いまのいやーな空気感 ~ 『恋人たち』


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ふだん生活していて、なんとなく・・・
「これって、なんか間違ってるんじゃないの?」とか、
「どんだけ我慢すれば、解決するんだろう?」とか、
「こんな泥沼から抜け出したい」とか、
「どうしてこんなに不公平なのだ?」とか思うことって、ない?


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僕らの日常には、
●夫婦のマンネリが我慢できなくて、不倫する・・・
●人助けをしようとして、詐欺師に騙される・・・
●すごく有能で価値ある仕事をするのに、給料が少ない・・・
●高過ぎる健康保険料を払っているのに、いざという時の治療費が払えない・・・
●被害者が苦しんでいるのに、犯罪者が法に守られて大手を振って暮らしている・・・
●自分が被害者なのに、世間から咎められる、冷たくされる・・・
●身内が辛い目にあっているのに、見て見ぬふりどころか忌み嫌う・・・
●エラソーに命令するばかりで、責任をとらない先輩・・・
●ゲイだと、危険人物扱いされる・・・
●一番信じていた人が真っ先に去っていく・・・
●あの医者は、あの弁護士は、弱っている人から金を巻き上げる・・・
なんてことが、フツーに転がっているのだ。

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この映画は、複数の主役がそれぞれの物語を展開する群像劇なんだけど、
僕らがフツーに暮らしていて起こりうる理不尽というか不条理というかの
不幸を淡々と並べた作品
なんだなー。

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わざとらしい演出や、びっくりするようなハプニングなんかが
起こらないがゆえに、すごーくリアルな感じがするなあ。
いま身のまわりにある理不尽なことや時代の負の空気
ぜーんぶ詰め込んだんだろうなあ。
そして、『ぐるりのこと』の橋口演出の独特の人間くささ。

そういう、“いま、ホントにリアルな” 社会派の作品として、
2015年のキネマ旬報ベスト・テンで1位をとったんだろうな。

でもねぇ、ハッピーエンドっぽく描かれているけど、
すごーく嫌な気分になる、生活者として落ち着かない気分になる。

ズバリ、観ないほうがいいかもね。(笑)

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こんな不穏な空気の映画を作っちゃってさあ、
では、作った監督ご本人に言い訳してもらいましょう。


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●恋人たち
2015年 日本
上映時間:140分
監督:橋口亮輔
原作:橋口亮輔
脚本:橋口亮輔
製作:松竹ブロードキャスティング
エグゼクティブプロデューサー:平野隆
企画:越智貞夫
企画協力:文藝春秋
プロデューサー:木村理津、大原真人、渡邉敬介、浅野博貴、伊藤正昭
共同プロデューサー:藤井和史、山田昌伸
ラインプロデューサー:武石宏登
制作プロダクション:コブラピクチャーズ
撮影:上野彰吾
編集:橋口亮輔
音楽:Akeboshi
配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、
   山中聡、リリー・フランキー、木野花、光石研 ほか
受賞:第89回キネマ旬報ベスト・テン
   ・日本映画ベスト・テン 第1位
   ・新人男優賞/篠原篤
   ・監督賞/橋口亮輔
   ・脚本賞/橋口亮輔
   第70回毎日映画コンクール
   ・日本映画大賞
   ・録音賞/小川武
   第37回ヨコハマ映画祭
   ・日本映画ベスト・テン 第2位
   ・監督賞/橋口亮輔
   ・助演男優賞/光石研
   第30回高崎映画祭
   ・最優秀監督賞/橋口亮輔
   ・最優秀助演男優賞/黒田大輔
   ・優秀新進俳優賞/篠原篤
   ・優秀新進俳優賞/成嶋瞳子
   ・優秀新進俳優賞/池田良
   第39回日本アカデミー賞
   ・新人俳優賞/篠原篤
   第58回ブルーリボン賞
   ・監督賞(橋口亮輔)
   第25回日本映画プロフェッショナル大賞(2016年)
   ・新進プロデューサー賞/深田誠剛、小野仁史
   第35回藤本賞
   ・奨励賞/深田誠剛、小野仁史







♪ Usual life / Akeboshi





♪ Stop Whispering / Radiohead




“生きる” って? ~ 『BIUTIFUL ビューティフル』


1月25日に、メキシコ国境沿いに壁を建設することを命じる大統領令に署名。
27日に、シリア難民の無期限受け入れ停止や、
すべての国からの難民の受け入れを120日間停止、
イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの
7カ国からの入国は90日間停止主旨とした大統領令に署名。

不法入国やテロリストの入国を防ぐためとされているけど、
正式なビザや居住許可の認められた人まで締め出しを
食らっていたらしいね。

大統領令という大きな権限を使っての措置だけど、
案の定、28日に、NY連邦裁判所が合法的に入国許可を受けている人
は大統領令の対象にならないことを決定。

それに対し、司法長官代理をクビにして、
おもいっきり白人至上主義の人間を司法長官に据えたというから
こりゃもう、とんでもない人物がアメリカのリーダーになった感が
はっきりしてきたよなあ。

トランプ大統領は、ホントに軽はずみな人間なのか、
何か巧妙な戦略を持って、わざと “情報騒動” みたいなことを
起こしているのか
、どうなんだろうなあ。

だってね、大統領ぐらいの人物になると、
ツイッターでちょっとつぶやくだけで、株価も為替も激しく動く
んだよ。
トランプ大統領は、世間話でなくて、政策に関わるようなことを
中学生みたいにかるくアップして、何かをねらっているのかねぇ。

大統領のスタンドプレイで、政府とその他の機関との分断化がどんどん進むのか?
行政機関も企業もグルで、大統領の尻拭いまで予定調和でやってんのか?
いずれにしても、日本はいろんな面でアメリカから「自主独立」する
時を迎えたんじゃないだろうか。



僕のまわりに、難民として移民して来た人はもちろん見当たらないし、
不法入国や不法滞在してる人も知らない。
中国残留孤児で、帰国してこちらで結婚して暮らしている人は1人
知っていたけどね。

おっと、「移民」と「不法入国者」を一緒にしちゃだめだよな。
それは、「移民」は一時的か永久的にかはわからないけど、
正式に国民になることを認められた人なんだし、
かたや「不法」なんだから。

移民の暮らしは、過酷なんだろうな。
だって、なんらかの理由で、自国にいたって辛くて大変だから
移民することにしたんだろうけど、
移民先の国でだって優遇されるわけがないんだから。



この映画は、もともとスペインの国民であって、
かつてメキシコに移住していて、
また、スペインに移民として戻ってきた男のハナシ。

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いつの時代かはっきりしないけど、
「スペイン内乱」がらみの現代で、何かつらいことがあって
メキシコに移民したのかも知れない。
それで、やっぱり移民先での暮らしも過酷で、
またスペインに戻ってきた、そんなところなんだろうなあ。

男は、バルセロナの街で暮らしているんだけど、
これまた、厳しい生活をしているんだ。
子供が二人いて、学校に通わせているんだけど、
奥さんは精神を病んでいて別居状態で、どこにいるのかもわからない。

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まともな職に就くこともできず、
不法入国・不法滞在している人たちに闇商売をやめさせて職を斡旋したりして、
いくばくかの金を稼いで生きているんだよ。
やっぱり、移民しても最低レベルの生活環境しかないことをこの映画は教えてくれる。

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ある時、体調が悪くて病院に行ったら、自分が余命数カ月であることを知らされる。
泣きっ面に蜂。
不幸 × 不幸で、どん底とはこのことだよな。
残された子供たちはどうするんだ!?



この男は、不思議な力を持っているんだよ。
まあ、日本でいう「霊能力」というやつだな。

病院だったか、警察だったかの霊安室で、亡くなったばかりの人の所へ行って、
その霊があの世へ旅立つ時にコメントを聞いて、
遺族に伝えてあげるという仕事もやっているんだ。

信じる人もいるけど、フツーの人から見たら、
他人の悲しみにつけこんだ、インチキ詐欺に見えるよね。

この映画は移民の厳しい暮らしを描いた社会派の作品ではあるけど、
でも、実はそれが主題ではなくて、かと言ってオカルト映画でもない

不思議な設定なんだよ。

スペインで、こういう霊能力のようなものが信じられているのかはわからんなあ。
でも、メキシコはマヤとかインカの国であって、スピリチュアルなことは
思い切り信じられているから、こういう映画ができるんだね、きっと。

で、主人公の男は、自分が死ぬ前に、
子供たちに少しでも多くのお金を残してあげようと
死にそうな体をおして一所懸命働くんだよ。

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でも、亡くなる直前に体を動かせなくなり、
不法滞在していて、セネガルに帰国しようとしていた女にその金と
子供たちの世話を託してしまったもんだから、
命を削って稼いだお金もまんまと奪われてしまう。
どん底 × どん底 × どん底 × どん底 × どん底くらいのどん底!

これを「ビューティフル」というのは、皮肉ってことか?



男は、この世を旅立つ時に、
清々しい気持ちで森の中に立っている自分を知る。
霊能力の伏線がここで生きるんだな。

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メキシコにこういう概念があるかどうかわからないけど、
それは明らかに「成仏」の姿に違いないと思ったなー。

「成仏?」、「なんで、この男はこんなにすっきり気分なんだ?」。
だって、唯一頼りの父親の自分がこの世にからいなくなり、
1円(1ユーロか?)の金もなく、
わが子を愛せない母親はどっかをほっつき歩いているという状況に、
子供たちが突然ぽつんと残されたというのに、
なんで清々しく成仏できるんだよ?って思うよね。

そう、この映画は、「人にとって、生きるということはどういうことか?」、
行きつくところ「何のために生きるのか?」、「生きがいとは何か?」、

という問いを観た人に突きつけているんだな。

僕が、たとえばこの主人公のように・・・
金がなく、趣味もなく、名誉もなく、これっぽっちも倖せがない、
つまり、自分のまわりから “倖せ装飾物” を全部削り落として
生きることになったとしたら・・・そんなことを想像しながら、
何のために生きるんだろう?何をもって生きがいと感じるんだろう?
何をすれば倖せになれるんだろう、そして成仏できるんだろう?
って考えてみたら、うん、わかった気がする。

そうか、この映画は、黒澤の『生きる』をオマージュした作品らしいんだなー。
なるほどー。

僕も「成仏」できるよう、がんばってみよっと。



ほとんどバラしちゃったけど、
この映画はストーリーをバラしたらヤバイ、
というテの作品でもない気がするので、許してー。

おっかなくない、とってもいい人間のハビエル・バルデム
観られるぞー。(笑)


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●BIUTIFUL ビューティフル(Biutiful)
2010 メキシコ・スペイン
上映時間:148分
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
原案:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アルマンド・ボー、ニコラス・ヒアコボーネ
製作総指揮:デヴィッド・リンド
製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、フェルナンド・ボバイラ、ジョン・キリク
アソシエイト・プロデューサー:アルフォンソ・キュアロン 、ギレルモ・デル・トロ
撮影:ロドリゴ・プリエト
編集:スティーヴン・ミリオン
音楽:グスターボ・サンタオラヤ
美術:ブリジット・ブロシュ
製作会社:チャ・チャ・チャ・フィルムズ、ユニバーサル・ピクチャーズ、
     フォーカス・フィーチャーズ
配給:ファントム・フィルム
出演:ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、アナー・ボウチャイブ、
   ギレルモ・エストレヤ、エドゥアルド・フェルナンデス、シェイク・エンディアイェ、
   ディアリァトゥ・ダフ、チェン・ツァイシェン、ルオ・チン、アナ・ワヘネル ほか
受賞:第83回 アカデミー賞(2011年)
   ・主演男優賞 ノミネート
   ・外国語映画賞 ノミネート
   第68回 ゴールデングローブ賞(2011年) 外国語映画賞 受賞
   第63回 カンヌ国際映画祭(2010年)
   ・主演男優賞 受賞
   ・パルムドール ノミネート







♪ Here at the Western World / Steely Dan





♪ Sign in Stranger / Steely Dan




何かをぶん殴りたい気持ち ~ 『ディストラクション・ベイビーズ』


この映画を観ていて、こんなことを思い出した。

その昔、カメアシ(写真撮影のアシスタント)をやっている女子と話したこと。
音楽好きで、自身も大学時代にバンドでベースをやっていたコだ。

「どんなバンド、やってたんだよ」
「パンク」
「へー、パンクって、もひとつわかんないんだよな」
「何が?」
「曲調ということで言えば、たとえば、ロカビリーとかサンバとか言えば
 リズムもコードパターンも大体類型化できるだろ?」
「ピストルズのイメージで言えば、ロックンロールのリズムとコードが多いけど、
 決まりはないと思う」

「歌詞とか、思想・主義という意味では?
 政治とか、社会とか、金持ちとかの、軋轢とか、不平等とか、エゴとかを
 糾弾してるイメージが強いけども何かを正そうとかしてるのかな?」
「違うと思う」
「じゃ、なんで批判的なメッセージを発してるんだろう?
 パンクって、社会派メッセージソングじゃないの?」
「反抗してるのよ。理由とか目的なんかないのよ。
 社会を正そうとしてるんじゃない。ただの反抗。反抗することが目的なのよ」



この映画は、珍しい映画だなー。
何がって、最初から最後まで、ぶん殴るシーンばかりだからだよ。
喧嘩。
ぶん殴る、蹴っ飛ばす・・・。


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柳楽優弥が演じる主人公は、やたらと喧嘩をするヤツだ。
何かがきっかけで、争いになって喧嘩するというんじゃない。
その辺を歩いていたりする見知らぬ人を、いきなりぶん殴るのだ。

何が気に食わないのか、まったくわからない。
突然、殴りかかるんだ。

だからって、ものすごく強いというわけでもない。
相手が複数だったりして、ボコボコにされたりもする。
でも、後日、同じヤツを見つけて、仕返しをふっかけたりする。
3回はやってみないとだめなんだそうだ。

しつこい。
めげない。
そういう意味では、喧嘩が強いともいえる。

まるで、喧嘩が趣味。
スポーツでもやるように、楽しんでいるようにみえる。
そう、理由や目的などないんだな。
これが、愛媛の松山に実在したヤツだというから驚きだよなー。

当然、いろんな人の恨みをかうことになる。
彼との喧嘩に絡んだことのある不良の高校生や、やくざや、
やくざのぱしりの若者や、キャバ嬢なんかの。

そうして、大好きな殴り合いが、大ごとになっていく・・・。



“反抗期” という言葉があるように、
若者には何かと理由もなく反抗したくなる時期があるよなあ。
自分だって、そういう時期があったわー。
パンクとは、そんな若者の負のエネルギーのことなんだと思っていた。


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でも、それが不幸にして両親が亡くなってしまって、
身よりもなくて引き取り先で働かざるを得ないやつや、
何らかの理由でスマホゲームばかりやっているやつや、
自分ではどうしようもない理由でチンピラにならざるを得なかったやつや、
やむを得なくキャバ嬢になってしまったコにとっては、
僕らの知っている反抗期的なパンクとは違った意味をもつんだろうな。

希望を失ってしまった若者にとっては、
ホントの反抗心と、憤懣やるかたないものに対する暴力というものが育って、
いつか爆発してしまうんじゃないか。


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この映画は、いまの日本になんとなく流れる空気を見事につかんでいると思う。
若者にとって、大人を信用できない社会、がんばってもなんともなる気がしない社会・・・。
そんな社会で、内在・膨張しつつあるものが、いまに暴れ出すぞー、
という警鐘を鳴らしているんじゃないだろうか。

そうならないようにするには、僕は一所懸命働く以外に何をすればいいんだろう、
何をしてくればよかったんだろう、って考えさせられる。



技術的には、CGや極端なアップとかスローやコマ飛ばしなどのテクニックを一切駆使しないで
喧嘩のシーンを描いて、なお、すごい迫力とリアリティが表現されている
のがすばらしいなあ。
ほとんど引きで撮っているから、他人が喧嘩しているところを、通りすがりの自分が眺めている感じ。
なのに、「カタ」ではなくホントに殴って、蹴っ飛ばしている迫力が表現されているよ。

音がすごい!
顔を殴る音なんかでも、ハリウッドや韓国映画のクライムアクションの
バシーッ、ボコッ、というかっこいい音じゃないんだよ。
パン、ゴッ、って感じだから、ホントに殴っているように聞こえる。

役者の演技がすばらしいんだろうねー。
いや、ホントにぶん殴っているのかもしれないなあ。
柳楽くんのキネ旬・主演男優賞獲得は、納得!





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●ディストラクション・ベイビーズ
2016 日本
上映時間:108分
監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也、喜安浩平
製作:西ヶ谷寿一、西宮由貴、小田切乾、石塚慶生
プロデューサー:西ヶ谷寿一、西宮由貴、小田切乾、石塚慶生
ラインプロデューサー:金森保
企画プロデュース:朱永菁
撮影:佐々木靖之
編集:李英美
録音:高田伸也
美術:岩本浩典
衣装:小里幸子
メイク:宮本真奈美
アクション・コーディネーター:園村健介
VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
音楽:向井秀徳
主題歌:『約束』向井秀徳
制作会社:東京テアトル
製作会社:「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
     (DLE、松竹メディア事業部、東京テアトル、ドリームキッド、大唐国際娯楽、
      エイベックス・ミュージック・パブリッシング)
配給:東京テアトル
出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、北村匠海、池松壮亮、三浦誠己、
   でんでん、岩瀬亮、キャンディ・ワン、テイ龍進、岡山天音、吉村界人、松浦新 ほか
受賞:第8回TAMA映画賞
   ・特別賞/真利子哲也と柳楽優弥およびスタッフ・キャスト一同
   ・最優秀新進男優賞/村上虹郎
   ・最優秀新進女優賞/小松菜奈
   第41回報知映画賞
   ・監督賞(ノミネート)/真利子哲也
   ・主演男優賞(ノミネート)/柳楽優弥
   ・助演男優賞(ノミネート)/菅田将暉
   第38回ヨコハマ映画祭
   ・2016年日本映画ベストテン/第3位
   ・森田芳光メモリアル新人監督賞/真利子哲也
   ・撮影賞/佐々木靖之
   ・主演男優賞/柳楽優弥
   ・助演男優賞/菅田将暉
   ・最優秀新人賞/小松菜奈
   ・最優秀新人賞/村上虹郎
   第90回キネマ旬報ベスト・テン
   ・日本映画ベスト・テン/第4位
   ・主演男優賞/柳楽優弥
   ・新人女優賞/小松菜奈
   ・新人男優賞/村上虹郎







♪ 約束 / 向井秀徳





♪ たどりついたらいつも雨ふり / ザ・モップス




多彩な味の “食べ物映画” ~ 『赤い薔薇ソースの伝説』


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メキシコの映画だよ。
さすがは、ホドロフスキーの『エル・トポ』を生んだ風土、とでもいうのかな。
芸術の香りの強い作品だなー。

でも、『エル・トポ』みたいにエキセントリックだったり、
抽象的な表現はまったくないな。
物語や映像や音声を現象として捉えるのは、なんも難しいことはないよ。

でもね、何を言いたいのか理解するのは、やっぱり難しい。
それから、メキシコならではの “神秘主義” 的なものが描かれているところは
『エル・トポ』と共通しているかな。

でもでも、この映画は不思議な味がベースになっているけど、
そう、間違いなく “クセになる” 一本なんだよ。



だいぶん前に、「そらのごきげん -想天流転-」http://ainenanawo.blog.fc2.com/の
藍音ななをさん
から、“観てみたい映画“ と紹介いただいていたので、
なんとかソフトを入手して観てみることにしたんだった。

だってね、日本ではあまり知られていないようだけど、
メキシコではメキシコのアカデミー賞といわれるアリエル賞で
作品賞を含む全11部門で受賞(1993年度)
した作品で、
メキシコ映画史上最高の興行成績を挙げたということだし、
東京国際映画祭でも主演女優賞なんかをとっているらしいんだね。

それで、なぜかアメリカでもけっこうヒットしたらしいんだ。
そもそも、ラウラ・エスキヴェルという女性の小説が原作で、
映画になる前にメキシコやアメリカでベストセラーを記録していたらしい。

監督は、『エル・トポ』や『サボテン・ブラザース』に俳優として出ていたという
アルフォンソ・アラウ。(僕は知らなかった)
主演男優は、『ニュー・シネマ・パラダイス』から大人になったマルコ・レオナルディ

・・・・ときたら、なんだかおもしろそうでしょ?
こりゃ観るっきゃないっしょ、ってわけで観たんだよ。



<あらすじ>

テキサス州境に近い、メキシコの田舎の農場でその家族は住んでいる。
ママと年頃の三姉妹。
パパは、末娘が生まれてすぐに亡くなってしまった。

末娘のティタは、台所で生まれた
ママが急に産気づいたために、やむなくインディオの家政婦のナチャが助産して
調理台の上で生まれたのだ。

それからティタは、料理の上手なナチャが乳母となって、
ほとんど台所で育っていく。
そして、当然のようにナチャ直伝の料理を身につけて大きくなっていくんだな。

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ティタは15才になった時、ペドロと運命の出会いをする。
二人はひと目で相思相愛となって、結婚の約束をする。

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でも、ママはそれを許さない。
家のしきたりでは、子供が女の子ばかりの場合、
末娘が親の世話をすることになっている
のだ。

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ママは、ペドロの正式な結婚の申し込みを断わり、
なんと、次女ならあげられると提案する。

なんとなんと、ペドロはそれを受け入れることにするんだよ。
ペドロは、次女と結婚したら彼女の実家に住むことになるので、いつでもティタに会える
という魂胆でそうすることにしたんだなー。

当然、ティタは悲嘆に暮れる。
次女の結婚式では、あろうことか料理番を言いつけられる。
うん、ここから不思議なことが起こり出すんだね。
ティタが泣きながら作ったウェディングケーキを食べた客たちは・・・

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その1年後、日々想いが募るペドロはティタに、料理長就任1周年記念と称して薔薇の花束を贈る。
二人の関係を怪しむママは、それをすぐに捨てろと言う。
ティタは、捨てたフリをしてその薔薇の花びらでソースを作った料理を家族に出す。
そうしたら、ティタとペドロの恋心ばかりか、家族までもが・・・

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それからも、ママはペドロとティタの中を引き裂くための嫌がらせを繰り返す。
ある日とうとう、ティタは精神を病んでしまう。
病人にはもう用はない、とばかりにママはテキサスの医師ジョンにティタを預けてしまう。
優秀な医師ジョンのおかげで、ティタは快復するんだよ。
そして、ジョンとティタは婚約を。
そして、ママの死。

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ママが死んだせいで束縛が解かれて、ティタとペドロの気持ちが再燃する。
でも、あることが理由でティタはジョンとの婚約を解消して、
さらにはペドロとの仲も宙ぶらりんのまま長い年月を過ごしてしまう。

その日は、ペドロの娘とジョンの息子の結婚式だ。
(それが何を意味するのか、極めて興味深い!)

もう、ずいぶん歳をとってしまったティタとペドロだけど、
その日二人は、本当の意味で解放されてひとつになる・・・・が・・・

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・・・って感じ。



ストーリーを追っかければ、ふーん、ってなもんだけど、
この映画は実に “多彩な味” の作品だと思う。
それこそ、いくつかのフレッシュな素材と絶妙なソースがハモっていて、
いろんな人のいろんな観方においしく応えてくれるんだよ。



●「ファンタジー」としての味

もうわかっていると思うけど、この映画の最大の特徴は、
ヒロインのティタの想いが、彼女が作る料理に乗り移って食べる人に伝わってしまう
ということにあるんだね。
おもしろいプロットだよね。
お、そのテがあったか!という斬新さ。

CGを使ったりしてないし、セットもロケもリアルそのものだし、
人物も背景もヒューマンドラマのような質感で展開していくのに、
案外突飛なプロットと展開なんだよ。

ティタが涙を流して料理を作れば、食べた人も悲しくなるし、
愛を込めれば、食べた人も愛し合いたくなる。
災いやエクスタシーをもたらすんだ。

“言霊(ことだま)“ って言葉があるけど、これは “食霊(しょくだま)” かい?
でも、食べ物って生き物の生に直結しているから、
なまじ、荒唐無稽ではすまされないものがあるような気がするなあ。

そういえば、ティタは使用人で乳母のナチャに小さい頃から料理を教わったんだから、
この “食霊パワー” はインディオのナチャ直伝の技なんだな。
スピリチュアルな儀式とかで、映画なんかにもよく出てくるインデイオの呪術だけど、
食べ物に呪いを込める的なものもあるのかなあ。

それから、バラしちゃうけど、ママの亡霊なんかも出てくる。

そして、人のパッションが炎になって燃え上がる、という考え方。
ラストシーンは、キリスト教のアダムとイヴの
原罪のようなものを表現しているようにも見える。

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とにかく、作品全編にラテンアメリカ的(たぶん)の
魔術的な匂いが漂っている作品なんだよ。



●「グルメ映画」としての味

台所で生まれて、料理の達人であるインディオの家政婦ナチャに台所で育てられたティタは、
もちろん料理の達人だ。
メキシコの料理というと僕は、タコスとチリ・コンカーンくらいしか知らなかったんだけど、
劇中ではまったくイメージと違うものが出てくるんだよ。
そう、まるで凝ったフランス料理みたいなゴージャスさ。

まずは「あんずのウェディングケーキ」でしょ。
それから、日本語のタイトルになっている「赤い薔薇ソースの鶉の詰め物」。
「牛のテールシチュー」・・・・・。

最後は、メキシコ人が毎年9月15日のメキシコ独立記念日に食べる「チレス・エン・ノガダ」
これは、大きなピーマンみたいなチレ(=チリ、これは辛くない)に、
牛と豚の合挽きに、フルーツやドライフルーツ、ナッツ、タマネギなど
20種類近くの材料を炒めて詰めて、くるみを潰してクリームと和えたソースをかけたもの。
最後に、この白いソースの上に赤いざくろと緑のパセリをちりばめて、
メキシコの国旗の色に見立てるんだそうだ。

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うまそー!
うん、そう、僕らの全然知らないメキシコ料理が味わえる映画というわけ、目でだけど。
そういえば、チョコレートやシーザーサラダなんかもメキシコが発祥の地だったっけな。
奥が深そうだよね、メキシコ料理って。

原作の小説のそれぞれの章の始めには、料理のレシピがついているらしいよ。



●「ラブストーリー」としての味

この映画の原題は、『Como Agua Para Chocolate』って言うんだね。
スペイン語かな。
英語の直訳だと、“Like Water for Chocolate”
日本語訳すると、“チョコレートのための水のように” という意味だよね。

これは、日本人にはわかりにくいけど、ラテンアメリカ方面では、
ホットチョコレートやカカオ料理(甘くない)を作るのに水を使うらしくて、
粉やペースト状態のカカオに水を混ぜて、一所懸命一所懸命かき混ぜて
やっとおいしいものができあがる、という興奮を意味しているらしいんだな。
転じて、情熱が激昂する状態や、時には性的な興奮状態を表現する言葉なんだとさ。

そんなに興奮するほどうれしいかどうかは、やっぱり日本人にはわかりにくいけど、
ラテンアメリカの人のアドレナリンの出方の激しさを表わしているような気がするよね。

ひと目見た時から、運命を感じちゃう。
しきたりのため結婚を禁じられても、いつもそばにいたいからって、
ティタと同じ家に住むことになっている姉と結婚してしまう。

そもそもこの映画は、行きどころのない恋心が料理に乗り移って恋人に伝わる、
というハナシなんだし。
そして、とうとう本当の意味でひとつになるふたりの激情!

わりと静かに進む物語だけど、日本とは異なる官能表現があるし、
メキシコ人の恋愛観みたいなものにすこーし触れられる気がして
とても興味深いストーリーだと思うな。

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●「社会派映画」としての味

注意深く観ると、劇中で “革命軍” という言葉が出てくるんだよ。
これは、メキシコ革命のことを言っているんだろうなと気づく。
ということは、この映画の時代設定は、
1910年以降1940年以前あたりということになるんだな。

メキシコ革命は、悪徳政権を倒すために始まったんだけど、
次第に利権争い的な様相を呈してきて、次から次へと新しいリーダーが出て、
何度も何度も戦争を繰り返したメキシコの大混乱の歴史なんだよ。

主役はもちろん、大農園などを営むスパニッシュ系の富豪たち。
農場で働かされていたネイティブメキシカン(=インディオ)の人たちも、
自分たちの土地で繰り広げられる他所もんたちのケンカに、
30年も巻き込まれてしまうことになったんだな。

そういえば、この映画の舞台はメキシコの大農場だった。
よく見ると、死んだお父さんやママ、2人の姉は白人の顔をしている。
末娘のティタとナチャはじめ使用人たち、そしてペドロはインディオの顔つきだ。
そう、実はティタはママがインディオ系の男と浮気をしてできた子だったんだね。
んー、なんだか、社会派的な匂いがぷんぷんするでしょ?

そう、この映画もちゃんと社会的なメッセージが隠されているんだと思う。
僕の解釈はこうだっ↓

ティタの家族のママは大農園のスパニッシュだから、“スペイン的なもの”
ティタが課せられるしきたりは、征服者がもたらした封建制や差別的なもの

そして、使用人のナチャとティタの呪術的な料理は、先住民である “インディオの魂的なもの“
ティタの結婚が自由にならないさまは、征服者が先住民を苦しめてきたようす=
征服者の封建制の中で伝統を守っていく葛藤の苦しみを表わしているんじゃないだろうか。

そして、テキサスからやってきた医師のジョンは、“アメリカ的なもの”
メキシコ革命当時、アメリカ企業はメキシコの産業を買い漁っていたんだよ。
ティタはアメリカ人の進んだ治療で精神を取り戻すけど、結局は結婚を拒否してしまう。
そう、ネイティブはホントは新しい侵略者とも仲良くしたくないのだ。

メキシコ革命の大混乱は、カカオに水を入れてぐるぐるかき混ぜるがごとし
うん、達成に向かって興奮と激怒のるつぼにあったんだな。

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そして、スペイン人のママの死と、
インディオのペドロの娘とアメリカ人のジョンの息子の結婚。
「ママの死」は、征服者としてのスペイン的な悪い制度の消滅を、
「ペドロの娘とジョンの息子の結婚」は、メキシコの魂とアメリカの自由主義の融合を、
つまりメキシコ革命の終焉を比喩している
んだと思うなあ。

結婚式の日の夜、すっかりおじさんおばさんになったティタとペドロは、
はなれ小屋でひとつに結ばれる。
インディオの魂を象徴するふたりが最後に結ばれることは、
メキシコがスペイン的な封建社会と革命戦争の混乱から
解放されたことを表わしている
んだろうと思う。

そう!だから、二人が結ばれる直前のペドロの娘とジョンの息子の結婚式で供された料理が、
メキシコ人が独立記念日に食べる「チレス・エン・ノガダ」だった
んだよ。





征服者スペイン人の悪政と混乱と終焉、アメリカの自由主義の侵入と台頭、
そんな中で生きていく先住民たち。

そういうことに対して、この映画は何を言いたかったんだろう。

ティタとペドロが最後に結ばれた小屋には、
料理のレシピがぎっしり書き込まれたノートが残されていた。



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●赤い薔薇ソースの伝説
(Como agua para chocolate(西)LIKE WATER FOR CHOCOLATE(英))

1992 メキシコ
上映時間:115分
監督:アルフォンソ・アラウ
原作:ラウラ・エスキヴェル
脚本:ラウラ・エスキヴェル
製作:アルフォンソ・アラウ
撮影:エマニュエル・ルベツキ、スティーヴン・バーンスタイン
編集:カルロス・ボラド
美術:Marco Antonio Arteaga
衣装デザイン:Carlos Brown
録音:Marcos Welch
音楽:レオ・ブラウワー
配給:日本ヘラルド
出演:ルミ・カヴァソス、マルコ・レオナルディ、レヒーナ・トルネ、ヤレリ・アリスメンディ、
   クローデット・メイル、マリオ・イヴァン・マルティネス、アダ・カラスコ ほか
受賞:第5回東京国際映画祭 最優秀主演女優賞、最優秀芸術貢献賞
   第65回(1993年度)アリエル賞(メキシコ・アカデミー賞) 作品賞を含む11部門全てで受賞
   1993年度英国アカデミー賞 外国語作品賞ノミネート
   第50回(1993年)ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞ノミネート



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 お気軽にご連絡くださ~い。

ナーバスとカタルシス ~ 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』



9.11 なので、それに関する映画を観てみようと思った。
(もう、過ぎちゃったか)
日本には、3.11 や広島の土砂崩れのことなんかがあって、
ひとんちのことどころじゃないけど・・・
それ系のやつは1本も観たことがなかったんだよ。

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」、このタイトルが曲者なんだよなー。
こういう、文学的というか哲学的という感じのタイトルには、
過去にさんざんひどい目に合わされてきてさ。
また、ああ観なきゃよかった、って思うのやだなーって感じて、
いつもなんとなく避けていたんだよ。

でも、これは観てよかった!
とても、いい映画だったなー。
ハリウッドだって、こんな映画を作るんだなあ。



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もし、自分が映画監督だったとして、9.11 や 3.11 について作品を作ってくれ、
って依頼されたら、どんなもんを作るだろう?

ドキュメンタリー?
目撃者や現場から脱出できた人のコメントや、遺族の想いを取り混ぜた
テロの政治的な背景や具体的な実行計画など、真実に糾弾した内容。

お涙ちょうだい系?
フツーの家族や恋人がテロに巻き込まれてしまって、悲しみに打ちのめされるやつ。

パニック系?
ビルが破壊されるようすや被害に合った人々それぞれのドラマ。
自分の命を犠牲にして、幾人かの人を脱出に導くヒーローがいる。

この映画は、そのどれでもなかった。
大ざっぱに言うと、“ヒューマンドラマ” だな。
9.11 とそれに巻き込まれた家族の悲しみを描いていて、ちゃんと泣されてしまうんだけど、
お涙ちょうだい系とはまったく違うと思うな。

少しシュールなキャラクター設定とその行動。

9.11とはあまり関係なくて、
9.11 をきっかけに気づく、始まる、もっと普遍的な “人間愛”
とでもいうものを描いているんじゃないかな。
政治的な問題の指摘や、宗教やイデオロギーの食い違い、ナショナリズム、
テロに対する直接的な批判なんて表現はまったく出て来ない。



主人公の男の子、オスカーはアスペルガー症候群というのを患っているんだな。
僕は全然くわしくないんだけど、自閉症の一種だそうだ。
知的障害はなくて、人によっては自分の興味のあることにはものすごく集中的で、
天才的な記憶力や計算能力を示したりする
らしいんだね。
ダスティン・ホフマンが演じた『レインマン』も、そういう能力があったよね。
(あれはアスペルガーではなく、自閉症ということになっている)
でも、集中力が緻密過ぎて、間違いや納得のいかないことが気になってしょうがない
という弊害もあるらしい。

だから、やはり自分の殻に閉じこもりがちで、他人とうまくコミュニケーションをとれない。
自分のことや自分の気になることにナーバスになってしまって、
他人の言うことやすることをちっとも聞いてない、見てない、
自分勝手な態度になる
らしいんだね。

この映画は、このことを理解しないで観ると、
ものすごく偏屈なガキがブラブラ歩いてばかりいる映画、
って印象になってしまうから要注意。(笑)


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この映画は、その子をあたたかく育てている家族があって、
その子が唯一うまくコミュニケーションのとれるお父さんが、
9.11 テロに巻き込まれて亡くなってしまうところから始まるんだよ。


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そんな病気だもんだから、
オスカーは破壊されたビルに閉じ込められたお父さんからかかって来た電話に出られなかった。
お母さんのファジーさもいよいよ許せない。
そんな大きな悲しみと後悔と混乱を抱えながらも、オスカーはつい昨日までお父さんとやっていた
“ニューヨークの幻の第6地区を調査するゲーム” を続ける。
これは、生前のお父さんが、オスカーの自閉性を少しでも改善しようとした遊びなんだろうね。

オスカーは、本当にお父さんは死んだんだという事実を受け入れられるようになるまで、
そのゲームを続けて時間を経過させるしかなかった
んだね。
そう、もし太陽がなくなっても、僕らがそれを認識できるまでに8分かかるのと同じように。
(太陽の光が地球に届くまで、8分かかる。劇中にそういう会話が出てくるんだよ)

そうこうしている内に、オスカーは、お父さんが残したものの中に、あるを見つけるんだよ。
その鍵は、お父さんが残してくれた何か大切な物を見つける “カギ” かもしれないし、
ゲームの答えを見つける “カギ” かもしれない。

で、オスカーはその鍵で開けられるモノを探して、毎日ニューヨーク中を捜し歩くんだよ。


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そして、それを見つけた先に待っていたものは・・・
言えねェ、言えねェ、もう言えねェ。

※ ここから先は、これから観ようと思っている人は観た後に読んだほうがいいかもしれません。



●オスカーのキャラクター設定について

この物語の展開に、オスカーがアスペルガー症候群である必要があるのか?
と評する人もいるみたいだけど、僕はその必要があったんだろうと思う。
それは、オスカーはニューヨークそのものを象徴していると思うからだ。

ニューヨークというところは、人種やビジネスや正義や悪やカルチャーのるつぼで、
あらゆることがそれぞれに集中的でハイスピードに動いているんだと思う。
善悪や利害がはっきりしているし、それぞれにパラノイックにクォリティが高いけど
それぞれに自分勝手で、それをぶつけ合うことで共存してる。
あらゆることが合理的かつ理論的に、テキパキ、ピリピリと神経症的に進行していく。
そう、まるでアスペルガー症候群のようだよね。

オスカーは、“鍵穴探し” を続けることで、結果、少し自分の心の殻を破ることになる。

理屈だけの頭でっかちでなく、自分の足で行動して、
実際にたくさんの人と接してコミュニケーションをとる
街には、いろいろな人がいろいろな喜びや悲しみを抱えて暮らしているけど、
自分勝手な人ばかりでなく、他人を思いやり助け合うことのできる人たちがたくさんいる
そして、大きくてあったかい家族の愛

そういうことを
アスペルガー症候群に病んでいるオスカーも、アスペルガー症候群的に病んでいるニューヨークの街も、
皮肉にも 9.11 のテロをきっかけに、思い知る。


だから、オスカーはアスペルガー症候群じゃなければならなかったんだよ。
そう、この映画のテーマはテロの批判ではなく、殻に閉じこもっている人や街の再生なんだから。


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“鍵穴探し” は、途中まで、向かいのアパートメントのおばあちゃんちに居候する謎の老人と一緒に。

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●『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』って、どういう意味?

うーん、難しいなあ。
このタイトルは、オスカーが作った “ニューヨークの幻の第6地区を調査するゲーム” の
調査日誌みたいなノートブックの表紙のタイトル
なんだよ。

この日誌は、9.11 テロでビルが燃えている絵を描いたページで終わっているんだけど、
それからすると、ゲームで探してる “ニューヨークの幻の第6地区” って、
崩れてなくなった世界貿易センタービルの跡地のことを言っているのか?って、想像してしまう。

そうなると、“ものすごくうるさくて、ありえないほど近い” というのは、
ひとつは、テロそのもののことだろうと思う。
飛行機が突っ込む音、救急車のサイレンの音、ビルが崩れる音、
それが、かなり身近なところで起こったということ。
これは、わかりやすい解釈だと思う。

それからもうひとつは、オスカーの頭の中で響いていた音のこと。
アスペルガー症候群の人がどんな幻聴を聴くのか、聴かないのか、僕にはわからないけど、
お父さんが亡くなってからオスカーを襲い続ける、悲しみや後悔や不安という騒音のようなもの
それが、ゲームが終わって父の死を受け入れられるようになるまで、
彼のそばでガンガン鳴り響いていたんじゃないかと。

それは、お父さんからの電話のコール音や留守電メッセージが、
ギンギンに拡声されて聴こえていたのかもしれないし、
イライラさせる街の喧噪が聴こえていたのかもしれないし、
他人と接するのがいやな病気なのに、たくさん訪ね歩いて鍵のことを聞いた相手の声が
オスカーの沈痛な心にノイジーに響いていたのかもしれない。



オスカーは近い将来、幻の「グラウンド・ゼロ」の原因を調査するゲームを始めるだろうか。



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9.11 同時多発テロで亡くなった方たちに合掌。
今後、テロや戦争や災害でたくさんの人が亡くなるようなことが起こらないようにするには、
僕らは何をすればいいんだろうね。





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●ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(Extremely Loud & Incredibly Close)
2011 アメリカ (2012 日本)
上映時間:129分
監督:スティーブン・ダルドリー
原作:ジョナサン・サフラン・フォア
脚本:エリック・ロス
製作総指揮:セリア・D・コスタス、マーク・ロイバル、ノーラ・スキナー
製作:スコット・ルーディン
撮影:クリス・メンゲス
音楽:アレクサンドル・デプラ
編集:クレア・シンプソン
美術:K・K・バレット(プロダクションデザイン)、ジョージ・デ・ティッタ・Jr(セット装飾)
衣装:アン・ロス
製作会社:スコット・ルーディン・プロダクションズ、パラマウント映画、ワーナー・ブラザーズ
配給:ワーナー・ブラザース
出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、マックス・フォン・シドー ほか
受賞:アカデミー賞 作品賞(ノミネート)/助演男優賞(ノミネート)
   放送映画批評家協会賞 若手俳優賞
   フェニックス映画批評家協会賞 若手男優賞/ブレイクスルー演技賞