋口亮輔
   ・最優秀助演男優賞/黒田大輔
   ・優秀新進俳優賞/篠原篤
   ・優秀新進俳優賞/成嶋瞳子
   ・優秀新進俳優賞/池田良
   第39回日本アカデミー賞
   ・新人俳優賞/篠原篤
   第58回ブルーリボン賞
   ・監督賞(橋口亮輔)
   第25回日本映画プロフェッショナル大賞(2016年)
   ・新進プロデューサー賞/深田誠剛、小野仁史
   第35回藤本賞
   ・奨励賞/深田誠剛、小野仁史







♪ Usual life / Akeboshi





♪ Stop Whispering / Radiohead




“生きる” って? ~ 『BIUTIFUL ビューティフル』  


1月25日に、メキシコ国境沿いに壁を建設することを命じる大統領令に署名。
27日に、シリア難民の無期限受け入れ停止や、
すべての国からの難民の受け入れを120日間停止、
イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの
7カ国からの入国は90日間停止主旨とした大統領令に署名。

不法入国やテロリストの入国を防ぐためとされているけど、
正式なビザや居住許可の認められた人まで締め出しを
食らっていたらしいね。

大統領令という大きな権限を使っての措置だけど、
案の定、28日に、NY連邦裁判所が合法的に入国許可を受けている人
は大統領令の対象にならないことを決定。

それに対し、司法長官代理をクビにして、
おもいっきり白人至上主義の人間を司法長官に据えたというから
こりゃもう、とんでもない人物がアメリカのリーダーになった感が
はっきりしてきたよなあ。

トランプ大統領は、ホントに軽はずみな人間なのか、
何か巧妙な戦略を持って、わざと “情報騒動” みたいなことを
起こしているのか
、どうなんだろうなあ。

だってね、大統領ぐらいの人物になると、
ツイッターでちょっとつぶやくだけで、株価も為替も激しく動く
んだよ。
トランプ大統領は、世間話でなくて、政策に関わるようなことを
中学生みたいにかるくアップして、何かをねらっているのかねぇ。

大統領のスタンドプレイで、政府とその他の機関との分断化がどんどん進むのか?
行政機関も企業もグルで、大統領の尻拭いまで予定調和でやってんのか?
いずれにしても、日本はいろんな面でアメリカから「自主独立」する
時を迎えたんじゃないだろうか。



僕のまわりに、難民として移民して来た人はもちろん見当たらないし、
不法入国や不法滞在してる人も知らない。
中国残留孤児で、帰国してこちらで結婚して暮らしている人は1人
知っていたけどね。

おっと、「移民」と「不法入国者」を一緒にしちゃだめだよな。
それは、「移民」は一時的か永久的にかはわからないけど、
正式に国民になることを認められた人なんだし、
かたや「不法」なんだから。

移民の暮らしは、過酷なんだろうな。
だって、なんらかの理由で、自国にいたって辛くて大変だから
移民することにしたんだろうけど、
移民先の国でだって優遇されるわけがないんだから。



この映画は、もともとスペインの国民であって、
かつてメキシコに移住していて、
また、スペインに移民として戻ってきた男のハナシ。

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いつの時代かはっきりしないけど、
「スペイン内乱」がらみの現代で、何かつらいことがあって
メキシコに移民したのかも知れない。
それで、やっぱり移民先での暮らしも過酷で、
またスペインに戻ってきた、そんなところなんだろうなあ。

男は、バルセロナの街で暮らしているんだけど、
これまた、厳しい生活をしているんだ。
子供が二人いて、学校に通わせているんだけど、
奥さんは精神を病んでいて別居状態で、どこにいるのかもわからない。

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まともな職に就くこともできず、
不法入国・不法滞在している人たちに闇商売をやめさせて職を斡旋したりして、
いくばくかの金を稼いで生きているんだよ。
やっぱり、移民しても最低レベルの生活環境しかないことをこの映画は教えてくれる。

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ある時、体調が悪くて病院に行ったら、自分が余命数カ月であることを知らされる。
泣きっ面に蜂。
不幸 × 不幸で、どん底とはこのことだよな。
残された子供たちはどうするんだ!?



この男は、不思議な力を持っているんだよ。
まあ、日本でいう「霊能力」というやつだな。

病院だったか、警察だったかの霊安室で、亡くなったばかりの人の所へ行って、
その霊があの世へ旅立つ時にコメントを聞いて、
遺族に伝えてあげるという仕事もやっているんだ。

信じる人もいるけど、フツーの人から見たら、
他人の悲しみにつけこんだ、インチキ詐欺に見えるよね。

この映画は移民の厳しい暮らしを描いた社会派の作品ではあるけど、
でも、実はそれが主題ではなくて、かと言ってオカルト映画でもない

不思議な設定なんだよ。

スペインで、こういう霊能力のようなものが信じられているのかはわからんなあ。
でも、メキシコはマヤとかインカの国であって、スピリチュアルなことは
思い切り信じられているから、こういう映画ができるんだね、きっと。

で、主人公の男は、自分が死ぬ前に、
子供たちに少しでも多くのお金を残してあげようと
死にそうな体をおして一所懸命働くんだよ。

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でも、亡くなる直前に体を動かせなくなり、
不法滞在していて、セネガルに帰国しようとしていた女にその金と
子供たちの世話を託してしまったもんだから、
命を削って稼いだお金もまんまと奪われてしまう。
どん底 × どん底 × どん底 × どん底 × どん底くらいのどん底!

これを「ビューティフル」というのは、皮肉ってことか?



男は、この世を旅立つ時に、
清々しい気持ちで森の中に立っている自分を知る。
霊能力の伏線がここで生きるんだな。

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メキシコにこういう概念があるかどうかわからないけど、
それは明らかに「成仏」の姿に違いないと思ったなー。

「成仏?」、「なんで、この男はこんなにすっきり気分なんだ?」。
だって、唯一頼りの父親の自分がこの世にからいなくなり、
1円(1ユーロか?)の金もなく、
わが子を愛せない母親はどっかをほっつき歩いているという状況に、
子供たちが突然ぽつんと残されたというのに、
なんで清々しく成仏できるんだよ?って思うよね。

そう、この映画は、「人にとって、生きるということはどういうことか?」、
行きつくところ「何のために生きるのか?」、「生きがいとは何か?」、

という問いを観た人に突きつけているんだな。

僕が、たとえばこの主人公のように・・・
金がなく、趣味もなく、名誉もなく、これっぽっちも倖せがない、
つまり、自分のまわりから “倖せ装飾物” を全部削り落として
生きることになったとしたら・・・そんなことを想像しながら、
何のために生きるんだろう?何をもって生きがいと感じるんだろう?
何をすれば倖せになれるんだろう、そして成仏できるんだろう?
って考えてみたら、うん、わかった気がする。

そうか、この映画は、黒澤の『生きる』をオマージュした作品らしいんだなー。
なるほどー。

僕も「成仏」できるよう、がんばってみよっと。



ほとんどバラしちゃったけど、
この映画はストーリーをバラしたらヤバイ、
というテの作品でもない気がするので、許してー。

おっかなくない、とってもいい人間のハビエル・バルデム
観られるぞー。(笑)


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●BIUTIFUL ビューティフル(Biutiful)
2010 メキシコ・スペイン
上映時間:148分
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
原案:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アルマンド・ボー、ニコラス・ヒアコボーネ
製作総指揮:デヴィッド・リンド
製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、フェルナンド・ボバイラ、ジョン・キリク
アソシエイト・プロデューサー:アルフォンソ・キュアロン 、ギレルモ・デル・トロ
撮影:ロドリゴ・プリエト
編集:スティーヴン・ミリオン
音楽:グスターボ・サンタオラヤ
美術:ブリジット・ブロシュ
製作会社:チャ・チャ・チャ・フィルムズ、ユニバーサル・ピクチャーズ、
     フォーカス・フィーチャーズ
配給:ファントム・フィルム
出演:ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、アナー・ボウチャイブ、
   ギレルモ・エストレヤ、エドゥアルド・フェルナンデス、シェイク・エンディアイェ、
   ディアリァトゥ・ダフ、チェン・ツァイシェン、ルオ・チン、アナ・ワヘネル ほか
受賞:第83回 アカデミー賞(2011年)
   ・主演男優賞 ノミネート
   ・外国語映画賞 ノミネート
   第68回 ゴールデングローブ賞(2011年) 外国語映画賞 受賞
   第63回 カンヌ国際映画祭(2010年)
   ・主演男優賞 受賞
   ・パルムドール ノミネート







♪ Here at the Western World / Steely Dan





♪ Sign in Stranger / Steely Dan





この映画を観ていて、こんなことを思い出した。

その昔、カメアシ(写真撮影のアシスタント)をやっている女子と話したこと。
音楽好きで、自身も大学時代にバンドでベースをやっていたコだ。

「どんなバンド、やってたんだよ」
「パンク」
「へー、パンクって、もひとつわかんないんだよな」
「何が?」
「曲調ということで言えば、たとえば、ロカビリーとかサンバとか言えば
 リズムもコードパターンも大体類型化できるだろ?」
「ピストルズのイメージで言えば、ロックンロールのリズムとコードが多いけど、
 決まりはないと思う」

「歌詞とか、思想・主義という意味では?
 政治とか、社会とか、金持ちとかの、軋轢とか、不平等とか、エゴとかを
 糾弾してるイメージが強いけども何かを正そうとかしてるのかな?」
「違うと思う」
「じゃ、なんで批判的なメッセージを発してるんだろう?
 パンクって、社会派メッセージソングじゃないの?」
「反抗してるのよ。理由とか目的なんかないのよ。
 社会を正そうとしてるんじゃない。ただの反抗。反抗することが目的なのよ」



この映画は、珍しい映画だなー。
何がって、最初から最後まで、ぶん殴るシーンばかりだからだよ。
喧嘩。
ぶん殴る、蹴っ飛ばす・・・。


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柳楽優弥が演じる主人公は、やたらと喧嘩をするヤツだ。
何かがきっかけで、争いになって喧嘩するというんじゃない。
その辺を歩いていたりする見知らぬ人を、いきなりぶん殴るのだ。

何が気に食わないのか、まったくわからない。
突然、殴りかかるんだ。

だからって、ものすごく強いというわけでもない。
相手が複数だったりして、ボコボコにされたりもする。
でも、後日、同じヤツを見つけて、仕返しをふっかけたりする。
3回はやってみないとだめなんだそうだ。

しつこい。
めげない。
そういう意味では、喧嘩が強いともいえる。

まるで、喧嘩が趣味。
スポーツでもやるように、楽しんでいるようにみえる。
そう、理由や目的などないんだな。
これが、愛媛の松山に実在したヤツだというから驚きだよなー。

当然、いろんな人の恨みをかうことになる。
彼との喧嘩に絡んだことのある不良の高校生や、やくざや、
やくざのぱしりの若者や、キャバ嬢なんかの。

そうして、大好きな殴り合いが、大ごとになっていく・・・。



“反抗期” という言葉があるように、
若者には何かと理由もなく反抗したくなる時期があるよなあ。
自分だって、そういう時期があったわー。
パンクとは、そんな若者の負のエネルギーのことなんだと思っていた。


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でも、それが不幸にして両親が亡くなってしまって、
身よりもなくて引き取り先で働かざるを得ないやつや、
何らかの理由でスマホゲームばかりやっているやつや、
自分ではどうしようもない理由でチンピラにならざるを得なかったやつや、
やむを得なくキャバ嬢になってしまったコにとっては、
僕らの知っている反抗期的なパンクとは違った意味をもつんだろうな。

希望を失ってしまった若者にとっては、
ホントの反抗心と、憤懣やるかたないものに対する暴力というものが育って、
いつか爆発してしまうんじゃないか。


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この映画は、いまの日本になんとなく流れる空気を見事につかんでいると思う。
若者にとって、大人を信用できない社会、がんばってもなんともなる気がしない社会・・・。
そんな社会で、内在・膨張しつつあるものが、いまに暴れ出すぞー、
という警鐘を鳴らしているんじゃないだろうか。

そうならないようにするには、僕は一所懸命働く以外に何をすればいいんだろう、
何をしてくればよかったんだろう、って考えさせられる。



技術的には、CGや極端なアップとかスローやコマ飛ばしなどのテクニックを一切駆使しないで
喧嘩のシーンを描いて、なお、すごい迫力とリアリティが表現されている
のがすばらしいなあ。
ほとんど引きで撮っているから、他人が喧嘩しているところを、通りすがりの自分が眺めている感じ。
なのに、「カタ」ではなくホントに殴って、蹴っ飛ばしている迫力が表現されているよ。

音がすごい!
顔を殴る音なんかでも、ハリウッドや韓国映画のクライムアクションの
バシーッ、ボコッ、というかっこいい音じゃないんだよ。
パン、ゴッ、って感じだから、ホントに殴っているように聞こえる。

役者の演技がすばらしいんだろうねー。
いや、ホントにぶん殴っているのかもしれないなあ。
柳楽くんのキネ旬・主演男優賞獲得は、納得!





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●ディストラクション・ベイビーズ
2016 日本
上映時間:108分
監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也、喜安浩平
製作:西ヶ谷寿一、西宮由貴、小田切乾、石塚慶生
プロデューサー:西ヶ谷寿一、西宮由貴、小田切乾、石塚慶生
ラインプロデューサー:金森保
企画プロデュース:朱永菁
撮影:佐々木靖之
編集:李英美
録音:高田伸也
美術:岩本浩典
衣装:小里幸子
メイク:宮本真奈美
アクション・コーディネーター:園村健介
VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
音楽:向井秀徳
主題歌:『約束』向井秀徳
制作会社:東京テアトル
製作会社:「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
     (DLE、松竹メディア事業部、東京テアトル、ドリームキッド、大唐国際娯楽、
      エイベックス・ミュージック・パブリッシング)
配給:東京テアトル
出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、北村匠海、池松壮亮、三浦誠己、
   でんでん、岩瀬亮、キャンディ・ワン、テイ龍進、岡山天音、吉村界人、松浦新 ほか
受賞:第8回TAMA映画賞
   ・特別賞/真利子哲也と柳楽優弥およびスタッフ・キャスト一同
   ・最優秀新進男優賞/村上虹郎
   ・最優秀新進女優賞/小松菜奈
   第41回報知映画賞
   ・監督賞(ノミネート)/真利子哲也
   ・主演男優賞(ノミネート)/柳楽優弥
   ・助演男優賞(ノミネート)/菅田将暉
   第38回ヨコハマ映画祭
   ・2016年日本映画ベストテン/第3位
   ・森田芳光メモリアル新人監督賞/真利子哲也
   ・撮影賞/佐々木靖之
   ・主演男優賞/柳楽優弥
   ・助演男優賞/菅田将暉
   ・最優秀新人賞/小松菜奈
   ・最優秀新人賞/村上虹郎
   第90回キネマ旬報ベスト・テン
   ・日本映画ベスト・テン/第4位
   ・主演男優賞/柳楽優弥
   ・新人女優賞/小松菜奈
   ・新人男優賞/村上虹郎







♪ 約束 / 向井秀徳





♪ たどりついたらいつも雨ふり / ザ・モップス




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